
コンプをオフに切り替える“C”と
ホールド状態にする“H”ポジション
まずは各操作子から見ていきたいと思います。フロント・パネル一番左の“INPUT”はALTEC 436シリーズの436Aでは無かったノブで、後継機種の436Bから実装されました。RS124ではインピーダンスが200Ωのステップ式へ改造されています。本機Liverpoolではステップ式でインピーダンスは600Ω。現在使われている機器とのマッチングも良いかと思われます。続いて“THRESHOLD”は436Bの後継機種436Cから搭載されました。RS124には無いパラメーターです。Liverpoolはレシオの設定ができませんが、このTHRESHOLDに応じてレシオの値も変化します。“ATTACK”のノブは436シリーズとRS124にはありませんでしたが、本機では装備されています。6段階の速さから選べ、3ms/19ms/48ms/77ms/109ms/138msと、比較的スロー・アタック寄りの設定です。各数値の間に“C”というポジションがあり、ATTACKのノブがこの位置にあるときはコンプがオフになり、ライン・アンプとしての動作になります。なぜそのCのポジションが1ステップごとにあるのか、初めは全く謎だったのですが、“RECOVERY”の仕様を調べていて納得できました。
RECOVERYは一般的にリリースと言われるパラメーターです。ATTACKと同じく6段階になっており、127ms/447ms/917ms/1.9s/3.4s/6sと現在のコンプと比べると遅めの設定となっています。そしてこちらにも“H”というポジションがあり、選択するとコンプがかかったまま戻らないホールド状態になります。このHポジションも1ステップごとにあり、どのリリース・タイムからも手動で瞬時にHへ切り替えられるようになっています。ここが本機の操作面で最大の特徴でしょう。例えば、ドラムのルーム・マイクにハードなコンプレッションを施した曲でブレイクがあったとします。その場合、大きくゲイン・リダクションがかかっていたりすると、ブレイクの入り口で盛大にルーム・ノイズやヒス・ノイズの音量が上がってきてしまいます。そこでブレイクの直前にRECOVERYをHへ手動で切り替えると、音はコンプレッションされたままホールドされるので、不自然にシンバルの音が伸びず、ノイズも気にならないというわけです。そしてもう一つ、イントロがギターのみで始まり、途中からバンドが入って“ドン”と始まるような曲で、トータルに深くコンプをかけたいという場合。オケの音量が大きいところでアウトのゲインを決めてしまうと、コンプレッションがかからないイントロのギターは音量がかなり大きくなってしまうこともあると思いますが、そういった場合にもこの機能は使えると思います。2つの例はかなり極端な使い方のケースではありますが、このような場面を想定して、どの設定からもHへすぐ切り替えられるように各ポジションの隣にあるわけですね。とある資料によると、ザ・ビートルズの「ヘルター・スケルター」ではこの手法が使われたようです。前述したATTACKのCポジションも、“ここはコンプをかけたくないな”という個所で手動でCに切り替えることができるので便利ですね。
そして最後の“OUTPUT”はRS124でも設けられていた改造で、436Cにアウトプット・アッテネーターを付加しているケースも多いです。ALTECはパッシブEQと組み合わせる想定もしているためか、かなりアウトが大きい仕様になっており、後段の機器で音がひずみやすいので、出力レベルをコントロールすることが必要になってきます。そのため、OUTPUTがあるとぐっと使いやすくなるのです。本機Liverpoolはどれくらいホットに入力するかでドライブ感を決め、アウトプットのアッテネーターで出力レベルを調整するというシンプルな操作感で、ビンテージ・フィールあふれる音色をコントロールできる、現代的にリファインされたコンプになっています。
中低域が充実した太いサウンド
深いコンプレッションでも細くならない
パラメーターの説明が長くなってしまいました。肝心の音質を聴いてみましょう。今回は録音済みの素材を使い、SSL SL4000Gのインサートに挿して試聴していきました。まずはベースを試してみます。暴れん坊なALTECのサウンドをイメージしていたので、思っていたより柔らかく、ひずまない音色に驚きました。もっちりとした太い音で、なめらかな中低域が充実しています。かなりコンプレッションしても音はあまり細くなったりはしませんでした。ボーカルやギターなどでも同じ傾向で、遅めのリリース・タイムも相まって曲中で腰の据わった安定した聴こえ方をしてくれます。
今回の素材で個人的に一番好みの音になったのがスネアでした。重心が下がり、暴れていた中高域も落ち着いてどっしり太いスネアになりました。個人的にはもう少し暴れた音色を期待していたので予想外ではありましたが、個性的な操作性も含めLiverpoolの魅力は十分に感じられました。



(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年4月号より)