「FMR AUDIO Really Nice Tracking Combo(E)」製品レビュー:自宅録音の音質向上を狙ったマイクプリとコンプレッサーのセット

FMR AUDIOReally Nice Tracking Combo(E)
FMR AUDIOは、低価格で高品質なステレオ・コンプ、その名もRNC(Really Nice Compressor)1773で宅録界にフィーバーを巻き起こしたブランド。発売当初、海外サイトのフォーラムなどでも盛んに話題にのぼっていたので気にはなっていましたが、レコーディング・スタジオでは見かけたことがなかったため未体験でした。今回は、そのRNC1773の音質を向上させたモディファイ版RNC1773(E)と、同社2chマイクプリRNP8380のモディファイ版RNP8380(EE)、両者を接続するためのTRSフォーン・ケーブルをセットにしたReally Nice Tracking Combo(E)をチェックしていきたいと思います。

マイクプリはディスクリート回路設計
コンプは2つの動作モードを搭載

まずは2chマイクプリのRNP8380(EE)を見ていきます。本機は単体で87,000円となっており、その価格帯では珍しくクラスAのディスクリート回路で構成されています。通常このクラスのプリアンプにはICが使われているものなので、その点から見てもRNP8380(EE)は一線を画した仕様です。また、ハイエンド機に見られるようなステップ式のゲインを採用。GRAYHILL製のスイッチによって、±0〜+66dBを+6dB刻みで切り替えることが可能です。

各チャンネルの入力端子は、フロント・パネルのHi-Zイン(フォーン)とリア・パネルのマイク・イン(XLR)。どちらを生かすかは、マイクロ・プロセッサーで自動判別される仕様です。リアにはバランス接続のライン・アウトやインサート端子(両方TRSフォーン)もスタンバイ。このインサート端子とコンプRNC1773(E)のライン・イン(フォーン)を同梱のTRSフォーン・ケーブルでつなげば、RNC1773(E)をインサートして使えます。そのほか、フロントに逆相スイッチや48Vのファンタム電源スイッチ、クリップなどを監視するためのLEDがあります。

▲RNP8380(EE)のリア・パネルには、各チャンネルのマイク・イン(XLR)やライン・アウト、インサート端子(いずれもTRSフォーン)などが並ぶ ▲RNP8380(EE)のリア・パネルには、各チャンネルのマイク・イン(XLR)やライン・アウト、インサート端子(いずれもTRSフォーン)などが並ぶ

RNC1773(E)は2つの動作モードを搭載したVCAコンプで、単体だと32,500円で発売されています。コントロールの幅は、スレッショルドが−40〜+20dBuでレシオが1:1〜25:1、アタック・タイムが0.2〜200msでリリース・タイムは0.05〜5s、アウトプット・ゲインは±15dBで連続可変です。ほかには8つのLEDによるゲイン・リダクション・メーターとバイパス・スイッチ、ノーマルとスーパー・ナイス・モード(後述)の切り替えスイッチを装備。ライン・イン/アウトはフォーンでアンバランス接続ですが、先述の通りライン・インとRNP8380(EE)のインサート端子をTRSフォーンのケーブルでつなぐと、RNP8380(EE)のバランス・アウトからコンプのかかった信号を出力可能。これにより、マイクプリ+コンプのシステム全体がバランス接続になるというメリットが得られます。さらにRNC1773(E)は、サイド・チェイン端子も備えています。

▲RNC1773(E)のリア・パネル。各チャンネルのライン・インとライン・アウト(いずれもTRSフォーン)、サイド・チェイン端子などが配置されている ▲RNC1773(E)のリア・パネル。各チャンネルのライン・インとライン・アウト(いずれもTRSフォーン)、サイド・チェイン端子などが配置されている

色付けやノイズを感じないマイクプリ
脚色せずにピークを抑えられるコンプ

今回はRNP8380(EE)のマイク・インにNEUMANN U87を接続し、ボーカルとアコースティック・ギターを録音。また、Hi-Zインにはベースをつないでサウンドをチェックしました。レコーダーとして使ったのは、AVID Pro Tools|HD 12.8とHD I/Oの組み合わせです。

まず目を引いたのは、ファンタム電源がソフト・スタートになっていること。オンにしてからじわじわ立ち上がるので安全です。いけないと思いつつも、試しに録音状態でファンタム電源のオン/オフをしてみました。普通はバチっと音が鳴りますが、本機は無音で電源が入ります。親切設計で好印象です。

では、ボーカルとアコギのサウンドからチェックしていきましょう。結論から言うと素晴らしくクリーンで密度もあります。普段使っているNEVEやAPIのマイクプリとは全く違う音で、それらがいかに味付けされた音であるかを意識させられました。クリーンではあるもののツルツルした感じや痛さは無く、重心は高めですがクリーミーな印象。味的な要素は無いので、ひとまずこれを使って録音しておき、プラグインなどで加工するようなプロダクションに向きそうです。

一方、Hi-Zインから録ったベースは少し高域寄りで、フュージョン系のハイファイなイメージ。ただ、レンジが広く芯もあるので、EQなどで補正すれば広く使える音だと思います。

今回チェックしたのは(E)バージョンだったので、高級機と比べてもノイズが少ないと感じました。同じクラスのマイクプリは、ビンテージっぽい音を目指す中でトランスや電源のチープさが浮き彫りになってしまうことも多いのですが、RNP8380(EE)はこの価格帯で実現できるベーシックを追求しているようなサウンドです。非常に好感が持てました。宅録だとノイズが多くて困るという話をよく聞きますが、実は自宅環境のノイズ以上に低価格な機材のセルフ・ノイズが強いことも多々あります。その問題は、本機を使えば一瞬で解決するでしょう。

次にコンプのRNC1773(E)。これはかなり特殊な製品ですね。VCAをマイクロ・チップでコントロールしたり、スーパー・ナイス・モードでは内部で3層のコンプ回路をレイヤーすることで“多段がけ”を行います。両方とも、数十万円クラスのバス・コンプに備わっている機能ですね。なぜ、この価格帯のコンプにそうした機能があるのか不思議でなりません!

音色の方はと言うと、やや重心が下がるものの、ほとんど原音に近い印象です。コンプで音を作るというよりは、原音のイメージを変えずにピークを抑える方面で優秀。RNP8380(EE)とセットで使えば、安心してクリーンなサウンドを録れると思います。正直、チェックする前はこのクラスでこんなに使える音だとは思いませんでした。コスト・パフォーマンスも加味して、“Really Nice”と言わざるを得ない出来栄えです!

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サウンド&レコーディング・マガジン 2018年5月号より)

FMR AUDIO
Really Nice Tracking Combo(E)
119,500円
●RNP8380(EE)/マイクプリ ▪チャンネル数:2 ▪ゲイン・レンジ:±0〜+66dB ▪クリッピング・レベル:+26dBu ▪等価ノイズ・レベル:−120dB ▪全高調波ひずみ率:0.0005% ▪重量:795g ●RNC1773(E)/コンプレッサー ▪チャンネル数:2(ステレオ) ▪スレッショルド:−40〜+20dBu ▪レシオ:1:1〜25:1 ▪アタック・タイム:0.2〜200ms ▪リリース・タイム:0.05〜5s ▪アウトプット・レベル:±15dB ▪重量:695g ●共通 ▪外形寸法:142(W)×43(H)×160(D)mm(突起部を含む)