LOAD機能で色付けできるMPDI-4
独自設計のEQを搭載したMPEQ-1
MPDI-4とMPEQ-1には、クラスAのディスクリート回路をはじめとして共通する特徴が多いです。マイク・ゲインは、レンジが−60〜−10dBで5dBステップ。48Vのファンタム電源や−20dBの入力PAD、位相反転スイッチといった標準的な機能も押さえています。マイク・インなどの入出力端子は基本的にリア・パネルに集約されていますが、フロントにも別途XLR/フォーン・コンボのマイク/DIインがあり、それを使う場合は自動的にリアのマイク・インがキャンセルされます。そのほかフロントにVUメーター、リアにはグラウンド・リフト・スイッチもスタンバイ。
また入出力トランスを入れるか/入れないかなどで、入力モード3種類と出力モード2種類を組み合わせられるため、幅広いサウンドを作れるのが大きな魅力です。ちなみに、入力トランスについてはUTAがカスタムで開発したものとなっています。
次に各機種に固有の特徴を見ていきましょう。MPDI-4では出力に−10dBのPADが用意されています。ただし、このPADと位相反転スイッチは、出力のトランスがオンのときのみ有効なので、注意が必要です。LOADと書かれたスイッチは、取扱説明書によると、本機の後段に入力インピーダンス600Ωの機材(UREI 1176やTELETRONIX LA-2Aなどのビンテージ機器に多い)を接続する際に使うもの。オンにすると高調波ひずみがビンテージのマイクプリに近いものになり、スムーズで厚みのある音が得られるそうです。
一方、MPEQ-1は同社独自デザインの4バンド・パラメトリックEQとハイパス/ローパス・フィルターを搭載。マイクプリ/DI部とEQ部は、それぞれ独立したプロセッサーとして使用できます。±10dBの連続可変トリム・ノブ(スイッチでバイパス可能)はEQ回路への入力音量を調整するもので、EQ部を独立して使用する場合に入力ゲイン・トリムとして機能するのも使い勝手が良いです。
両機ともにくっきりとした力強い音
トランスのオン/オフで音色調整可能
今回バンドを録る機会があったので、MPDI-4にキックのオンマイクSENNHEISER MD421、スネア・トップのオンマイクSHURE SM57、アコースティック・ギターのオンマイクAKG C451、さらにベースのライン信号を立ち上げてみました。また、MPDI-4の後段にはコンプを接続。キックとスネアに1176、ベースにはLA-2Aを使っています。その上で、MPDI-4の入出力トランスやLOADスイッチをいったんすべてオフにして、録音してみました。
出音を聴いてみると、どれも輪郭がしっかりとしていて音像が大きく、力強さがあります。とりわけスネアにマッチしていますが、キックは多少アタックが強い印象だったので、LOADスイッチをオンに。そうすると求めていたようなサウンドが得られました。ベースについては、LOADをオフにした方が今回の曲に合う印象。しかし、もう少しラインがはっきり見えるとなお良さそうだったため、入力モードをNoX(トランスレス)からHIに切り替えたところ、思い通りの結果になりました。リボン・マイクを使う場合を除くと、入力トランスで色付けしたいときはこのモードが最適です。
アコギはストローク時に力強さを感じられ、アルペジオでは粒立ち良く聴こえます。ただし少し高域にチリつく感じがあったので、入力モードはNoXのままで出力モードをXfrmr(トランスあり)にすると落ち着きました。入出力モードのスイッチは、どれにすると良いというわけではなく、ソースやほかの機材との相性、求める音像によって適宜選ぶのがよいでしょう。
続いて、女性ボーカルを録るためにMPEQ-1へNEUMANN U87AIを立ち上げます。基本的なキャラクターはMPDI-4と似ていて、音がしっかりと前に来る感じがあり、それでいてピーキーではなく素直です。歌をバンドとなじませるために、EQ部を使ってみましょう。
多くのEQでは、ピーキングとシェルビングの各タイプは選択式で、最初にどちらかを選ぶ必要があるものですが、本機ではSHAPEノブを回すことでピーキングとシェルビングが連続可変するのが便利。ポイントも探りやすく、スピーディに設定できました。今回は補正程度に使用しただけですが、ノッチ・モード時には最大で−50dBのカットが行え、ハイパス/ローパス・フィルターではレゾナンスを作ることも可能なので、積極的な音作りにも使用できそうです。
MPDI-4/MPEQ-1共に音にしっかりとした芯があり、入出力トランスの組み合わせによって、現代的な音像からビンテージライクなサウンドまで幅広い音作りが可能。多くの人に試してもらいたい製品です。基本的なキャラクターは似ていると言えるので、使用環境に応じてどちらかを選択するだけでなく、複数台を組み合わせて自分なりのコンソールに仕立て上げるというのも良さそうです。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年5月号より)
撮影:川村容一