
耐久性に優れたポップ・フィルター
振動を十分に抑えるマイク・ホルダー
V67G-HEは、既に発売されているV67Gの色違いとして発売された製品です。注目点は付属品が充実したこと。シンプルだったマイク・ホルダーがショック・マウント・ホルダーに変更され、そのほかメタル・メッシュのポップ・フィルターやクリーニング・クロス、ハード・ケースが追加されました。
ポップ・フィルターに関しては、そのもの単体でも十分に価値があるものだと思います。これはアビイ・ロード・スタジオの備品として有名なNEUMANN U47 Tubeに使われていたポップ・フィルターに似たタイプのものです。メタルでできているので音が通過しても高域が劣化がしない上、耐久性にも優れ、装着も的確かつ簡単に行なえます。
ショック・マウント・ホルダーもNEUMANNの大型ダイアフラムのマイクに使われているタイプのもので、ゴムのサスペンションにより床からの振動を十分に吸収。予備のゴム・バンドも付属していてうれしい限りです。
作動方式はプレッシャー・グラデュエント・タイプ・コンデンサー。ダイアフラムは直径25mm、厚さ6μmです。周波数特性は30Hz~20kHzで、指向性は単一指向性のみとなります。マイク本体のサイズに変更はありませんが、重さが470gから589.67gとなり、外見の色がグリーン系の色からシルバーになりました。
高域の倍音を強調し
ボーカルを魅力的に明るく収録
さて、実際に使用した感想をお伝えしましょう。まずマイクそのものの質感ですが、さすがに何十万円もするマイクとは違いチープさがあることは否めません。しかし、ボディのタッチ・ノイズは少なく、音質に影響を与えるようなボディの共鳴も感じられませんでした。
ボーカルのチェックから始めます。なるほど、MXLらしく中高域から高域にかけての味付けは筆者のスタジオにあるMXL2003と似ていて非常に個性があり明るいです。周波数特性グラフのカーブより実際は派手に感じられます。ボーカルで言うとミックス・ボイス(地声と裏声を混ぜた発声法)やファルセット、ブレッシーな声(実音と同時に息の成分が多いような声質)が魅了的に聴こえ、高域の倍音がより強調される印象です。単純にEQでどこかのポイントを持ち上げたというよりは、うっすらとエキサイターをかけたようなイメージに近いかもしれません。ただ、近接効果による低音成分の膨らみがあまり魅力的ではないように感じますので、極端なオンマイクよりは15cmぐらい離れたマイキングの方が合っているでしょう。実際にNEUMANN U67、U87AI、GROOVE TUBES GT67とも比べましたが、決して引けを取らない結果。弱点を挙げるとしたら300Hzくらいから下のレンジの解像度に物足りなさを感じたことです。
さて次にピアノでのチェックです。明るくさわやかで、やさしく物悲しい感じ?とでも言いますか、簡単に言うと野太くなく、シャラシャラとした音質でした。しっかりとした個性や色付けがあり、クラシックのピアノには不向きですが、楽曲やアレンジによっては唯一無二の存在になると感じます。
次にアコースティック・ギターです。これもピアノと同様で、単体で聴くと野太さが足りないので若干の低域補正が必要になると思いますが、アレンジによっては非常に良い結果が得られると思います。一方エレキギターですが、これに関しては不向きと言った方がいいと思います。なぜかほかの楽器の印象とは違い、思うように収音してくれませんでした。おそらく大音量には向かないのかもしれません。やはり近接効果に弱点があるのでしょう。ほかのマイクに比べて指向性が広いと感じたので、もしかしたらそのせいかもしれません。アコースティック・ギターの弾き語りをマイク1本で収録するのには重宝するのではないかと思いました。
最後に、フル・オーケストラのセッションがあったのでストリングス、ホルン、木管、ティンパニなどの収音に使用してみました。すべての楽器できちんと仕事をしてくれましたが、ボーカル収音時に感じた低域の解像度への不満はやはり同じ。そこさえ考慮すれば問題なく使える、とてもコスト・パフォーマンスの良いコンデンサー・マイクと言えます。アマチュアの方が自宅録音する際に十分で、プロの方でも使い方を考えることにより、ワン&オンリーなアイテムになること間違いなしです。


(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年11月号より)