「RME ADI-2 DAC」製品レビュー:768kHzのPCMと11.2MHzのDSDを扱えるDAコンバーター

RMEADI-2 DAC
2016年、RMEが同社初のDSD対応オーディオI/O、ADI-2 Proを発表しました。その圧倒的な音質は、世界中のマスタリング・エンジニアに受け入れられています。今回登場したADI-2 DACは、ADI-2 Proで高い評価を得た再生機能はそのままに、アナログ入力を省きADI-2 Proの約3/4という価格に抑えた製品です。その意図は、いかなるものなのでしょう? 早速見ていきます。

最大120dBAの優れたSN比
独自のクロック技術でジッターを抑制

ADI-2 DACは、Mac/Windows/iOSに対応したUSB 2.0接続のDAコンバーター。先述の通りADI-2 Proからアナログ入力を省き、再生に特化した感を強めています。対応するフォーマットはPCM、DXD、DSDで、PCMでは最高768kHz、DSDでは最高11.2MHzの再生に対応しています。

本機の売りは、ライン・アウトL/R(XLR)などで最大120dBAのSN比を実現した圧倒的な高音質が、プロ・スタジオのみならず自宅のオーディオ・リスニングにおいても快適に味わえるよう作られているところでしょう。クラス・コンプライアント・モードを採用しているので、Mac/iOS環境で使用する際は特別なドライバーをインストールする必要がありません。またS/P DIFのデジタル入力(コアキシャル/オプティカル)を備えるため、DSDプレーヤーなどの外部再生機器をデジタル接続することが可能。もちろん、その再生音をDAWに取り込むこともできます。そしてRME独自のクロック技術、SteadyClockの最新版である“SteadyClock FS”を採用。内部クロック使用時はもちろん、いかなる外部クロックを併用してもジッターを抑制し、高精度なDA変換を行います。

ヘッドフォン・アウト(フォーン)にもこだわりが感じられます。アンプ回路は、最大出力レベル+22dBuのハイパワーでありながら120dBAという優れたSN比を実現し、あらゆるインピーダンスのヘッドフォンに対応できる特殊な仕様です。加えてIEM(イン・イア・モニター)用の回路と端子(ステレオ・ミニ)を別途装備。ヘッドフォン・アンプとしても超一級と言って過言ではないでしょう。

調整できるパラメーターとしては、基準レベルや全アナログ出力で使えるパラメトリックEQ、DSDダイレクト・モード(本体内でのPCM変換を経ずにDSDを再生するモード)など、RMEらしくプロのこだわりにも対応するものが用意されています。その一方で、ヘッドフォンでのステレオ感を補正するクロス・フェード機能やざっくりとしたEQであるBass/Treble、小音量時に低域と高域の出方を補正するラウドネス機能、手元で簡単に操作できるリモコンなどホーム・オーディオ的な機能も備えていて、全く死角がありません。

▲768kHzでの動作時にも使用可能な5バンドのパラメトリックEQ。部屋の音響特性に合わせて、スピーカーの出音を補正したいときなどに有用だ。ただし、DSDフォーマットのサウンドには使用できない ▲768kHzでの動作時にも使用可能な5バンドのパラメトリックEQ。部屋の音響特性に合わせて、スピーカーの出音を補正したいときなどに有用だ。ただし、DSDフォーマットのサウンドには使用できない

奥行きを感じさせるライン出力の音質
パワフルで立体的な音のヘッドフォン端子

AVID HD I/OとRME Fireface 802、ADI-2 DACの3つをスピーカーにつないで、ライン・アウトの音を聴き比べてみました。まずはこれらをMacのシステム環境設定>サウンドで切り替えつつ、APPLE iTunes内のMP3ファイルを再生。本機に切り替えた瞬間……ああ、もうここで開いた口がふさがらなくなりました。古い漫画に例えると、アゴがガーンと床まで落ちていった感じ。たかだかMP3なのに、各機の再生音に大きな差が出ていたからです。勝負になりません。

HD I/Oは、ADI-2 DACに比べると超低域と超高域に不自然なエッジの強調を感じます。また、特に違うのが音の立体感。ADI-2 DACでは前に出てくるべき音がグンと前に来て、後ろにある音との距離がよく見えます。十分だと思っていたHD I/Oの音の奥行きが浅く感じられるほどです。Fireface 802についてはHD I/Oよりもエッジ感が自然で、少しADI-2 DACと似ているものの、比較するとリッチさに欠ける印象。これでも相当良い音だと思っていたのですが、ADI-2 DACの性能がよほど高いのでしょう。

今度は96kHzのWAVファイルを再生。もちろん3機種共すごく良い音で聴こえるようになったのですが、HD I/OとFireface 802はスピーカーの真ん中が少し引っ込んだような音に聴こえます。それに対してADI-2 DACは中低域の肉付きも良く、本当に色付けが無い、立体感のある太い音です。

環境をWindowsに移して、今度はDSDファイルをメインに試聴。ソースとしては、moraで買った藤倉大さんの現代音楽曲、そしてDSD128(5.6MHz)とDSD256(11.2MHz)、96kHz PCMの3種類のフォーマットで購入したTOMA & MAMI with SATOSHIさんの楽曲。再生に用いたソフトはINTERNET Sound It!です。

まずは藤倉大さんの楽曲をCDとDSDで聴き比べてみると、もはや比べる意味が無いほど、DSDでは空間の広さや音像の大きさ、臨場感がつかめます。TOMA & MAMI with SATOSHIさんのDSD128とDSD256については、いずれも本っ当に音が良いのですが、やはりDSD256の方がより良く聴こえますね。DSD128で完成された作品に、もう一筆入った感じが見えてきます。一方96kHzは、ほかを聴かなければこれで十分完成された良い音だと感じるでしょうが、本機で聴き比べるとパーカッションのエッジに少しだけデジタルの四角い波形が見えてきそうな感じがしました。そしてPCMの特徴なのでしょうか、やはり奥行きが平坦に感じられます。

ヘッドフォン・アウトもチェックしていきましょう。僕はあまりヘッドフォン・マニアではないので、手持ちのSONY MDR-CD900STとJVC・VICTORのイン・イアー・モニター、そしてAPPLE iPhoneの付属イヤホンを使用しました。どれも出力が大きく、頭の中で鳴っている音の粒がしっかりとしていて、やはり普段と大きな差があります。MDR-CD900STは、シャリシャリとした音があまり好みではないのですが、マイルドな立体感が加わり聴きやすくなりました。ADI-2 DACは、ヘッドフォン・アンプとしても恐るべしと実感しました。

本機は音に色付けが感じられないために、DSDでは本当にSSLやNEVEの卓アウトを聴いている錯覚に陥ってしまいます。レビュー執筆のための試聴比較なのに、自分の好きな曲だと小一時間ずっと聴き続けて、今まで見えなかった音の細部に没頭してしまいました。皆さんにお薦めする以上に、僕が一番先に買いたくてたまらない製品です。

▲リア・パネルには、左から電源端子やUSB 2.0端子、S/P DIFイン(コアキシャル、オプティカル)、ライン・アウトL/R(XLR、RCAピン)がレイアウトされている ▲リア・パネルには、左から電源端子やUSB 2.0端子、S/P DIFイン(コアキシャル、オプティカル)、ライン・アウトL/R(XLR、RCAピン)がレイアウトされている

link-bnr3

撮影:北村勇佑

サウンド&レコーディング・マガジン 2018年7月号より)

RME
ADI-2 DAC
オープン・プライス(市場予想価格:150,000円前後)
▪接続:USB 2.0(USB 3.0互換) ▪対応OS:Mac/Windows/iOS ▪オーディオ入出力数:デジタル2イン/アナログ2アウト ▪SN比(XLRライン・アウト):最大120dBA (@+7/13/19dBU) ▪周波数特性(XLRライン・アウト):0Hz〜44.9kHz(−0.5dB、@96kHz)、0Hz〜109kHz(−3dB、@768kHz) ▪全高調波ひずみ率(XLRライン・アウト):−112dB、0.00025 %(@−1dBFS) ▪クロック:インターナルもしくはS/P DIF入力からの外部クロック ▪外部クロックのジッター抑制:50dB以上(2.4kHz) ▪外形寸法:215(W)×52(H)×150(D)mm ▪重量:1kg