
攻めの処理やひずみの味付けが行える
Pro Series Matching EQ
Pro SeriesはMac/Windowsに対応し、VST/AU/RTAS/AAX Nativeプラグインとして動作します。まずPro Series Matching EQには3つのステレオEQ=Digital EQ、Passive EQ、Tube EQが同梱されています。Digital EQは5バンドEQにロー/ハイパス・フィルターを加えたもので、ほかの2つに比べてフレキシブルな構成ですが、音は一筋縄では行きません。存在を感じさせないEQというよりは、ツマミを回した分だけ加工感が出る個性的な仕上がりです。ミックス・バスに挿して高域を持ち上げると、フワッというよりジャキッと前に出てきました。各DAWの付属EQよりも攻めに向く印象ですね。
Passive EQはL/Rの各チャンネルに独立した3バンド・コントロールを備え、入出力には真空管アンプ・モデリングを搭載しています。ツマミをいじっていくと、サラっと耳なじみ良く音が変化。位相の乱れも感じられますが、総じて音楽的で、イギリスのスタジオの音がします。そして2種類備わった真空管アンプのモデリング。“6L6GB”という方を選んだところ、グッとレベルが下がりました。インプットで聴感レベルをそろえてオン/オフを聴き比べると、オンのときには中域が張り出して聴こえます。ピークが抑えられ、ドラムでは余韻が持ち上がり、ボーカルは生々しく存在感が増しました。もう一方の“EL34”も同様で、下がったレベルをインプットで調整。トーン変化はわずかだと感じますが、より落ち着く印象です。両者を比べると、6L6GBはインプットをドライブさせることで低域が締まり、ギラっとした成分が張り出します。粗野にひずむ感じではないところが、非常に好印象。使える機能です。
そしてTube EQ。真空管モデリング・オンの状態で立ち上がりますが、レベルの変化はありません。低域と高域のブースト&アッテネートの“Hi/Lo”、低域ブースト+中域アッテネート+高域ブーストの“Mid”(画面①)の2セクションを切り替えられ(同時使用も可能)、何らかのEQとPULTEC MEQ-5を組み合わせたモデリングかなと思ったのですが、音の印象は結構違います。Hi/Loではジェントルな調整が可能で、Midではドラスティックな変化が得られます。Midで高域をブーストしたときのカサっと持ち上がる感じ、位相のひずむ感じは近いなと感じました。
以上3つのEQにはMatch機能(サイド・チェイン入力された信号の周波数分布を適用する機能)も搭載されています。ただし、どれも個性的なかかり方なので、似せる機能については他社製品に分があるかと思います。

再現性の高さと独自機能を両立した
Pro Series Compressor
Pro Series CompressorにはFET Compressor、Optical Compressor、Tube Compressorの3種類が同梱されています。まずはクラシックなFETコンプを再現したというFET Compressorから。ドラム・バスに挿したところ、パコーンとかかる様子にニヤっとさせられました。深くかかったときに音のくぐもる感じがよく再現されています。また、持ち上がってくるハイハットのひずみ感も秀逸。この種のプラグインでは一番かもしれません。
Optical Compressorは往年のオプト・コンプのモデリングで、インプットの真空管やキャパシターなど4種類のパーツ・モデリングを切り替えながらの音作りが可能。それぞれに3〜4つの選択肢が用意されています。再現元とおぼしきアウトボードと同様、コンプレッション時の音色変化が少なくオールマイティに使えそうですが、ここまで作れる音の幅が広いオプト・コンプは見たことがありません。パーツを替えることで得られる変化は、イコライジングで作れるものではありませんね。トランジェントや飽和感の変化など、いろいろなことが音に作用します。
Tube Compressorに切り替えてみます。おっと、音量が小さくなりました。インプットを上げて聴感レベルを合わせてみると、音量と一緒にエネルギー感も増していきます。ちょっとひずみ成分がキツいかな?と思いましたが、真空管モデリングをオフにするとなじみのある耳あたりに。前に張り出す感じやドラムに深くかけたときのパツンパツン感は、よくできていますね。
Pro Seriesは、昨今よくあるクリアな音質のプラグインとは真逆の音の変化が楽しめます。いずれもCPU負荷が低く、ドラムの全チャンネルに挿せそうな仕様。若干ユーザー・フレンドリーでないと思うところもありますが、画面右上のFeedbackボタンを押せばサポート・センターへE-Mailを送れます。音が個性的なので、今後のアップデートでより良い製品と成長することに期待します。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年11月号より)