
EMI Redd.47をモデルにしたD4
RCA BA2Cを元にアレンジしたDA2
D4の元となっているのはEMI Redd.47。かのアビイ・ロード・スタジオにてザ・ビートルズ、ピンク・フロイドなどのレコーディングを支え続けたRedd.51コンソールのプリアンプとして採用されていたものである。Redd.51コンソールは、ザ・ビートルズの使用で有名なアビイ・ロード・スタジオの2stに1964年1月に導入され、1968年11月にEMI TG12345コンソールにバトンを渡すまでの約5年弱コントロール・ルームに鎮座していたことになる。よって“ビートルズ・サウンド”の大部分はこのプリアンプによって作られたものだと言えるだろう。
Redd.47は、34/40/46dBの3段階で調整可能なゲイン・ノブとFINE GAIN SETノブを備えていたのだが、D4はそれらを踏襲しながら現代仕様にブラッシュアップ。フロント・パネルには、20〜60dBの12段階ステップ・ゲインとトリムの大きなノブを2つ搭載し、左端には−20dBのPAD、位相反転機能、48Vファンタム電源の各スイッチとHi-Z入力用のフォーン端子が並ぶ。リア・パネルにはアナログ入出力(XLR)を搭載している。
一方、DA2の元となるのがRCA BA2C。1950年代の放送や映画などの録音で使用されていた万能プリアンプだ。BA2Cの外観は、ゲイン・ノブのみを搭載した筐体の上に6X5-GT/G真空管、1620真空管×2、トランス×3、コンデンサーなどがむき出しで林立しており、質実剛健なたたずまい。DA2も同じく入力ノブのみで、右隣にはアナログVUメーターを備えている。また、フロント・パネル左端にある各スイッチやHi-Z入力、リア・パネルの入出力などはD4と同様の構成となっている。
D4は中域の密度が高いサウンド
DA2は低域から高域まで伸びやか
今回の試聴環境では、アコギと男性ボーカルをAKG C414 XLIIで受け、D4/DA2をそれぞれ経由しAVID Pro Tools | HDXで録音し検証するという方法を用いた。
まずはD4。パッと聴いてみて気付くのは400Hz辺りの太さで、音源のキャラクターやコード感の充実にかかわるこの中低域を確実にとらえる振る舞いに、音楽的なアプローチを感じた。また、100Hz以下の低域はしっかりと表現されつつも、ブーミーになり過ぎないようほどよく整理されている。先ほど感じた“音楽的”中低域からつながる中域も、音の芯となる1.5kHz辺りが顕著。この帯域は男女にかかわらずボーカルの肝となるので、最終ミックスにおけるボーカルの存在感アップに貢献するであろう。中高域からハイエンドに関してはナチュラルな印象。嫌味なギラつきもなくスムーズに音が伸びていくので、EQ処理を施すにしても神経質になる必要はない。
特筆すべきはそのひずみぶりである。やや上級テクニックになるかもしれないが、先述したゲインとトリム・ノブで精細な入力信号の調節ができるので、クリップ具合も細かくコントロールすることが可能。それにより、真空管特有の温かいひずみを簡単に得ることができるのだ。深くひずませてラウドなサウンドを目指すも良し、ほど良くひずませて倍音を得る使い方でも良いだろう。この“アナログの一番おいしい部分”を自由にコントロールできるというメリットは、我々エンジニアにとって武器になる。
DA2の第一印象はとことんハイファイ。90〜150Hz辺りの低域の表現力が素晴らしく、太くつややかである。そこから高域までは、何のストレスもなくフラットな音像が得られる。D4が中域をがっちり表現するのに対して、DA2は中域のピークを優しく包み込むといった印象。声を張ってみても詰まった感じはせず“伸びやかなボーカル”を得るには持ってこいだ。12kHz辺りに若干の張りが感じられるが決してザラついたものではなく、キラキラとした明るさに貢献しているという感じ。アナログVUメーターがあるのでゲイン設定が視覚的に行いやすく、ヘッド・ルームも広いのでDA2はひずませるのではなくワイド・レンジな音色を得るのに向いているだろう。
今回試聴した2製品は、設立者の狙いである“ビンテージ・レコーディング機器のクローン製作”といううたい文句通り、元にした機器のキャラクターを上手に踏襲していると感じた。D4はイギリスらしく中域の密度が高くパンチがある音色で、DA2はワイドで伸びやかなアメリカン・サウンド。どちらも音楽的な個性があり、操作もシンプルに行えるのでどんな音源にも幅広く使えるだろう。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年1月号より)