「ROLAND SE-02」製品レビュー:STUDIO ELECTRONICSと共同開発したアナログ・モノシンセ

ROLANDSE-02

ROLAND Boutique Designer Seriesのラインナップとして新たにリリースされたアナログ・モノフォニック・シンセ、SE-02を紹介しよう。Boutique Seriesといえば、ROLAND歴代のシンセを驚くほどコンパクトなスタイルに再現して一世を風靡(ふうび)したことが記憶に新しい。そして今回登場のSE-02だ。資料によればSTUDIO ELECTRONICSとのコラボによるものだという。シンセ・マニアとしては、SE-02とはSTUDIO ELECTRONICS SE-1の血統を受け継ぐものでは?と期待が高まる。

前置きが長くなった。簡潔に言えば今回のBoutique Seriesは、長きにわたりMOOG Minimoogのクローン技術を蓄積してきた米国アナログ老舗メーカーSTUDIO ELECTRONICSと、世界のシンセ・ブランドROLANDがタッグを組んでリリースした進化系Minimoogクローンである。従来のBoutique Seriesと共通化したことにより、別売りの専用キーボード・ユニットK-25Mや、専用ドックDK-01も利用可能となっている。

名機の機能を踏襲しながら
3タイプのクロス・モジュレーションを搭載

まず先入観無しに音を聴いてみよう。この小さな本体から信じられないほど太く密度の濃い音がすることに困惑して、一瞬手が止まるほどの衝撃だ。低音はズシリと重く、高音は伸びやかで透き通っている。MIDIによる鍵盤演奏を試すと、モノシンセならではの鋭い立ち上がりの出音に感心する。まさにこれはディスクリートで構成された回路から生み出される真のアナログ・サウンドだ。

スペックは、6種類のウェーブフォームを備えた3基のオシレーター、ノイズ・ジェネレーター、ミキサー、24dB/Octのローパス・フィルター、VCA、2基のエンベロープ。3基目のオシレーターがモジュレーション・ソースとして使えるようにキーボード・フォローを解除できたり、周波数もLFOレイトまでサポートしている点もオリジナルMinimoogのスタイルを踏襲している。想像するに、この小さな筐体に名機Minimoogをディスクリートで詰め込むにはSMD(Surface Mount Device:表面実装部品)パーツによる設計が必須であるが、あえてビンテージ・パーツにこだわらずにタイトでファットなMOOGサウンドを実現したコンセプトに脱帽だ。

SE-02には128個のユーザー・パッチがあり、プリセット・パッチは384個内蔵している。順に試してみると実に多彩な音を鳴らせるのが分かる。さらにSE-02は単なるオリジナルMinimoogのクローンでは無く、3タイプのクロス・モジュレーション(XMOD)やテンポ・シンク可能なデジタル・ディレイ、ステップ・シーケンサーといった新たな機能が搭載され、使い手の心をくすぐる。

まずXMODセクションでは、オシレーター1&2の矩形波にオシレーター3でPWM(パルスワイズ・モジュレーション)がかけられる。またオシレーター2の波形でフィルターにFM変調も可能。つまりオシレーター3でオシレーター2にFM変調をかけられるわけだ(写真①)。FM変調はアナログ・シンセシスの代表的なテクニックであるが、金属的な倍音のある音や、パーカッシブなノイズ音を作る際に重宝する。

スクリーンショット-2017-09-25-20.34.40 ▲写真① OSCILLATORとXMODのセクション。XMODには、3つのつまみが用意されており、パルスワイズ・モジュレーションやFM変調が行え、金属的な倍音を持つ音やパーカッシブなノイズ音を作ることができる

そのほか、GLIDEカーブの変更や、LFOセクションにあるGateによるLFOリセット、ワンサイクルのみ有効にするモードもなかなかマニアックな仕様だ。例えばこのワンサイクルLFOをオシレーターのピッチにかけてみよう。LFO RATEをかなり速めに設定してサイン波やノコギリ波で大胆にピッチを揺らすと、アタックの部分のみに強い変調がかかり、トランペットの破裂音とでも言おうか、面白いリード・サウンドが簡単に作れる。

マニアックと言えばMIXERセクションにあるFEEDBACKツマミも重要だ。解説すると、これは1970年代からMinimoogのサウンド・プログラミングの隠し技として存在するテクニックで、当時のやり方は本体のヘッドフォン・アウトとEXT INをパッチして、出音を再びフィルターに戻しフィードバックさせるというものだった。この手法によりフィルター回路でオーバーロードが生じ、荒々しいオーバードライブ効果を得ることができる。SE-02はそのための内部回路が用意されていて、最終段にあるDELAYエフェクト手前のソースをフィードバックさせている。

ちなみにSE-02本体にもヘッドフォン・アウトがあるので、試しに昔の方法でEXT INPUTにパッチしてみた。もし同じように試す機会があったら、FEEDBACKツマミは0にしてオシレーター1基でサウンドを確認してほしい。アナログ・マジックとでも言おうか、不思議なことにFEEDBACKツマミを上げたときとは違った太めのうま味成分が加味される。SE-02を使い倒したいならこの手法もぜひオススメだ。

MIDIクロック/トリガー入力と同期可能な
16ステップ・シーケンサーを装備

ステップ・シーケンス機能について述べよう。モノフォニック・シンセ+ステップ・シーケンサーという組み合わせは、シンセサイザー・アートの原点だと言っても過言では無い。それはキーボード・シンセによる鍵盤プレイや、アルペジエイターによる演奏とは別の次元にある、最もシンセらしい表現だと思う。古くはタンジェリン・ドリーム的なミニマル・パターンから、近年ではダンス・ミュージックにおけるアシッド・パターンまで、万人は反復するシーケンス・パターンのとりこになる。まるでDNAに語りかけてくるような不思議な感覚。大事なポイントはそこにアナログ的な揺らぎや倍音があることだ。この条件をもってして反復パターンは最強の効果を生むのである。

本機に話を戻そう。SE-02のステップ・シーケンス機能は入力方法も簡単でよくできている。GateレングスやGlide、Swing設定などパラメーターも豊富だ。反復パターンも多彩で、これをスイッチングするだけでシーンを展開できる。フィルターやEMPHASISをいじりながら有機的な動きを与えていけば、アナログ・シンセである本機の出音と相まって永遠ループの世界に浸れること間違いなしだ。もちろん外部機器との同期設定も完ぺきに用意されている。まずはMIDI同期であるが、マスター/スレーブともに可能。ちなみにリズム・マシンと同期演奏を試してみたが、ROLAND TB-303にも通じるニュー・アシッド・システム誕生の予感がした。

同期方法はMIDIだけではない。背面にあるTRIGGER IN/OUT端子に注目してほしい。SE-02のシーケンスを走らせることで、ワンステップごとにTRIGGER OUTからプツプツというパルス信号を出力する。この信号をクロック信号としてモジュラー・シンセのClock Inに送ると、極めてアナログ的な手法であるが同期が可能になる。また逆にTRIGGER INにパルスを入力すればSE-02のシーケンスがスレーブとなって走る。1980年代初頭、デュラン・デュランが手弾きシンセでアルペジエイターを録音する際、マルチテープに録ったパルス信号をシンセのClock Inに入力して同期させていたという。シンセの歴史は同期の歴史とも言える。

再度言うがSE-02は完全なアナログ・シンセである。それは電圧制御可能なオシレーターやフィルター、アンプリファイアーの集合体でありTriggerから出るプツプツした音も立派な電気信号なのだ。

多彩な入出力端子を搭載し
幅広い音作りに対応

ここで、SE-02の背面にあるOSC、GATE、VCFを制御可能なCV IN端子を使って電圧制御で試してみよう。普通に考えれば外部アナログ・シーケンサーからのCV制御を行うという例が妥当だが、SE-02本体には既にシーケンス機能があるので、ここでは本体のみで実現可能な裏技的なアプローチを紹介する。

背面のTRIGGER OUTからVCF CV INにパッチしてみよう。FILTERのCUTOFFをかなり絞り込みCONTOURも初めはゼロで。こうしてシーケンスを走らせると、ビートが進むたびにATTACKのタイミングでフィルターが瞬間的に開くローパス・ゲート風のサウンド・アプローチができる。次にフィルター・エンベロープのアタックを少し遅めにしてCONTOURを徐々に上げていくと、TRIGGERから受けた電圧とエンベロープからの電圧がミックスされシーケンスに面白い動きが生まれる。ぜひ試してみていただきたい。補足であるが外部CVでオシレーターのピッチを制御する場合にはPATCHモードにスイッチする必要がある。

以上SE-02の機能や可能性について足早に書いてみたが、トータルな印象として、このリトル・モンスターのポテンシャルはかなり高い。それは単にMinimoogクローンとしての完成度に対する評価だけではなく、前述したようにステップ・シーケンサーと組み合わせた際に生み出される音楽的喜びや高揚感を生み出すことのできる、とても奥深いプロダクツだと思う。シンセサイザーの原点=The Synthとは、アナログ回路によるモノフォニックだということを、再認識させてくれるシンセであった。

スクリーンショット-2017-09-25-20.35.00 ▲リア・パネル。左から、DCイン、電源スイッチ、USB、MIDI OUT、IN)、TRIGER(OUT/IN)、INPUT(CV/GATE/VFC CV)、EXT INPUT、OUTPUT、ヘッドフォン(以上ステレオ・ミニ)、の各端子とボリュームを備えている

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サウンド&レコーディング・マガジン 2017年10月号より)

ROLAND
SE-02
オープン・プライス(市場予想価格:60,000円前後)
▪シンセシス:アナログ(VCO×3、VCF×1、LFO×1、EG×2、ミキサー×3、ノイズ)、OSC3はLFOとしても使用可 ▪ウェーブフォーム:三角波、ノコギリ波、三角波+ノコギリ波(OSC 1、2のみ)、反転ノコギリ波(OSC 3のみ)、矩形波1~3 ▪最大同時発音数:1 ▪プリセット・パッチ:384(128×3バンク) ▪ユーザー・メモリー:パッチ×128、パターン×128、ソング×16 ▪エフェクト:ディレイ ▪付属品:ACアダプター、電源コード、取扱説明書 ▪別売り品:キーボード・ユニット(K-25M)、Boutique Dock(DK-01) ▪外形寸法:300(W)×46(H)×128(D)mm ▪重量:950g