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溝が深くなりひねりも加わったウーファー
微細な信号にも素早く反応するツィーター
NF-01Aは発売当時、スタジオの定番モニターだったYAMAHA NS-10Mとよく比較されていたのを覚えています。クセが無く、すごくフラットな周波数特性をしている印象でした。NF01Rはその特性を継承しつつ、現代の音楽制作環境を考慮し、進化させたということです。
外観を見て、NF-01Aを所有していない私でもすぐ分かったのが、ウーファーのへこみ形状です。NF-01Aでもあった溝がさらに深くなり、“ひねり”が入っています。前モデルも風車っぽいシェイプでしたが、さらに近付いてきましたね。ウーファーは軽くて、薄くて、強くて、それ自体が共振しないというのが条件になっており、現在さまざまな材質のウーファーが開発されています。でも個人的には何となく、その質感が音に出てしまうと思うのです。ゴムっぽい材質のウーファーだと、なんだか鳴りがボヨンボヨンしている気がするし、金属的に輝いているとどこか冷たいエッジの立った感じがします。NF01Rの材質は、パルプ材質にカーボン・ファイバーやさまざまな繊維を合成しているもので、伝統的な“紙”なわけです。乾いていつつ、温かい感じがやはり僕は一番好きですね。ウーファーはコーン(円錐)を直線的でない形状にすることで剛性を増し、溝を深くしてひねりを入れ、非対称にすることで周波数的な共振によるピークをさらに抑えるという効果を出しています。コーンのエッジ、接合部分も特徴的ですね。一般的なスピーカーのほとんどがゴムのような輪で接合されているだけですが、NF01Rは立体的で回転するような独特の形状です。カタログには“エッジの逆共振を排除”と書いてあり、スピーカーの挙動に起因する周波数特性の暴れを抑えているのでしょう。さらに、NF-01Aでは内部でサウンド・リフレクターという反射板を用いて音質を調整していたのに対して、NF01Rは吸音材を使って音質調整を行っています。内部の適所に吸音材を配置することにより、さらに細やかな周波数特性の調整ができているようです。ツィーターはUFLC振動板を用いたソフト・ドーム型で、フィルム材の振動板を採用することで微細な信号にも素早く反応するというもの。個人的にはアルミやリボンなどを使用したツィーターよりもスッキリとした印象を受けます。
ナチュラルで見通しの良い音質
長時間の作業でも耳が疲れない
今回は商業スタジオでアーティストのミックスに実際に使用させてもらい、そのあと自宅スタジオで同様に聴いてみます。商業スタジオでのミックスではラージ、ミッドサイズのスピーカーに加え、NF01Rも一緒に使ってみました。最初に聴いたとき、“なんてフラットな音なのだろう”と思ったほど、どこにも周波数的なピークを感じず、50Hzくらいから16k〜18kHzくらいまで、定規で一直線に描いたような周波数特性が頭に浮かんできます。ラージとミッドサイズのスピーカーはどちらも低音がズンズンくるし、高域もビシビシ耳に刺さってくるスピーカーでした。そこでNF01Rに切り替えると、とてもナチュラルで何の引っかかりもなく見通しの良い音質。内蔵しているパワー・アンプの出力も十分で音圧もあります。楽器の定位や音質もよく分かり、耳の疲れも感じません。このサイズなので超重低音はやはりラージやミッドサイズのスピーカーに分がありますが、背面のウーファー・スイッチを+2dBにすることで少し改善されました。色付けのないスピーカーとしてものすごく分かりやすく、ミックス中に何度もNF01Rへ切り替えて使い、作業もはかどりました。
今度は自宅に持ち帰り、NF01Rを設置してみます。狭い部屋で背面が壁ということもあり、ここでは低音の量感も良好。スピーカーとの距離も近くなったせいか、より音の定位や音像が見えます。耳が疲れない感じは商業スタジオで使ったときと同じで、長時間の作業をするのにも向いていると思いました。ナチュラルでアコースティックな音楽が好きな人や、長時間聴いて作曲をする人に向いているのではないかと思います。リア・パネルにあるツィーターのボリュームを上げ、LO FREQUENCYの+2dBスイッチをオンにしてみると、はやりの高域と低域が伸びたスピーカー風の鳴り方もしてくれました。
実は僕の友人の作曲家にNF-01Aを使っている人が何人もいて、根強いファンが多いのだなと感じていました。昔から使われているNF-01Aはそろそろパワー・アンプ部のコンデンサーなどが経年劣化し始めていると思います。修理するのではなく、一皮剥けた音質となったNF01Rに買い換えるのも手なのではないかと思いました。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年6月号より)