「WAVES Bass Slapper」製品レビュー:多彩なアーティキュレーションに対応するスラップ特化型ベース音源

WAVESBass Slapper
WAVESと言えば老舗のプラグイン・エフェクト・メーカーですが、近年はソフト・シンセや生楽器系シミュレーション・ソフトもリリースしています。比較的低価格ながらも充実した内容で、私も愛用者の一人です。そんなWAVESからエレキベース音源のBass Slapperが発売されました。エレキベースに特化した音源は他社からも発売されていますが、Bass Slapperはスラップ奏法のみに絞り込んだという粋なこだわりを持った音源になっています。

3,700に及ぶサンプルを収録
弦ごとのスラップ/プル切り替えも可能

Bass SlapperはMac/Windowsに対応しており、AAX/AU/VSTで動作するほか、スタンドアローンでも使用可能です。プラグイン以外にサンプル・ライブラリーが必要になるので、Webサイトからダウンロードしましょう(1GBの通常版と4.9GBの高音質版の両方が入手可能)。Bass Slapperを立ち上げると、画面内にモダンなルックスの5弦ベースが表示されます。選択できるエレキベースはこの1種類のみで、イスラエルのセッション・ベーシスト、オー・ルビアニカーの演奏を録音した3,700に及ぶサンプルを収録しています。RICKEN BACKERベースやHOFNERのバイオリン・ベースでスラップするシチュエーションは絵的にも音質的にもあまり無いと思いますし、私はこの1種類でも十分だと感じました。

肝心の音ですが、びっくりするくらいリアルな質感です。画面上のベース本体に付いているVINTAGE/MODERNというつまみで音のキャラクターを調整可能で、MODERNに振り切ったときの生々しく攻撃的な硬い音、VINTAGEに振り切ったときのメロウで甘くソウルフルな音、ともにほれぼれしてしまいました。特にこだわりがなければ別途アンプ・シミュレーターを用意する必要も無い完成度だと思います。そのほか、弦ごとのスラップ/プル奏法の切り替え、オクターブ下の音やリリース・ノイズの追加、ローブーストといった便利な機能も充実しています。画面右上のパラメーターではラウンド・ロビンやベロシティ・カーブ、レガート・モードなども細かく調整可能です。

キー・スイッチでポジションや奏法を変更
ペダル・タイプのエフェクト7種類も用意

Bass Slapperがシミュレートしているのは5弦ベースなので、最低音であるB0まで再生可能です。それ以下のC0までの音域は奏法の切り替えなどのキー・スイッチとして動作します。キー・スイッチでは左手のフレット・ポジションの変更や、E/A/D/Gの音を常に開放弦で鳴らすようにする機能などが使用でき、音程が無いパーカッシブなゴースト・ノート、摩擦音やスライド、ハーモニクスなどの効果音も再生できるなど至れり尽くせり。合計93種類の機能/効果音をキー・スイッチに割り当てられます。レガート・モードの変更を割り当てればトリルやタッピングなどにも対応でき、先述の機能と組み合わせるとリアルなチョッパー・ベースのシミュレーションがマニアックな次元まで行えます。

▲キー・スイッチで演奏ポジションの変更やハーモニックス、スライド、ミュートなどの演奏が可能。鍵盤マークを押すと表示されるKEYSWITCH EDITOR画面で、93種類の機能をC0〜A#0のそれぞれのキーに割り当てることができる(画面中央) ▲キー・スイッチで演奏ポジションの変更やハーモニックス、スライド、ミュートなどの演奏が可能。鍵盤マークを押すと表示されるKEYSWITCH EDITOR画面で、93種類の機能をC0〜A#0のそれぞれのキーに割り当てることができる(画面中央)

搭載されたアンプ・シミュレーターは10インチ×8のキャビネット仕様となっています。BASS/LO MID/HI MID/TREBLEの調整のほか、アンプ・シミュレーターを通らないドライ音との出力バランスも設定可能です。

エフェクトはコンプ、オーバー・ドライブ、ワウ、フェイザー、コーラス、ディレイ、リバーブが画面下に配置されており、必要十分なものがそろっている印象。ペダル・タイプの分かりやすいパラメーターなので直感的に素早く操作できます。ギター用ペダル・エフェクト・プラグインもリリースしているメーカーだけあって、サウンドも納得できる仕上がりです。ちなみに空間系エフェクトであるディレイとリバーブはアンプ・シミュレーターの後に、それ以外はアンプ・シミュレーターの前にルーティングされています。その辺りの配慮も抜かり無しといったところですね。

Bass Slapperはトーン調整、エフェクト、アンプ・シミュレーター、リミッター機能のオン/オフが可能です。これらをオフにすることで、CPU使用率を下げることができます。参考までに私の動作環境でのCPU使用率を紹介しましょう。2016年製のAPPLE MacBook Pro(2.9 GHz INTEL Core I7)+AVID Pro Tools|HD 12.1という環境で4.9GBの高音質ライブラリーを立ち上げると、前述の機能をすべてオフにした状態で5〜6%、フルに使って35%前後になりました。必要な機能だけ使えばCPUの負担をかなり軽くできますね。

私の場合、楽曲を通してチョッパー・ベースのみという打ち込みのアレンジは過去に例が無いのですが、アクセントととして16分裏へ打ち込んだり、オカズ的なフレーズを考えてシンセ・ベースと混在させたりといった使い方はよく行っています。今までは、高音質なサンプルをぜいたくに用いたベース音源でもスラップの打ち込みっぽさがどうしてもぬぐえないことがありました。その打ち込みっぽいニュアンスがダンス・ミュージックでは逆に面白かったりもしましたが、Bass Slapperはひたすら生のニュアンスを追求した音源になっています。リアルな響きを必要とする作曲時にBass Slapperはとても重宝するプラグインになりそうです。

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サウンド&レコーディング・マガジン 2018年3月号より)

WAVES
Bass Slapper
8,300円
【REQUIREMENTS】▪Mac:Mac OS X 10.10.5以降、INTEL Core I5以上、8GB以上のRAM ▪Windows:Windows 7以降、INTEL Core I3以上またはQuad CoreのAMDプロセッサー、4GB以上のRAM ▪共通項目:8GBのハード・ディスク空き容量、1,024x768以上の解像度を持つディスプレイ(1,280x1,024または1,600×1,024を推奨)