
膨大なサンプルとモデリング技術を融合
モダンなビンテージ・サウンドを生み出す
まずはSyntronikのポイントを簡潔に説明しましょう。コンディションを吟味したシンセサイザーやストリング・マシンの実機を丁重にマルチサンプリングしており、その50GBものサンプルがSyntronikの心臓部に当たります。これだけでも貴重なビンテージ・シンセサイザーのライブラリーとしてかなり魅力がありますが、単にサンプルをプレイバックするだけではありません。後述のDRIFT機能で自然な揺らぎを付加し、定評あるモデリング技術によるフィルターとエフェクトで細密な調整から大胆な加工まで可能。最大4音色をレイヤー/スプリットできる機能やアルペジエイターなども搭載し、ビンテージ・シンセの再現ではなく、ユーザーのニーズに応じた“モダンなビンテージ・サウンド”を手軽に作ることができるのがSyntronikの魅力であり、個性なのです。
総サンプル数が70,000を超えているサウンド・ライブラリーは、質と量の両方がトップ・クラス。定番のMOOG MinimoogやSEQUENTIAL Prophet-5はもちろん、ROLANDやYAMAHA、PPGのシンセなど、さまざまなサウンドを網羅しています。サンプリング・ソースとなっている機種は38種類なのに、なぜインストゥルメントは17種類なのか……それは、同じメーカーのサウンド・キャラクターが近い製品を1つのインストゥルメントとしてまとめられているからです。例えば、ROLAND Jupiter-8/Jupiter-6/Jupiter-4のサンプルはJ-8というインストゥルメントとして収録されています。
先述したDRIFTとは、1音ごとに音色やピッチだけでなく、位相なども微妙に変化させることで、アナログ回路の特徴である“揺らぎ”を加える機能です。サンプリングやモデリングだけでは単調になりがちなフレーズに、有機的な揺らぎと表情を与えてくれます。同じ音程が連続するベース・ラインやシーケンス・フレーズなどでその違いが認識しやすいでしょう。
名機のフィルター回路をモデリング
インストゥルメントとの組み合わせも自在
回路レベルから解析/モデリングされて作られたフィルターはSyntronikの大きな魅力です。Minimoog、Jupiter-8、Prophet-5、OBERHEIM SEMという歴史的な名機に搭載されていた4種類の代表的なアナログ・フィルターのほか、デジタル・フィルターも用意。バイパスも含めて、フィルター・セクションには計8種類の選択肢があります。これらのフィルター切り替えはどのインストゥルメントでも行えるので、MinimoogのオシレーターにSEMのフィルターを使う……なんて組み合わせも自在にできます。
エフェクターは、1つの音色ごとに最大5つまで自由に選択して使用できます。特にアンプ・シミュレーターなどのひずみ系と、シンセには欠かせないコーラスなどのモジュレーション系が充実しているのがありがたいです。
レイヤー/スプリットは音作りにおいて大きなポイントになります。例えば、同じ音色をレイヤーし、それぞれデチューンやフィルター、コーラスなどの設定を微妙に変えると、より厚みのあるサウンドが簡単に作れます。また、ノート/コード・アルペジエイターと併用すれば、ビンテージなトーンや質感を持ちながらも、かなりアグレッシブでモダンなフレーズも容易に作成することが可能です。
再現性で勝るサンプリングと、表現力で勝るモデリングを1つの音源に融合させたのがSyntronikです。サウンドに表情があり、中低域に弾力を感じるふくよかな音色が、今までのサンプル・ベースの音源には無い特徴と言えます。50種類のプリセットを厳選したフリー版もありますので、ぜひ試してみてください!


(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年10月号より)