C-Showが使う「FL Studio」第4回

ダンス・ミュージックの曲展開は
どのようにして作るのか?

こんにちは、トラック・メイカーのC-Show(シショウ)です。僕の連載は今回で最終回! 締めの話題は“楽曲展開の作り方”です。僕の楽曲「Rock the Floor」の展開作りについて解説したいと思います。楽曲はサンレコのSoundCloud内(https://soundcloud.com/sound-7/rock-the-floor)にて試聴できるので、本稿と併せてお楽しみください。

“クラブでの一体感”を生み出す
楽曲展開のフォーマット

トータルではEDMっぽい雰囲気の「Rock the Floor」ですが、構成要素を見てみると、8ビット風のセクションとシンベ主体のファンキーなドロップ(=サビ)の大きく2つに分かれています。展開は、8ビット部から始まりドロップへと進む形。両者のキャラクターは全くと言っていいほど違いますが、セクション間にギャップを持たせたかったので、1つの曲に共存させました。

▲「Rock the Floor」のプロジェクト画面の一部。イントロに相当する冒頭の8ビット・セクションと、それに続くブリッジはいずれも8小節。ドロップでは、8ビット部〜ブリッジのピコピコしたサウンドから一変し、ハウシーかつファンキーなシンベが登場する ▲「Rock the Floor」のプロジェクト画面の一部。イントロに相当する冒頭の8ビット・セクションと、それに続くブリッジはいずれも8小節。ドロップでは、8ビット部〜ブリッジのピコピコしたサウンドから一変し、ハウシーかつファンキーなシンベが登場する

制作の手順は、冒頭の8ビット部から手を着け次にドロップ、それから両者の“つなぎ”のセクション(=ブリッジ)を作成……という流れ。僕は普段、展開を大まかに考えてから曲を作るのですが、こうしたパーティ系トラックの展開にはある程度のテンプレートがあると思うので、それに基づいて各セクションの尺や音使いを決めていきます。例えば16小節のイントロを作ったら、その次には8もしくは16小節程度のブリッジを配置。そこで十分に煽(あお)った後、シンベ主体のドロップを持ってくるような形です。ドロップの尺は16小節がオーソドックスですが、長いものでは32小節になることも。ドロップの次には歌を聴かせるセクションを持ってきたり、冒頭へ戻ってディテールを変えつつ再びブリッジ→ドロップ……と展開させたりします。展開が定型化されていて面白くないの?と言われそうですが、パーティ系のトラックでは“どのタイミングでどんなセクションが来るか”を、聴き手がある程度予測できることが重要だと思います。クラブでの一体感を楽しむような音楽なので、展開が読みづらいと盛り上がるポイントがバラバラになってしまいますからね。

クラッシュの代わりにノイズを使用
ドロップ前に有効なHPFの使い方

冒頭の8ビット部〜ブリッジでは、フリーのソフト・シンセMagical 8Bit Plugが活躍しています。これを使いキックやハイハット、白玉のベースとパッドっぽい音色、アルペジオやスイープ、ビルド・アップ(あおり)のための音などを作りました。アクセントとして重要な役割を果たしているのは、オシレーターのノイズで作ったスイープ。シュワ〜っとした音で、曲の頭……つまり本来クラッシュ・シンバルの入る位置に打ち込んでいます。ハウスなどのダンス・ミュージックでは、クラッシュの代わりにホワイト・ノイズを使う手法が見られます。ホワイト・ノイズは派手な音ではないものの有用で、ドロップではクラップにレイヤーして歯切れの良さを高めるなどしています。

▲8ビット・ミュージック・ユニットYMCKのYokemura氏によるフリーのソフト・シンセMagical 8Bit Plug。この画面はキックを作ったセッティングで、GUIはホストのDAWによって変わる ▲8ビット・ミュージック・ユニットYMCKのYokemura氏によるフリーのソフト・シンセMagical 8Bit Plug。この画面はキックを作ったセッティングで、GUIはホストのDAWによって変わる
▲ドロップでクラップにレイヤーしたホワイト・ノイズのノート。前回解説した“クラップのレイヤー技”を使っており、クラップの入っているタイミング(ピンク線)よりもほんのちょっと前に打ち込んでいる。これによりクラップの抜けが良く聴こえるのだ ▲ドロップでクラップにレイヤーしたホワイト・ノイズのノート。前回解説した“クラップのレイヤー技”を使っており、クラップの入っているタイミング(ピンク線)よりもほんのちょっと前に打ち込んでいる。これによりクラップの抜けが良く聴こえるのだ

アクセントという点では、パッド的な音色やビルド・アップ用のフレーズも重要。パッドっぽい音は曲の冒頭からベースとともに白玉で鳴り続けているのですが、ブリッジに入ってしばらくするとベースが無くなります。この辺りからパッドに挿したハイパス・フィルターのカットオフをオートメーションで徐々に上げ、低域をカットしていきます。最後にはしっかりと削れた状態になるため、次に来るドロップ頭のキックが強調されて聴こえるわけです。ビルドアップ用のフレーズについては終始同じノートを打ち込んでいるのですが、ピッチ・ベンドにオートメーションを描いて音の高さが徐々に上がるようにしています。

▲シンセにかけたハイパス・フィルターのカットオフ・オートメーション(ピンク枠下)やビルド・アップ用シンセのためのピッチ・ベンド・オートメーション(同上)のほか、セクションのつなぎ目にはいろいろな要素が入っている。“ドラムのフィル”はスネアやタムなどのループを組み合わせたもので、うまくつながって1つのフィルに聴こえるようエディットされている。“FX”はホワイト・ノイズ系の効果音だ ▲シンセにかけたハイパス・フィルターのカットオフ・オートメーション(ピンク枠下)やビルド・アップ用シンセのためのピッチ・ベンド・オートメーション(同上)のほか、セクションのつなぎ目にはいろいろな要素が入っている。“ドラムのフィル”はスネアやタムなどのループを組み合わせたもので、うまくつながって1つのフィルに聴こえるようエディットされている。“FX”はホワイト・ノイズ系の効果音だ

シンベのステレオ感と抜けを
Maximusで両立させる

冒頭の8ビット部からブリッジまで一息に解説しましたが、先述の通り、8ビット部の次に作ったのはドロップです。このドロップに関しては、主役であるシンベから作り始めました。シンセはNATIVE INSTRUMENTS Massiveを使用。ポイントは“Restart via Gate”機能を使った点です。これを用いれば、MassiveへMIDIノートを入力するたびに各オシレーターを任意のフェイズ(シンセ波形の任意のポイント)から鳴らすことが可能。その結果、鳴り方のバラつきを無くせるわけですね。僕は、シンセがあるタイミングではかっこ良く鳴っているのに、別のところではイマイチという状況があまり好きではなくて、常に最高の音を出したいのでベストなフェイズを探し、どのノートもそこから鳴り始めるようにしています。

▲NATIVE INSTRUMENTS Massiveの“Restart via Gate”機能(ピンク枠)。オシレーター波形の一周期におけるどの位置(フェイズ。単位は角度)から発音し始めるかをスライダーで設定でき、常にその位置から鳴らすことが可能。鳴り方を粒ぞろえにしたいとき便利だ ▲NATIVE INSTRUMENTS Massiveの“Restart via Gate”機能(ピンク枠)。オシレーター波形の一周期におけるどの位置(フェイズ。単位は角度)から発音し始めるかをスライダーで設定でき、常にその位置から鳴らすことが可能。鳴り方を粒ぞろえにしたいとき便利だ

こうして作った音色をダブルで鳴らし、ステレオ感を持たせているのも特徴。方法としては、同じ設定のMassiveをもう1台立ち上げ、各オシレーターのフェイズを少し変えてオリジナルとユニゾン。パンはオリジナルをRch側52%、ユニゾン用をLch側52%に振っています。昨今はシンベのステレオ幅を広げるのが流行しているようです。やり過ぎると低域がモワつくので要注意ですが、“ステレオ感と低域の抜けを両立させたい”というときはFL Studio 12 Signature BundleかFL Studio 12 Producer Editionに標準搭載のマルチバンド・マキシマイザーMaximusが便利。各バンドにステレオ幅の調整ノブがあるので、中&高域を広め/低域を狭めにすれば、ステレオ感を持たせつつ低域の抜けも得られるわけです。Maximusを持っていない方は、シンベのステレオ幅を広げた上でガッツリとローカットし、別途同じパターンをモノラルのサイン波などで鳴らして重ねればいいでしょう。

▲マルチバンド・マキシマイザーのMaximusでは、ステレオ・イメージング・ノブ(ピンク枠)で各バンドのステレオ幅(左右の広がり)を調整することが可能。シンベに使用する際は、低域のステレオ幅を絞り、中/高域を広げれば、存在感と抜けを兼ね備えたサウンドが得られる。Maximusは、FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ販売)とFL Studio 12 Producer Editionに標準搭載。FL Studio 12 Producer Editionはbeatcloudにてダウンロード販売中だ(https://beatcloud.jp/) ▲マルチバンド・マキシマイザーのMaximusでは、ステレオ・イメージング・ノブ(ピンク枠)で各バンドのステレオ幅(左右の広がり)を調整することが可能。シンベに使用する際は、低域のステレオ幅を絞り、中/高域を広げれば、存在感と抜けを兼ね備えたサウンドが得られる。Maximusは、FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ販売)とFL Studio 12 Producer Editionに標準搭載。FL Studio 12 Producer Editionはbeatcloudにてダウンロード販売中だ(https://beatcloud.jp/

以上で僕の連載は終了です。FL Studioは個性的なDAWですが、それだけに面白い音作りが実践できるプラットフォームだと思います。これを機に興味を持った人、新しい使い方を発見できたという人が居れば幸いです。

FL Studio シリーズ・ラインナップ

FL Studio 12 All Plugins Bundle(92,583円)
FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版のみの販売:31,000円)
FL Studio 12 Producer Edition(22,222円)
FL Studio 12 Fruity Edition(11,852円)

<<<Signature Bundle以外はbeatcloudにてダウンロード購入可能>>>