
オーディオ/MIDIインターフェースを搭載
オリジナルの特徴をよくとらえたサウンド
D-05は、ROLANDから1987年に発売されたデジタル・シンセD-50を再現したモジュールです。D-50は、デジタル波形のアタック成分(ワンショットのPCMサンプル)とアナログ波形のサステイン成分を合成して音作りするモデル。筆者は1988年生まれで、1990年代に聴いた多くの曲でこのシンセのサウンドが使われていました。当時リアルタイムにD-50を使用していたわけではなく、実機も所有していませんが、音楽制作をするようになって1980〜90年代のサウンドを再構築しようとしたとき、D-50的な音色の再現に何度もトライしました。だからこそ今回D-05を試して、“あのとき苦労して作っていた音が簡単に出せる!”と、ちょっと悔しい思いをしています。
D-05の本体を見てみましょう。単三電池×4本で動作し、リア・パネルにはMIDI IN、OUTやステレオ・ミニのオーディオ・イン&アウト、ヘッドフォン・アウトが付いています。USB端子も備えられ、Mac/Windowsに接続すると本体に内蔵されたオーディオ/MIDIインターフェース機能を使用可能。DAWソフトとの併用も容易です。またこのUSB端子で、バス・パワーの供給も行えます。
音については、僕自身も含め、伝説的なプリセットの数々から作っていくという方がほとんどではないでしょうか? 90'sの楽曲、あるいはそのオマージュ的な作品を聴いていると、D-50のプリセットそのまま(!)というサウンドもよくありますしね。D-05のプリセットは、トップ・パネルのPATCH BANK1〜8ボタンでバンクを選んだ後、PATCH NUMBER1〜8ボタンで音色を選択するという流れでロード。バンク1の最初にあるのは、かの有名なベル系の“Fantasia”です。これはROLANDのほかのシンセにもプリセットとして受け継がれているので、聴いたことがある人は多いでしょう。そしてさすがはD-50の再現機。D-05のFantasiaはよりオリジナルに近く、幻想的で、やや機械的な感じの独特のサウンドです。
どのプリセットも魅力的なのですが、特に印象深いものとして“Orchestra Hit”を挙げてみます。最近のソフト・シンセのオケヒには、音の重厚感こそあるものの、抜け過ぎていたり鋭過ぎるものが多い印象。しかしD-05のオケヒはまさに80's的で、良い意味でチープとも言える絶妙な質感を再現しています。ブラス系やベル系のプリセットも、やはり80's的にきらびやか。しかも程良くリアルではない感じがあり、“シンセらしい音”がします。
コンパクト・ボディにシーケンサーを備え
ライブにも適する一台
先ほど触れた通り、D-50のサウンドは後に発売された多くのROLANDシンセにもプリセットされています。例えば、昨年発売されたROLAND Anthology 1987というソフト・シンセにも備わっているのです。Anthology 1987は、操作系が扱いやすくサウンド・クオリティも素晴らしいのですが、同じD-50のプリセットを再現したものでもD-05の音には少し違う印象を受けます。D-50はデジタルとアナログの波形を組み合わせる方式だったわけで、異質な音が混ざり合うことにより、より音楽的なサウンドを生み出していたのかもしれません。D-05では、その雰囲気まで踏襲されていると思います。
最近のビンテージ・モデリング系のソフト・シンセには、音単体を実機と聴き比べてみても区別が付かないものがたくさんあります。しかしオケ中で鳴らすとなぜか浮いてしまうことがあり、結局使いどころが無くなることも多いのです。その点においても、D-05の音は実際にオケの中でポイントとして機能しそうです。
D-05は、楽曲制作だけでなくライブでの使用にも向いていると思います。オリジナルには無かった64ステップのポリフォニック・シーケンサーなどが搭載され、サイズがコンパクトなので、持ち運びにも苦労しないでしょう。またROLANDからは、K-25MというBoutiqueシリーズ専用のミニ・キーボードも発売されています(写真①)。最近はコライト(共作)などの現場も多く、スタジオやちょっとしたスペースに機材を持ち寄って制作することも多くなりました。その際、多くは持っていけないので音源類は大体ソフトになるのですが、D-05とK-25Mならサイズ感がちょうど良く、サウンド的にも良いアクセントになるため、制作の幅が広がりそうだと感じます。
D-50のように革新的なシンセがどんどん出てきた1980年代終盤にうらやましさを感じつつ、D-05も素晴らしいと思います。リアルタイムでD-50を使ったことがない若いクリエイターにとっては、“どこかで聴いたあの音”を手元に置いて、そこからまた新しい音楽を作ることができるのですから。


(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年1月号より)