
新開発のマイクプリを2基搭載するほか
フォノ入力やインサート端子なども装備
まずは手元に届いた箱が美しい。上箱と下箱がすき間なく作られていて、実に精巧です。この箱が、中身の良さを強烈にアピールしてきます。中身を取り出すとさらに仰天、キューブの塊が現れました。AudioFuse本体に専用の上フタがかぶさった状態で出てきたのです。そのフタを開けると写真のような精密なパネルが出現。本機には3種類のカラー・バリエーションがありますが、今回は“Classic Silver”という銀色の機種でチェックを行います。
本体を見ていきます。操作子は左右対称に配置され、中央に大きなボリューム・ノブがレイアウトされています。小さな筐体にさまざまな要素を集約したデザインは、個人的には“ジャケ買い”しそうなほどほれ込んでしまいます。Eurorackのモジュラー・シンセを美しく思う感覚と似ているのかもしれません。ボタン類は黒いですが、コンピューターに接続すると文字がふわっと浮かび上がります。この小ささで自照式のボタンなのです。ツマミの精度も良く、どれだけ回してもぐらつきを感じません。
スペックを見てみましょう。オーディオ入出力数はアナログ4イン/4アウト、デジタル10イン/10アウトの計14イン/14アウト。アナログ入力はマイク/ライン/インスト・イン×2およびライン・イン×2といった構成で、内蔵マイクプリは新開発の“DiscretePRO”が採用されています。専用のコントロール・ソフト、AudioFuse Control Center(無償)を使えば一方のライン・インがインスト・インになるほか、ライン・イン×2の代わりに、ターンテーブルを直接つなげられるフォノ・インL/Rを有効することも可能。ARTURIAユーザーはシンセやターンテーブルを使用するクリエイターが中心ということでしょうか、端子構成に対する配慮も革新的ですね。
アナログ・アウトについては、“Speaker A/B”というスピーカー・アウトL/Rが2ペア備わっています。またTRSフォーンとステレオ・ミニのヘッドフォン・アウトが2系統あり、ヘッドフォンを同時に4台接続可能。このほかアウトボード用のインサート端子が2つ備わっています。
USBハブやリアンプ機能も便利
非常にクリアな音質の内蔵マイクプリ
ここからは特筆すべき点を紹介しましょう。まず目につくのは、リアのUSB端子。3つ備わっており、USBハブとして機能します。これまでノート・パソコンで制作していると、USB端子が足りなくなってしまいがちでした。しかしこのUSBハブにドングルやマウスを接続することで、端子不足を解消できます。次にメイン・アウト部は、MONO/DIM/MUTEボタンに加えてTALKBACKボタンを装備。トークバック・マイクも内蔵されていて、部屋を隔てた録音の際に起こるコミュニケーション問題を解決します。
ギタリストに向けては、“リアンプ・モード”が用意されています。作業の流れは、ギターをインスト・インからドライで録音し、スピーカー・アウトBからHi-Zで出してギター・アンプに入力。DAWに納得のいく演奏を録った後、ギター・アンプで心ゆくまで音作りをし、それをマイク・インから録音するというワークフローが可能です。
それではNEUMANN U87AIを使って、手持ちのAVID HD I/Oと比較してみます。まずは24ビット/48kHzで録音してみると……何というか驚きと戸惑いを隠し切れません。明らかに別次元の音です。SN比が良く感じられ、ボーカルの高域のエア成分がすごく奇麗に出ています。スペックを見て低ひずみ率なのは分かっていましたが、それにしてもすこぶるクリーン。次に96kHzで録ってみたところ、レンジ感は広がりましたが傾向は全く同じです。このエッジの立った、極端に抜けの良い音がミックスでどんなふうに扱えるのか、あと2〜3週間は試してみたいところです。再生音質は元気な音。割と中域にパワーが集まっていて、音像が前に出てくる印象です。こうした音作りから、ARTURIAはオーディオ・メーカーではなく、やはり楽器メーカーなんだなという感じがしました。
AudioFuseは、いろいろな意味で従来のオーディオI/Oからはみ出していて、驚きと戸惑いを感じました。それほど製品にパワーがあるということなのでしょうか。音楽であれサウンドであれ、高いクオリティを目指すクリエイターのマスト・アイテムと言っても過言ではないでしょう。


撮影:川村容一(Classic Silver モデル)
(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年8月号より)