
Ghostのヘッド・アンプや
Sapphyre卓のEQを搭載
Signature 16は、同社アナログ卓Ghostのヘッド・アンプを12基備え、全チャンネルにアナログ卓のSapphyreから受け継いだ4バンドEQを装備している。リア・パネルには何も無く、端子類はトップ・パネルに集約。リアを壁にくっつけることができ、省スペースを図れる。
ch1〜ch10の入力端子はマイク(XLR)とライン(TRSフォーン)の2種類が用意されており、ch1〜4にはスイッチでオン/オフできるDBX製のリミッター、ch7と8にはHi-Zスイッチが付いている。ch11/12とch13/14はXLRのマイク・インを1つとTRSフォーンのライン・インL/Rを備え、ch15/16はUSB端子とRCAピンのライン・インL/Rを併装。USBとRCAピンのインプットには、音声を同時に入力できる。
出力に関しては、4つのAUXバスと4つのモノラル・グループ・バスにTRSフォーンのライン・アウトがあり、マスターにXLRのライン・アウトL/Rが備わっている。スタジオ内でリファレンスCDを使いチェックしてみると、SOUNDCRAFTらしいサッパリとしてクリアな音質。EQの効き具合が激しくないところも安心できる。そして大型卓を思わせる100mmのフェーダーと大きなツマミは、快適な操作感を提供してくれる。
内蔵マルチエフェクトはリバーブやディレイ、コーラスなどを含む全22種類のLEXICON製プロセッサー。最高24ビット/192kHzのUSBオーディオI/O機能は、Mac/WindowsのほかAPPLE iPadにも対応する(iPadとの接続にはAPPLEのカメラ・アダプターが必要)。
ミュートがプリフェーダーにかかる仕様
一部のAUX送りはプリ/ポスト切り替え可
続いて、カフェ・ライブでの運用を考えてみよう。各チャンネルは全4系統のAUXバスへセンドでき、うち1系統は内蔵エフェクトへの送りとして使うことができる。しかし現場ではAUXバスの数が足りなくなる場合もあるだろう。その際はグループ・バスを活用できる。例えばシンガーに声のみのモニター音を返したいとき、まずはボーカル・チャンネルをLchに振り切ってグループ1へとアサイン。グループ1のライン・アウトはモニター・スピーカーに接続するが、マスター・バスにも声を送らなければならない。従来の一般的な小型卓では、グループ1の出力をマスターのLchにしか送れず、左からしか音が出なかったのだが、本機にはグループ1〜2(もしくは3〜4)の出力をモノラル化できるMONOスイッチが付いている。これを押せば、マスターにセンター定位の信号を送れるわけだ。よく気付いてくれたと言うべき仕様だ。
そしてミュート・スイッチがプリフェーダーにかかる仕様。驚くべきことに、プリフェーダーにミュートが効かない小型ミキサーがこれまでの主流だった。多くの小型ミキサーではファンタム電源などが全チャンネル一括なので、マイク・ケーブルを転換などで抜き差しする際にミュート・スイッチを押していても、プリで送っているモニター系統がオフにならず、“バツッ!”というノイズが出てしまう。このことは説明書などに書かれていないものなので、使ってみて初めてその不自由さを痛感していた。Signatureシリーズは、ここにも気付いてくれたわけだ。
もう一つ、多くのミキサーではAUXバスへのプリ/ポスト・センドが全フェーダーまとめて切り替わるので、モニター・スピーカーに楽器とBGMのチャンネルをプリで送っていたら、BGMだけをフェード・アウトさせることができない。しかし本機では、ch15/16のAUXセンド1〜2のプリ/ポストを切り替えられる。AUX1〜2をサイドフィルに使っていたら、ch15/16に入力したCDのオープニングSEをフェード・アウトさせることができるのだ。
さらにマスターには“INTERVAL MUTE”というスイッチが付いており、これを押すとch15/16とAUX/グループのみを鳴らすことが可能。BGMとモニター系の回線だけを生かし、演奏者の外音だけをカットできるわけだ。転換に最適なスイッチを付けてくれた。拍手モノである!
このクラスのミキサーは、いかに不要なものを削るかが大事であると思う。電源スイッチまで無くしてしまったのはいかがかとも思うが、その潔さがかえって気持ち良いくらい、諸機能はかゆいところに手が届いている。1人でいろいろなことをこなさなければならない現場では、これくらいシンプルな卓を使うとストレスは減るだろう。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年11月号より)