
低域を制御する“ACOUSTIC SPACE”
高域は±2dBのブースト/カット可能
まず、ボディの外観は高級感があるブラックで統一されており、多角形を意識したデザインがとてもかっこいいですね。フロント・パネルにあるLEDライトは、電源スイッチをオンにするとグリーンに点灯し、どこか近未来的なイメージを連想させます。ちなみに本体の重量は、4.6kg/1本ととても軽く、女性でも簡単に持ち運ぶことができるでしょう。
入力はTRSフォーン、XLR、RCAピンと3系統。ACOUSTIC SPACEスイッチ、HIGH FREQ FILTERスイッチ、入力レベルを調節するノブなども、すべてリア・パネルに分かりやすく配置してあるので、これなら説明書無しでも簡単にセッティングができそうですね。
特に注目すべきは、ACOUSTIC SPACEスイッチの実装です。宅録ユーザーの場合、どうしても壁のすぐ近くや部屋のコーナー部分にしかスピーカーを置けない状況が出てくるかと思います。しかし、そのようなときこそ、このスイッチ。A〜Cのプリセットで低域をそれぞれ0/−2/−4dBとコントロールすることができるので、設置環境に合わせて最適なサウンドを実現することが可能です。
また、HIGH FREQ FILTERスイッチは高域を±2dBブースト/カットするので、高域の余分な跳ね返りなどにも対応できます。まさに、この2種類のスイッチを組み合わせれば、ルーム・アコースティックにとらわれることなく、最適なサウンドでモニタリングがで可能ですね!
ダイナミックな低域と明りょうな高域
広範囲のスイート・スポット
さて、実際にMR524を自宅スタジオに設置し、その性能をチェックしてみましょう。壁にぴったりくっつけた机の上に、MR524をインシュレーターやスピーカー・スタンドなどを一切使わずに“直置き”で使用してみたのですが、かなり低域がだぶついて聴こえました。ここでリア・パネルに搭載されたACOUSTIC SPACEスイッチの出番です。現在の設置状況と同じ状況の図(ここではプリセットB=HALF SPACE)を選択してみたところ、先ほど気になっていた低域のだぶつきがスッキリし、中高域はよりクリアに聴こえてモニタリングしやすくなりました。
楽曲制作において使用してみたところ、高域から低域までしっかりと音が鳴るため、ジャンルを問わずさまざまな音楽制作に十分に使えるでしょう。また、周波数特性は45Hz〜20kHz(−10dB)ですが、そうは思えないくらい低域はダイナミックなので、ダンス・ミュージックなどで重要なキックの重量感やコンプのかかり具合などもよく分かり、オケ全体のミキシングも行いやすくなりました。
全体的な出音はタイトで、音の届くスピードが速い印象。音の定位感も正確にとらえやすく、楽器一つ一つのサウンドをしっかりと聴き取れるので、中高域と低域の住み分けなどをより明確に処理することができました。また、MR524はボーカルのミキシングにも最適。耳にとって不快な4kHz付近やボーカルで割れがちな200〜500Hz付近がダイレクトに聴き取れるので、耳に痛い帯域や足りない帯域を迷うことなくイコライジングすることができます。ひずませたエレキギターやピアノ、ブラスなどの中域も、表情豊かで最高ですね。100〜200Hz付近はとてもフラットに聴こえるので、各楽器の埋もれがちな帯域をピンポイントに聴き分けることができます。人によってはローエンド付近が少し物足りないと思う方もいるかもしれませんが、その際は同シリーズのサブウーファー、MRS10を併用すると申し分ないかと思います。
ちなみにリスニングのスイート・スポットは広範囲で、スピーカーの位置や高さ、またスタンドなどにも頼ることなく、正確な音をモニタリングできたことにも驚きました。
今回MR524を使用してみて、全体的な出音のバランスが良くタイトに聴こえる印象を受けました。音像には立体感があり、高域は明りょうで低域には存在感と迫力を感じます。特に、EDMやヒップホップなどの低域にシビアな音楽を制作している方にはお薦めしたいスピーカーですね! コスト・パフォーマンスも良く、場所を選ばずに使用できるので、宅録ユーザーやこれから音楽制作を始める方にもぜひ手にしていただきたいと思いました。

撮影:川村容一
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年1月号より)