
システム全体で16kgという軽さ
スピーカー径は低域8インチ
音響的な仕様に先駆けてお伝えしたいのは、学校や幼稚園の先生、吹奏楽部の学生、ちょっとした催しを行っている文化系サークルなどに強くお薦めしたいということ。学校や文化系サークルには音響専門のスタッフなどは居らず、催しや練習を劣悪な音環境で行っているという実情がある。また中には“音響などハードルが高い”と思っているにもかかわらず、任されてしまっている人も居るのだ。そこで、このEon208P。本機くらい簡単に、短時間で良い音が出せればストレスも減るだろう。
箱から取り出したEon208Pは、パワード・ミキサーとスピーカーが接続されて一体となっている。パワード・ミキサーに付いているボタンを押すと、スピーカーが分かれる仕組みだ。自分の専門が音響だからというのもあるだろうが、取扱説明書を見ることもなく、急いだわけでもないのに3分以内に音を出すことができた。つまりそのくらい簡単なのだ。また、外部のBluetoothデバイスとペアリングでき、そのデバイス内のオーディオを無線で受けて鳴らすことが可能。手持ちのAPPLE iPhoneをBluetooth接続して音を出すのに、1分とかからなかった。
本機にはAKGのハンドヘルド・マイクとマイク・ケーブルが付属し、すべてミキサー背面に収納できる。収納スペースには棚板が付いていて、空間を小分けにして使えるし、棚板を外して大きなスペースにすることもできる。そして片手でも持ち運べるであろう16kgという重量は、海外旅行時のスーツ・ケースより軽いかもしれない。
パワード・ミキサーは8ch仕様で、CH1〜4の入力はXLR/フォーン・コンボのマイク/ライン・イン、CH5/6はフォーンもしくはRCAピンのライン・インL/R、 CH7/8はフォーンまたはステレオ・ミニのライン・インL/Rとなっている。またCH1と2は48Vファンタム電源を供給でき、コンデンサー・マイクの接続にも対応。CH3にはハイインピーダンス・ソースの接続が可能なので、ギターやベースなどの楽器を直接つなぐこともできる。
出力系は、フォーンのスピーカー・アウトL/Rとその音量を調整するマスター・ボリュームを装備。これとは別途、フォーンのサブウーファー・アウトも用意されている。ほかにはフォーンもしくはRCAピンのモニター・アウト、ステレオ・ミニのヘッドフォン・アウトがあり、それぞれにボリュームが備わっている。パワー・アンプの方式はクラスDで、出力は300W(150W×2)。スピーカー構成は、8インチ径の低域ドライバー+1インチ径のツィーターを備えた2ウェイ・フルレンジとなっている。
音量を上げてもひずみにくく
コンパクトながら低域が豊か
今回は、これらペアのスピーカーを汎用のスピーカー・スタンドに立てて、500人規模のホールで声と音楽ソースを鳴らしてみた。さすがにホールですべてをカバーするのは難しいが、ドライバーの鳴りが届く範囲では、かなりアンプの音量を上げてもそれほどひずみが無いと感じられた。またコンパクトさとは裏腹に、低域はたっぷりしている印象。教室や会議室などで使ったら、十分なパフォーマンスを発揮するだろう。文化系サークルなどではモノラルのスピーカーを使っている場面をよく見かけるが、ステレオにしてスタンドに立てると音量が上がるだけでなく、気持ち良さが変わることをぜひ体感してもらいたい。そして先述の通り、モニター・アウトやサブウーファー・アウトが付いているので、別途フルレンジ・スピーカーやサブウーファーを追加すれば、オペレーションはそのままにシステムを拡張することができる。
本機は音響専門の人でなくてもセッティングしやすいが、プロのPAエンジニアであっても“ガナリ”と呼ばれる舞台での指示出しに使ったり、照明担当者やステージ袖中のモニターにするなど使い道がある。また舞台用の小型スピーカー・システムとして、iPhoneなどから客席向けBGMを鳴らすことも容易。ヘッドフォン・アウトも備えているため、キュー出しにも使えそうだ。ツアー機材の中に1〜2セット入れておけば重宝するだろう。
昨今は、音楽イベントをはじめ、さまざまな催しに音響が必要である。しかしその準備が意外と忘れられていたり、機材の使い方が分からないために、せっかくのパフォーマンスが台無しになっている現場をよく見かける。そうしたストレスを減らせるであろうEon208Pのような製品は、幅広いところで使われると思う。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年6月号より)