Chihei Hatakeyamaが使う Studio One 第4回

 第4回 Hatakeyamaサウンドの真髄! “ギター・ドローン”の制作工程

こんにちは。PRESONUS Studio One(以下、S1)の連載を担当しているChihei Hatakeyamaです。今月は筆者の連載の最終回ということで、曲作りの核であるギター・ドローンの制作方法やミックスの手法を紹介します。

外部エフェクターとS1のリバーブで
ドローン・サウンドを創出

今回はより実践的にお伝えすべく、この記事のために参考曲「Guitar Drone For S&R」を作りました。ギター・ドローンを中心としたアンビエント曲で、24ビット/44.1kHzで制作。サンプリング・レートに関しては、低いと感じる方も居ると思います。96kHzで作業していた時期もあるのですが、高域の解像度は高いと感じるものの音が奇麗過ぎてパンチが足らないように思えました。不思議なもので、44.1kHzの方が雰囲気を出せる場合もあるんですね。ビット/サンプリング・レートも、固定概念にとらわれず自分の好みに合わせて探求してみてください。

それでは楽曲を見ていきます。トラックは全部で5つ。ギター・ドローンが3tr、ELECTRO-HARMONIX MEL9(MELLOTRON Mellotronの音が出せるギター用エフェクター)のフルート音が1tr、そして連載の初回で紹介したS1標準装備の音源Presence XTのボイス・サンプルが1trです。

▲今回の記事のために作った参考曲「Guitar Drone For S&R」の全トラック。YouTubeにて試聴できるので、聴きながら読み進めてほしい ▲今回の記事のために作った参考曲「Guitar Drone For S&R」の全トラック。YouTubeにて試聴できるので、聴きながら読み進めてほしい

まずはメインのギター・ドローンを取り上げます。ギター・ドローンはプラグインだけで作る方法もありますが、今回はギター用のコンパクト・エフェクター+S1の標準搭載プラグインで制作。ギタリストの足元にはたくさんのコンパクト・エフェクターが並んでいて、敷居が高いように感じるかもしれません。そこで今回は、ギター初心者、もしくは普段はシンセやDAWしか使っていないという読者の方にも手を出しやすい方法を採りました。これは、ソフト・シンセを外部のエフェクターに出して加工するときの参考にもなると思います。

録音方法からたどると、ギター・ドローンを作るときはギター・アンプとマイクを使ってレコーディングするよりもライン録りの方が良い結果を得られることが多いです。使用したのは、ELECTRO-HARMONIX Superego(フリーズ)とEVENTIDE Space(リバーブ)、S1のRoom Reverb(リバーブ)。コンパクト・エフェクターをつなぐ順番は、ギターからSuperego→Spaceというもので、Room ReverbはS1のミキサー・チャンネルに挿します。まずはSuperegoについて。本機では、そのときに鳴っている音を一瞬だけサンプリングし無限に引き伸ばすことができます。これでドローンはある意味すぐにできてしまうのですが、そのままだと同じ音が延々と鳴っているだけになり、時間的な変化が望めません。そこでリバーブと組み合わせることにします。残響を加えることで、瞬間的に起こる音の変化を緩やかな変化にしていくわけです。

▲ギター・ドローンの制作において核となるコンパクト・エフェクターELECTRO-HARMONIX Superego。ギターをサンプリングして引き伸ばすことで、ドローンの基礎となる音を作り出せる ▲ギター・ドローンの制作において核となるコンパクト・エフェクターELECTRO-HARMONIX Superego。ギターをサンプリングして引き伸ばすことで、ドローンの基礎となる音を作り出せる
▲Superegoの後段に接続したリバーブ、EVENTIDE Space。アルゴリズムをホールに、リバーブのディケイを10s程度に設定した ▲Superegoの後段に接続したリバーブ、EVENTIDE Space。アルゴリズムをホールに、リバーブのディケイを10s程度に設定した

設定は、Spaceの方でリバーブの減衰時間を20sくらいにし、さらにRoom Reverbでも減衰時間を10s程度にセット。この状態でギターを弾きながら、Superegoのオン/オフをタイミング良く切り替えるとサンプリングする音を変えていけるので、時間的/音楽的な変化を加えることができます。ポイントとしては、 Superegoにはドライ音とエフェクト音のそれぞれのボリューム・ノブがあるので、ドライ音12時/エフェクト音11時くらいのバランスにしておくとちょうど良いと思います。またSpaceについては、ホール・モードがお薦め。モジュレーションのバランスなどが良いあんばいです。

▲S1に標準搭載されているプラグイン・リバーブRoom Reverb。空間のモデルや空間内の人数、音の減衰、反射面の滑らかさなど、さまざまな条件をパラメーターとして制御できる。今回の曲では、ギター・ドローンに10s程度の減衰を加えるために使用 ▲S1に標準搭載されているプラグイン・リバーブRoom Reverb。空間のモデルや空間内の人数、音の減衰、反射面の滑らかさなど、さまざまな条件をパラメーターとして制御できる。今回の曲では、ギター・ドローンに10s程度の減衰を加えるために使用

S1の中では、Room Reverbの後段に標準搭載のイコライザーPro EQを挿して、音質を若干補正。60Hz付近を若干カットし、ギターの倍音が詰まっている600Hz辺りを持ち上げます。さらに今回、高周波ノイズを生かす方向で使いたいため、5kHzや10kHzをブースト。これでギター・ドローンの基本的な設定は終わったので、あとは自由に演奏するとよいかと思います。ちなみに、この処理は、S1標準搭載のMai Taiなどに応用することも可能。実際のところ私も、Superegoはソフト・シンセやアナログ・シンセで使うことの方が多いです。

▲ギター・ドローンに使用したS1純正のイコライザー、Pro EQ。低域を少しカットしつつ、中〜高域の3つのポイントをブーストしている ▲ギター・ドローンに使用したS1純正のイコライザー、Pro EQ。低域を少しカットしつつ、中〜高域の3つのポイントをブーストしている

Presence XTの声ネタを
“汚し系”のエフェクトで味付け

次にPresence XTのボイス・サンプルについて。Presence XTの音は、そのまま使うと奇麗過ぎると思うのでノイズなどを加えて汚します。使用ツールは、こちらも外部のコンパクト・エフェクターとS1のプラグイン。前者についてはELECTRO-HARMONIX Cathedral(リバーブ)とSTRYMON Timeline(ディレイ)です。Cathedralは“大聖堂”という意味で、ネーミングが良いですね。プラグインとは違い音の輪郭がかなりあいまいになるので、気に入って使っています。筆者は2台のパソコンを使っているため、1台目で鳴らしたPresence XTをCathedral→Timelineに通した後、2台目のS1に録音しています。しかし、一般的には1台で作業するでしょうから、外部のエフェクターをセンド&リターンで使う際にはS1標準装備のプラグインPipelineを使用すればいいでしょう。レイテンシーの補正に役立ちます。

▲参考曲のボイス・パートは、S1標準搭載のサンプル・プレイバック音源Presence XTのプリセット“Ahhs”から制作。こちらもドローンと同じく、外部のコンパクト・エフェクターとS1のプラグイン・エフェクトを組み合わせて音作りしている ▲参考曲のボイス・パートは、S1標準搭載のサンプル・プレイバック音源Presence XTのプリセット“Ahhs”から制作。こちらもドローンと同じく、外部のコンパクト・エフェクターとS1のプラグイン・エフェクトを組み合わせて音作りしている
▲S1標準搭載のユーティリティ・プラグイン、Pipeline。S1から出力された信号が外部のハードウェア・エフェクトを通ってS1に戻ってくるまでのレイテンシーを補正する。これにより外部エフェクトをプラグイン的な感覚で使用することが可能 ▲S1標準搭載のユーティリティ・プラグイン、Pipeline。S1から出力された信号が外部のハードウェア・エフェクトを通ってS1に戻ってくるまでのレイテンシーを補正する。これにより外部エフェクトをプラグイン的な感覚で使用することが可能

さて、ボイス・サンプルをコンパクト・エフェクターで加工した後は、S1標準搭載のBitcrusher(ビット・クラッシャー)とFatChannel XT(ビンテージ機器のシミュレーションなどを含むチャンネル・ストリップ)で処理。S1がバージョン2から3になったとき、こういった“汚し系”のプラグインが充実しました。Bitcrusherは“8-Bit Analog”というプリセットを元に微調整。主に高域のノイズの調整に使っています。S1標準搭載のエフェクトのプリセットにはかなり実践的なものが多いので、選んでから好みに合わせて調節していくと、時間の短縮にもなっていいと思います。

▲S1標準搭載のひずみ系エフェクト、Bitcrusher。オーバードライブ、ビット・レート・リダクション、ダウン・サンプリング、クリッピングなど、さまざまな効果が得られる ▲S1標準搭載のひずみ系エフェクト、Bitcrusher。オーバードライブ、ビット・レート・リダクション、ダウン・サンプリング、クリッピングなど、さまざまな効果が得られる

FatChannel XTもかなり良く、音に味が出ます。今回はTubeComp(TELETRONIX LA-2Aを模したコンプ)とPassive EQ(PULTEC EQP-1Aを再現したEQ)を使いました。Passive EQではBoostとAtten.(カット)という相反するパラメーターを同時に上げることで好みの音に調整。今回は100Hz辺りのカットと10kHz周辺のブーストに使いました。また最後に、Pro EQで500Hzと1kHzを軽くブーストしています。これらの作業でビンテージ感のある音色になり、ギター・ドローンとの相性も良くなりました。

▲FatChannel XTに含まれるPassive EQは、かの有名なビンテージ・パッシブEQを意識した仕上がり。低域と高域の各バンドにブースト専用ノブとカット専用ノブが備えられ、両方を一緒に持ち上げると(つまりブーストしつつカットも行うという相反する処理)独特のカーブが得られる ▲FatChannel XTに含まれるPassive EQは、かの有名なビンテージ・パッシブEQを意識した仕上がり。低域と高域の各バンドにブースト専用ノブとカット専用ノブが備えられ、両方を一緒に持ち上げると(つまりブーストしつつカットも行うという相反する処理)独特のカーブが得られる

以上、駆け足で見ていきましたが、今回で私の連載は終了です。少しでも何か音楽制作のヒントになるようなことがあれば幸いです。ありがとうございました。

*Studio One 3の詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/