
4ウェイ動作のスピーカー
最上部にはホーン型のツィーターを搭載
IP2000はDSPと一体となったサブウーファーに、上下2つに分かれたバー・タイプのスピーカーを差し込んでセットする。12インチのサブウーファー部を含めた全高は206cmあり、十分なラインアレイ効果を持っているようだ。入力は2つのXLR/フォーン・コンボで、入力信号をほかのシステムへパラ分けするためのXLR出力も2つ備えている。今回はあえて距離を置いたところから試聴を始めたのだが、線音面内では、スピーカーからの距離が2倍になっても3dBしか減衰しない。マイクを持ち、ゲインを上げた状態でスピーカーに近付いて行っても、“線音源”対“点収音”なので、ハウリングは起きにくい。これは本機のみではなく、ラインアレイ・タイプに共通する利点の一つだ。
さて、鳴っている本機へ近付いたときに気が付いたことがある。ラインアレイ部にはフルレンジ・ユニットが16個並んでいるのだが、ただ縦に組上げただけではないようだ。下段はローミッド〜ミッド帯域、上段はローミッド〜ハイ帯域を担っており、一番上に1つだけホーン型ツィーターがマウントされている。説明書を見てみると、アンプ部の仕様に3chと記載されていた。クロスオーバー周波数は表示されていないが、想像するに、サブウーファー、ミッド〜ハイをなだらかにロール・オフ(カットではない)させた下段のラインアレイ、フルレンジ(サブローはカット)動作させた上段のラインアレイ、パッシブ・ネットワーク経由でマウントされたホーン型ツィーターという構成で、スピーカーとしては4ウェイ、マルチアンプとしては3ウェイといったシステムだろう。大規模なコンサートで使用される大型ラインアレイでは、全観客をふかんできるポジションにつり上げられ、遠方を受け持つ上段のボックスは空気中の湿気、チリなどによる高域の減衰を補正するべくシステム・チューニングされることが多い。本機のような小型システムがつり上げられることはあまりないだろうが、フロアに置いた場合、観客の人だかりによる吸音が起きやすい。それを考えると、本機の設計は有効だ。ツィーターのみとはいえ、ホーン型を採用しているところに往年の伝統を感じた。
現場を考えて設定されたプリセットEQ
ミラー効果補正のためのPOSIT.
近年はKLARKTEKNIKグループの傘下に入り、強力な電子回路部門を持ったとも言える新生TURBOSOUND。この手のシステムの決め手とも言えるアンプ部を見てみよう。本機は最大123dBを120°の範囲に放出可能だが、クラスDアンプの場合は最大出力を超えると良くないひずみ方をするので、低域、高域別々に動作する2バンド・リミッターでアンプ部の出力を監視して、ひずみを防止しているようだ。後述するEQをどのように設定しても、最大音圧は123dBを超えない。2バンドということもあって、ギクシャクした効き方はせず、100dBくらいで使う分には、入力に対してリニアに作動していた。
EQのプリセットはMusic、Speech、Club、Liveの4つから選べる。周波数表示は無く、LCDディスプレイに簡単なカーブが表示される。Liveのカーブはローとハイがロール・オフされており、一瞬“?”となったのだが、訳知りのプロなら使えるカーブかもしれないと思った。小会場や小音量で鳴らす現場の際、卓上の作りが段々派手になっていって、トータルEQで少しナロー・レンジにして落ち着いた、という経験がある人もいるだろう。Liveのカーブはそういった現場で有効になってくるはずだ。
POSIT.というパラメーターも内蔵されている。壁や床の反射による、ミラー効果補正用に低域だけをロール・オフさせることができるもので、Corner、Wall、Floorの3つのタイプから選択できる。Cornerは、スピーカーより前にマイクをセットしてもハウりにくいラインアレイの特性を利用し、スピーカーをステージのバック・コーナーに置いたとき(ミラー効果が一番強く出る)をシミュレートしていて、とても実用的だ。これ以外に、入力チャンネルごとに独立して設定できる3バンドEQ、ゲイン調整もある。以上の操作は4つのボタンとジョグ・ダイアルで設定するのだが、分かりやすく、特に説明書がなくても扱える。また、Bluetooth経由でのオーディオ・ストリーミングや、アプリを使用してAPPLE iPhone/iPadからリモート・コントロールも可能だ。
いろいろとチェックしてきたが、IP2000はメイン・スピーカーとしてだけでなく、ステージ上のサイド・フィル・モニターとして使用することもできると感じた。音量を大きくせずともステージ・センターまで音がしっかりと届き、120°の指向性によって、どのような位置でもモニタリングができるだろう。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年3月号より)