「WALDORF KB37」製品レビュー:37鍵仕様のキーボードを備えたEurorackモジュール・ケース

WALDORFKB37
アナログ・シンセのブームは加速度的な盛り上がりを見せていますが、特に新製品ラッシュにわいているのがEurorackでしょう。そんな中、2016年のNAMM Showで発表されて話題になったのが、今回紹介するキーボード付きのEurorackモジュール・ケースWALDORF KB37。WALDORFは伝説のウェーブテーブル・シンセPPG Waveのディストリビューターが立ち上げたドイツのメーカーで、筆者も発売と同時に手に入れたMicrowaveなどのヒット製品で知られています。同社が、ついにEurorack規格のラインナップを発表。その母体となるのがこのKB37というわけです。

タッチに優れたFATAR製鍵盤を採用
こだわりを感じる電源周り

KB37はあくまで鍵盤付きのケースのため、取り付けるモジュールは別売。従って箱から出した際は中の基板がむき出しで見える状態です。本体はしっかりとした金属製でカラーリングも同社のBlofeldをほうふつさせます。鍵盤はキー・タッチに定評のあるFATAR製。37鍵でベロシティ/アフタータッチ対応の鍵盤(TP9)を採用しており、高級感があります。リア・パネルにUSB MIDI端子を備えた16ビットのCVインターフェースを搭載し、MIDI to CVコンバーターとしても機能します。さらにMIDIに同期可能なアルペジエイターとCVを取り出せるピッチ・ベンド/モジュレーション・ホイールも装備。“後はシンセ・モジュールを買うだけ”という仕様となっています。

モジュール・スペースは107HPで、基本的なモジュール群を収めるのに程よいサイズ。電源は3芯のACケーブルを本体に挿せるようになっており、小型のデスクトップPCに採用されているような金属シャーシに入ったパワー・サプライ・ユニットを搭載しています。音質に影響する個所だけに、ACアダプターが使われていないところに好感が持てます。モジュールと接続するコネクターはフラット・ケーブルではなくメイン基板に直接取り付けられており、+12V/−12Vを供給できるA-100規格のバスが14個あります。2つあるセクションのトータルで1.5Aを給電できるので十分かとは思いますが、マウントするモジュールの消費電力の合計は把握しておくべきでしょう。

単体機並みのMIDI to CVコンバーター
MIDI CCもアサイン可能

本体左上にあるのがCVパネルで、リア・パネルで受けた情報をCVとして取り出すための端子が並んでいます。KB37はMIDIノートをCV/Gateに変換する以外にもベロシティ/アフタータッチ/MIDI CCをCVとして取り出せます。通常は内蔵鍵盤の情報をここから取り出しますが、設定によって鍵盤を切り離し、外部のUSB MIDI信号に従うこともできます(USBとMIDIは内部でマージされています)。MIDI CCはCtrl-X/Y/Zの3種類に任意の番号をアサインしますが、端子の左にあるボタンを押しながらMIDI CCを送ることで、その番号を認識し設定できるようになっています。リア・パネルにある“Sensor In”端子から入ってきた信号も、このセクションから取り出します。通常はタッチ・センサーや赤外線距離センサーなどのコントローラーを接続しますが、マイク入力なども扱えます。

右上にあるのはオーディオ・パネルで、モジュール音源から出た最終アウトをここにつなぎます。モノラルに加えステレオ入力にも対応しており、ボリュームが変えられるほか、ヘッドフォン端子も付いているので、本体だけでモニターもできます。またここに入った信号は、リア・パネルのAudio Out L/Rから取り出せます。

鍵盤の左がコントロール・パネル。“Note Priority”は複数のノート・オンがあった際にどの鍵盤のピッチをCV出力するか設定するもので、低音優先(lowest)/後発優先(last)/高音優先(highest)が選べます。“Glide”はポルタメント・タイム、“Gate Trigger”はレガートで弾いたときの動作で、シングル(Single)/ノート・オンごと(Note On)/ノート・オンとオフごと(All)の3択となり、ポルタメントの効果にも影響します。“Octave”は±2オクターブの切り替えで、“Tempo”はアルペジエイターのスピードと同期クロックの生成速度の調整に使用。実はKB37は、鍵盤を使ったタップ・テンポに対応しています。

“Arpeggiator”は自照式の押しボタンとなっており、通常のワン・プッシュでアルペジエイターのON/OFFができますが、長押しによってホールド(鍵盤から手を離してもアルペジエイターが動作するモード)になります。アルペジエイターのパラメーターにはオクターブ(0〜3)、クロック分解能、方向(Up/Down/Alternating/Random/Ordered)がありますが、設定は“Setup”ボタンで変更できるほか、MIDI CCを使って変えることもできます。Setupは、同時に押す鍵盤とのコンビネーションでさまざまな設定が可能。パラメーターにはアルペジエイター以外にもMIDI送受信/チャンネル設定、ピッチ・ベンドのレンジ調整、鍵盤のローカル・コントロールのON/OFFと充実しています。

良質な鍵盤の付いたEurorackケースという選択肢は需要の割に少なかったのではないでしょうか。モジュラー・シンセを一般的なアナログ・シンセのように扱いたい人にとっては、バラバラに買いそろえるよりお得で見た目もクールだと思いました。WALDORF製のモジュールを取り付ければ、デザイン的にも統一性が取れそうです。リア・パネルには見慣れない“Extension”端子があり、今後のシリーズ展開にも期待が持てます!

▲リア・パネル。左より電源端子、Extension端子、Audio Out L/R(フォーン)、Sensor In(フォーン)、Sustain Pedal(フォーン)、MIDI THRU/OUT/IN、USB端子 ▲リア・パネル。左より電源端子、Extension端子、Audio Out L/R(フォーン)、Sensor In(フォーン)、Sustain Pedal(フォーン)、MIDI THRU/OUT/IN、USB端子

サウンド&レコーディング・マガジン 2017年3月号より)

WALDORF
KB37
118,000円
▪モジュール・スペース:107HP(543mm) ▪モジュールの最大奥行き:65mm(92PH分)、25mm(右から15HP分) ▪内蔵パワー・サプライ:+12V/1.5Aおよび−12V/1.5A ▪キーボード:FATAR製37鍵(アフタータッチ対応) ▪外形寸法:656(W)×122(H)×334(D)mm ▪重量:8.5kg(モジュール無しの状態)