
ダイナミック/リボン・マイク向けの仕様
CINEMAG製のトランスを搭載
Cloudlifter CL-ZIは、ダイナミック・マイクとリボン・マイクに向けたマイクプリと、楽器用DIが一体化した製品。ブルーのボディのトップ・パネルに2つのスイッチと1つのツマミが付いたシンプルなデザインで、コンパクトながらも程良い重量感があって頑丈そうです。先述の通り、駆動にはファンタム電源が必要。コンソールなどから供給したファンタム電源は、本機に接続したマイクには出力されないのでコンデンサー・マイクとは併用できませんが、リボン・マイク使用時には誤ってファンタム電源を送ってしまうことがないので、事故防止にもなります。内部には、アメリカを代表するトランス・メーカーCINEMAGのトランスを採用し、増幅回路は特許取得のクラスAディスクリートJFET回路となっています。
入出力はサイド・パネルにスタンバイ。入力端子の形状はXLR/フォーン・コンボとなっており、マイク用のXLR、楽器用のフォーン共に出力ゲインはスイッチで3段階から選べます。そして本機最大の特徴は、トップ中央にあるツマミで入力インピーダンスをスムーズに連続可変できること。パネル上の表示では150Ω〜15kΩとなっていますが、フォーン入力の際にはいわゆるHi-Z入力となり、通常のDIと同様に数MΩのハイインピーダンス・レンジで調整できます。
ツマミの左にあるHPFスイッチをオンにすると、−6dB/octの内蔵ハイパス・フィルターが使用可能。カットオフ周波数は、ツマミで入力インピーダンスと連動して設定することになり、インピーダンスを低い設定にするほど、より低域がカットされます。そのほかサイドにグラウンド・リフト・スイッチを備え、付属のストラップでマイク・スタンドなどに取り付け可能なため、ライブ現場などでのノイズ対策も期待できます。

入力インピーダンスを上げるほど
ワイド・レンジで倍音豊かな音色に
まずは、SHURE SM58を接続して男性ボーカルを録ってみます。出力ゲインはMAXにして、NEVE V3コンソールに立ち上げてファンタム電源を送り、コンソールのヘッド・アンプでもさらにゲインを上げます。クリアなサウンドで、音高による音質の差が少なく、低い音高のときでもソリッドに歌が前に出ます。また、音高が高くなっても声が細くなる感じがありません。ツマミを回して入力インピーダンスを高めていくと、3kΩくらいまでは音色の変化とともにレベルが上がっていき、それ以降はほとんどレベルが変化しないものの、音色はさらに変化していきます。入力インピーダンスを高くすればするほど、ワイド・レンジになって倍音も豊かな印象です。
次に、リボン・マイクRCA 77-DXでアコギを録ってみます。このマイクは出力インピーダンスを3種類から選択できますが、今回使用したものは250Ωに設定しています。Cloudlifter CL-ZIの入力インピーダンスを150Ωにしてみるとさすがにゲインが小さくなり過ぎたので、ツマミを上げていき、1.5kΩ辺りにすると十分なゲインを得られるようになりましたが、もう少し上げてみます。SM58のときと同様に、3kΩ以降はレベルがそれほど変化しませんが、8kΩくらいにすると望んでいた音色になりました。ノイズもなく、リボン・マイクのファットなキャラクターと本機の華やかなサウンドが合わさって、しっかりとした芯のある粒立ちの良い音で録れました。
最後に、DIとしても使用してみるために、キーボードを接続してみます。低域〜高域のバランスが良く、音の輪郭がハッキリしていて、抜けの良いサウンドです。中域に密度感がありますが、バッキングでコードを弾いたときにも中低域のたまりが少なく、音数が多いオケの中に混ざっても演奏している内容がよく分かります。
ツマミを回して入力インピーダンスを高くしていくと、より明るいトーンになって大きな音像に変化していきますが、どのポイントでもEQやコンプで作り込んだような音とは違い、素直で自然なサウンドなので、その後のミックスでも処理しやすそうです。マイクプリ/DIどちらの使用時にも入力インピーダンスのツマミはインピーダンス・マッチングだけでなく、積極的な音作りのツールとして使えます。


撮影:川村容一(expect*)
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年7月号より)