「EIOSIS E2 Deesser」製品レビュー:耳障りな帯域を除去しながらEQ処理も同時に行えるディエッサー

EIOSISE2 Deesser
今回レビューする製品は、気鋭のプラグイン・メーカーであるEIOSISがリリースしたE2 Deesserです。どの辺りが革新的なディエッサーとなっているのか、音質や使い勝手を見ていきましょう。

従来のディエッサーと異なるアルゴリズム
検出信号を確認できるビジュアライザー

そもそもディエッサーとは、その多くが特定の高音域のみに作用するよう調整したダイナミクス・プロセッサー、またはダイナミックEQのたぐいであり、歯擦音など耳障りな帯域を抑制します。ただ、このE2 Deesserは動作メカニズムが今までのディエッサーとは異なるようです。マニュアルの解説によると、まず入力信号が歯擦音検出アルゴリズムにより、2つの信号に分けられます。

Sibilants:歯擦音など耳障りな帯域を含む音声
Voiced:ゲイン・リダクションの必要が無い音声

これはフィルターなどを用いた周波数帯域での分離ではなく、歯擦音検出アルゴリズムにより時間軸上で分離されます。歯擦音はどう判断されるのでしょうか? 2つの信号が分離される様子は、ビジュアライザーのスペクトラグラムにSibilantsの部分が黄色く表示され、視覚的に確認することができます。私が見る限り、母音や音程感のある部分は周波数が基音〜倍音と、しま模様のように規則性を成しており、これをVoicedとしているようです。反対に、ノイズ的にさまざまな周波数を含んでいる部分はSibilantsと検知しているように見えます。このSibilantsのみにダイナミクス処理がなされるわけです。

ちなみにこのSibilants検出アルゴリズムは、幾つか異なる特性をプリセットとして、用途に応じ画面左下コントロール部の上段にある“mode”より選ぶことができます。それから、その下に並ぶ大きな2つのノブで検出感度=sensitivity、ディエッシング効果の強さ=amountをコントロール。最下段には、効果を適用する周波数帯域の幅を変えるautoと、サチュレーション調整用のsmoothがあり、そのほかgain、dry/wetのノブが並んでいます。

画面右下のEQでは、Sibilants/Voicedの信号それぞれにEQ処理が可能。EQ画面上の青い線がVoicedで赤い線がSibilantsとなっており、この線をドラッグ操作でブースト/カットを行え、2つの信号のEQ処理による結果が白い線で表されます。EQ画面下のMonitoring欄では、Listen Modes設定でVoiced/Sibilantsのどちらか一方のみをモニターし確認することも可能です。

高域の倍音と子音のインパクトを残しつつ
シンプルな操作で歯擦音を取り除く

ミックス中のAVID Pro Toolsセッションで、既存のディエッサーと入れ替えてテストしてみます。まずはボーカル・バスにインサート。デフォルト設定でmodeは“SOLO VOCAL”となっていまして、sensitivityとamountで効果を調整していきます。このプリセットのEQ設定では、Voicedの20kHzを広めのQで3dBブーストし、Sibilantsは6.8kHzをカットしている状態です。

日本語と英語の両方の歌で試してみましたが、どちらもこのデフォルトの検出設定のままで非常に効果的に歯擦音を取り除くことができ、パラメーター調整の必要性すら感じませんでした(画面①)。従来のディエッサーでは失われがちな、高域の倍音や子音のインパクト感が全く損なわれず、Voiced EQの高域ブーストと相まって、非常にクリアなボーカルを得られました。日本語の子音を例に挙げますと、“サシスセソ”が入力された際は、Sibilants EQで強力にカットされますが、“カキクケコ”のアタックには影響が無い感じ、と言ったら分かりやすいでしょうか。ディエッサーとEQを直列につなぐ従来の高域ブースト手法とは異なり、問題となる部分を並列にEQ処理できるという、頭の良いやり方です。

▲画面① ビジュアライザーでは、歯擦音など耳障りな帯域を含む音声(Sibilants)がゲイン・リダクションされた際に、信号の色が黄色に変わる ▲画面① ビジュアライザーでは、歯擦音など耳障りな帯域を含む音声(Sibilants)がゲイン・リダクションされた際に、信号の色が黄色に変わる

次に、ボーカル・バスの高域を持ち上げていた幾つかのプラグインをオフにして、E2 Deesserに高域のブーストを任せてみました。その質感はほかのどのプラグインEQとも異なり、非常にクリアです。“エア感”とうたいながらブースト時にざらつきのあるEQ製品も多いですが、E2 Deesserはかなり滑らかな印象で、ブーストしてもグラデーションが失われずスムーズ。100Hz以上の帯域に対しては、EQとしてかなり積極的な音色作りを行えることが分かりました。

ボーカルだけでなくマスター・バスにも使える“M/S Mastering”などのプリセットもあるので、試してみました。従来のディエッサーに近い動作になりますが、リリースがひずみにくく非常に透明感のある印象です。auto、smoothノブで調整すれば問題の周波数をすぐに見つけることができました。また、dry/wetノブは最終的な微調整に非常に便利で、原音のディテールとエフェクトを両立したいときに便利だと思います。

検出回路で分離したSibilantsとVoicedのそれぞれの信号に個別のEQ処理を行えるという画期的なアイディアのE2 Deesser。従来のディエッサーの概念を超えたプラグインでした。

link-bnr3

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年11月号より)

EIOSIS
E2 Deesser
オープン・プライス(市場予想価格:18,000円前後)
▪Mac:OS X 10.7以降(32/64ビット) ▪Windows:Windows 7以降(32/64ビット) ▪対応フォーマット:VST2/VST3/AAX/Audio Units ▪オーソライズ方式:iLok2