
Cubase Pro 9の完全上位互換に
Game Audio Connectも強化
Nuendo 7で搭載されたGame Audio Connectをはじめ、昨今のSTEINBERG製品はゲーム・サウンド開発に対してかなり本腰を入れてバックアップをしていこうという気概が感じられます。Cubaseが音楽制作、Nuendoがポストプロダクション、というすみ分けをさらに進化させ、Nuendo=ポストプロダクション+ゲーム・サウンドDAWとして、ほかのDAWとの差別化を図って、戦略的に展開していくのではないでしょうか。ちなみに“すみ分け”と言いましたが、Nuendo 8は、Cubase Pro 9との完全上位互換性を有しています。
そんなSTEINBERGの思惑がきっちり反映された、ゲーム・オーディオにかかわるアップデートを主に見ていきたいと思います。
まずGame Audio Connectがバージョン2となりました。AUDIOKINETICのゲーム・オーディオ・ミドルウェア、Wwiseへ簡単に音素材を登録し、ワークフローを改善する目的で作られた機能です。
ゲーム・サウンドの大きな特徴として、“インタラクティブであること”が挙げられます。つまり、ユーザーの操作により“次に何が起こるか分からない”状態でサウンド・メイキングをする必要があります。映像に対してのMAや作曲では、素材となるものをトラックに配置して制作していきますが、ゲーム・サウンドではそのようなタイムライン的な作業は難しいのです。
では、どうするかというと、ゲームに登場する膨大なすべての音素材をバラバラに管理し、各音要素に対して“このケースではこの音をこういうように鳴らす”というふるまいを条件付けしていく必要があります。従来のワークフローでは、音素材はDAWで制作し、素材の管理は表計算ソフトとバッチ処理、音の条件付けはゲーム・オーディオ・ミドルウェアと分けて作業をしていたので、手数も多くミスも発生しがちでした。
そこで登場したのがNuendo 7で搭載されたGame Audio Connectです。当初は主に効果音に焦点を絞った作りになっていましたが、今回のアップデートではゲームで利用されるインタラクティブ・ミュージックにもその機能の幅を広げてきました。従来Wwise上でインタラクティブ・ミュージックの仕込みをするためには、ステムで書き出した波形を元に、テンポ情報やマーカーを手動で入力していく必要がありました。これがなかなか大変で、膨大な曲数を扱わなければならないゲームのコンポーザーにとっては非常に時間と根気の要る作業でした。
今回のアップデートでは、Nuendo上のサイクル・マーカーをWwise上のマーカーとしてそのまま利用できるようになりました(画面①)。これにより作曲からWwise実装まで一括で行え、ワークフローが劇的に改善。ゲームのコンポーザーの皆様は涙を流して喜ぶことでしょう!

オーディオ・イベントのリネームも
テキスト・ファイルを元に瞬時に行える
ゲームで利用するWAVファイルは、総計数万〜数十万個に上ります。従来はそれらを1ファイルごとにリネームしておりました。もちろん、そんな地道な作業は正直やっていられないので、いったん書き出したファイルをMICROSOFT Excelなどを利用してリネーム・バッチを作ったりと、何とか時短しようと日々努力を重ねたものです。しかしこれらの作業は、ミスするとかなり前の工程まで戻ってやり直ししなければならないリスクもはらんでいました。
しかし、今回の新機能が入ったことによって、Nuendo上で膨大な波形ファイルのリネームが完了してしまうのです! 例えば、ボイスの台本に通し番号、波形名、セリフなどの情報があり、それがデータになっていれば、CSVファイルやタブ区切りテキスト・ファイルとして情報を書き出します。それをNuendo 8でインポートすればよいのです(画面②)。もちろん、サウンドをプレビューしながら確認できますし、やり直しも簡単なので安心してリネームすることができます。設定項目も、“○ms以下の長さのオーディオ・イベントは無視する”など、かなりかゆいところまで手が届く親切仕様になっています。

これで膨大なファイル・リネームの作業が劇的に改善するので、ゲーム・サウンド・デザイナーの皆様は涙を流して喜ぶことでしょう!
ニュアンスの異なる素材を簡単に作成
ダイレクト・オフラインで処理負荷低減も
効果音というのは、同じサンプルを連続で鳴らしてしまうとかなり不自然な印象になります。例えば同じ足音が何度も連続再生してしまうと、“歩いているリアリティ”に欠けてしまいます。
ゲームではユーザーの操作で同じ音が再生される可能性が非常に高いので、その際に発生する不自然さをカバーするために、ランダムに選択されるバリエーションを用意します。ただ、効果音制作時にランダム・バリエーション分の音ネタを確保することは、実は難しかったりするんですね。
そんなときは、新機能のRandomizer(画面③)。Pitch、Impact(トランジェント)、Color(音色)、Timingという4項目のバリエーションを生成してくれます。

なお、Randomizerをはじめ、オーディオに対するプロセッシングもかなりのアップデートがありました。ダイレクト・オフライン・プロセッシングという、インサート・エフェクトと破壊処理の中間のような感じの処理方法が追加されたのです。インサート・エフェクトは再生中に処理負荷がかかります。また、破壊処理は不可逆なので一度かけたらアンドゥ以外では戻れません。このダイレクト・オフライン・プロセッシングは、各イベントに対して設定したプロセス(エフェクト処理)をしてオーディオを書き換えて実行しつつ、元のイベントはキープしているので、再生時の処理負荷をかけません。かつ、設定したプロセスはいつでも変更修正が可能。つまり両方の良いとこ取りをしたような機能なんですね!
しかも、複数のオーディオ・イベントの同時編集や、同時編集したいイベントの一部にだけ有効な変更修正なども可能です。さらにうれしいことに、サード・パーティ製VSTも利用できます! 素晴らしい!
また、STEINBERGではWindows用APPLE QuickTimeサポート終了を受けて、QuickTimeに依存しない形での動画再生エンジン開発が進められていました。それが今回のNuendo 8に新たなビデオ・エンジンとして実装されています。現状対応されている形式としては、コンテナがMOV/AVI/MP4で、コーデックがDV/DVCPro/MJPEG/PhotoJPEG/H.263/H.264/ProRes、別途ライセンスが必要ですがAVIDのDNxHD/DNxHRへの対応も可能となっています。
ビデオ機能がNuendoに最適化されたことにより、MA作業時のレスポンスがかなり向上しています。特に映像用にマシン・スペックを強化せずとも、ルーラーの動きにムービーのフレームがヌルヌル追従してくれます。設備コストの圧縮ができるので、お勧めのアップデート・ポイントの一つです。
ゲーム・サウンドの制作現場としっかり向き合った開発を進めるSTEINBERG Nuendo 8。今回の原稿では触れられませんでしたが、VST MultiPannerの搭載によりDolby AtmosやAuro 3Dなどのイマーシブ・オーディオに対応するなど、ほかにも数多くの新機能があります。まだ発展途上の部分も多くありますが、メーカーにユーザー・フィードバックをガンガン送りつつ、今後の展開を注視していきたいですね。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年10月号より)