
驚くほど近接効果が少ないML-1
モデリングは真空管マイク3種類が付属
VMSは、単一指向性コンデンサー・マイクのML-1、マイクプリのVMS One、ソフトで構成されています。VMS OneはML-1専用というわけではなく、一般的なマイクプリとして使用することも可能です。名機の再現を行う処理は、Mac/Windows対応でAAX/AU/VSTに準拠した同社のVirtual Mix Rackプラグイン内で、マイクをモジュールとして選択。VMS付属の“Classic Tubes”には、NEUMANN U47を元にしたFG-47、SONY C-800Gを元にしたFG-800、TELEFUNKEN Ela M 251を元にしたFG-251が選択できます(そのほか5種類のモデルを収録したClassic Tubes 2も別売りで用意)。
ML-1&VMS Oneは非常に素直な音で、何も誇張しているところがありません。これまでさまざまなマイクを聴いてきた中でもダントツと言ってよいほど近接効果が少ないので、近付いても変に低域がボワンボワンすることがないのです。録音に慣れていない方でも、簡単に使用できるような音になっています。中域高域に関してはクセも無くフラットな質感です。ただ、感度に関してはちょっと弱めなので、繊細さという部分では苦手な感じです。逆に考えれば、タンバリンの録音などでは、コンデンサー・マイクでありがちなチャキチャキした部分が変に誇張される感じも少なく、使いやすいかもしれません。
全体的に、オンマイクの方がML-1の特性は良く出るようです。後ほどのシミュレートのことを考えてあえてこの音の感じにしているように思いますが、このマイクだけでもなかなか使えます。
モデリング元とよく似た質感
オンマイクのボーカルで効果を発揮
ではプラグインを入れてのシミュレートです。Virtual Mix RackはCPUネイティブ・プラグインなので、気になるのがレイテンシー。AVID Pro Tools|HDX環境でシミュレートした音を録音したい場合はいったんAUXトラックにインサートしてからオーディオ・トラックに録音しますが、“H/Wバッファー”を64サンプルにしたときに計129サンプルの遅れが出ます。
まずFG-47から聴いてみましたが、太さがグッと増して存在感が出てきます。この感じならマイク自体が近接効果を少なくしていることの意味が分かります。次にJポップで多用されるSONY C-800Gを再現したFG-800。これも太さが増し、特徴である高域のチリチリ感もちゃんと出ています。FG-251も、中域から高域の収まりがよく表現されています。筆者はモデリング元のマイクすべてを使ってボーカルの録音をしたことがありますが、確かにそれぞれに近い質感になっているのでちょっとニンマリしてしまいました。全体的に、それぞれのマイクの良いところを再現している感じですが、極端にダイナミクスの激しい音などは、やはりオリジナルにはかないません。先述したように、ある程度の音量でオンマイク気味に使う場合に、本機の良さがはっきり出ると思います。
ちなみに、製品の狙いとは少し違う使い方ですが、もうちょっとキャラクターが欲しいなと感じることもあったので、VMS One以外のマイクプリで試してみると、そのマイクプリのキャラクターが付加され、音の選択肢が増えて楽しいです。VMS Oneとそこまで大きな変化は感じられないので、少しひずませたときの質感を楽しみたい場合には、試してみると面白いでしょう。なお、マイク自体をほかの製品に変えてみたら、低域が増え過ぎてやはりこれは全く違うかな……という感じになりました。
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いろいろ試してみて、“似てるな〜”“よくできているな〜”と言える一品ではないかと思います。オンマイクの方が生きるという点では、楽器よりボーカル録音の方が向いているかもしれません。また、何と言っても価格が魅力。十数万円であの感触を味わえるのはうれしいポイントでしょうね。オリジナルが買えるならそれに優るものはありませんが、この価格だったらちょっと試してみるのもいいでしょう。私も販売店に問い合わせてみようかな。

製品Webサイト
https://miyaji.co.jp/MID/product.php?item=Virtual%20Microphone%20System
(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年3月号より)