「APOGEE Element 88」製品レビュー:本体から操作子を排したMac用Thunderbolt接続オーディオI/O

APOGEEElement 88
グルメ・レポートじゃありませんが、APOGEEのThunderboltオーディオI/O、Element 88は食べる前から“おいしい!”と言ってしまいたくなります。だってどこから見てもおいしくない要素が見つからないじゃないですか! ウキウキ気分でレポートしていきますよ!

iOSデバイスからWi-Fiで遠隔操作可能
Logic Pro Xのミキサーで一括操作も

本体を見ると一切のボタン類やメーター類がありません(電源ボタンすら無い!)。それでいてそこそこ良いお値段ですから、上位機種のSymphony I/OやEnsembleのパーツや技術がふんだんに使われていると容易に想像できます。“だけどなあ……録音中にマイク・ゲインとかメーターとかが無いと困るよな……”と心配している方もご安心あれ。専用アプリケーションやAPPLE iPadやiPhoneなどのiOS機器、あるいは別売りのリモート・デバイスApogee Controlを使用した“いまどき”な操作方法でこの問題をカバーしています。

Element 88は16イン/16アウトで、Mac対応。アナログ入力はXLR/TRSフォーン入力×4とXLR×4の8つ、アナログ出力はMAIN OUT(XLR×2)、ALT OUT(TRSフォーン×2)とステレオ・ヘッドフォン×2で合計8つの出力です。このほかにADAT/S/PDIF切り替えのオプティカル端子を装備。もう一台のElementシリーズと同時使用して、入出力を増やすこともできます。さらにワード・クロックの入出力もあり、外部のクロック・ジェネレーターを使用可能。操作系パーツを排除したのにワード・クロック端子は残すなんて、さすがAPOGEEのこだわりと言えるでしょうね。

今回はAPPLE MacBook Proと接続してみます。ダウンロードしたドライバーをインストールして、Element Controlというアプリケーションを開きます。表示プリセットはシンプルなEssentialからFull Functionまでさまざま用意されています。

DAWからの入力はステレオ6系統のバスを持っていて、例えばクリックだけを別バスに出力してヘッドフォンだけに送ることができます。逆にDAWへの送りは各インプットに加えて1つのFX Sendバスがあり、これを利用してモニター用にDAW上でリバーブなどをかけることができたり、ループバックでコンピューター内の再生音をインターネット配信する場合なども便利です。プリセットのEssentialを選ぶとシンプルなツール・バーのようになるので、DAWの脇に常時表示しても邪魔になりません。さらにAPPLE Logic Pro Xでは、オーディオ入力のモジュールに自動的にElement 88の機能が組み込まれ、Element Control無しで使用できます。まるでビルトイン・マイクプリのような機能で、超便利です。

また、iPadでApogee Controlアプリを立ち上げると、アプリ上のWi-Fiリストに私のMacBook Proが現れます。これを選択して、MacBook Pro側で了承すると、あっと言う間にiPadにミキサー画面が現れました。驚くことにメーターなどもほとんど遅延なく表示されます。iPhone用のApogee Controlも、パラメーターは必要最小限ですが十分使えると思いました。

ふっくらとした存在感のある音質で
生楽器収音からロックのドライブまで対応

さてお待ちかねの音質評価です。AVID HD I/Oと比較しました。NEUMANN U87AIをつないでマイク・チェックした瞬間から、“あっ、これはヤバいやつだ”と声が出てしまいました。ヘッドフォンから聴こえてくる自分の声が、今までのオーディオI/Oと明らかに違うのです。非常に小さい音もクリアで存在感があり、大きな音までググっとキープされます。SN比、ダイナミック・レンジ感とトランジェント感が、今まで聴いてきたオーディオI/Oと別次元と言ってよいくらい優れています。

48kHzの録音ではHD I/Oと比べて明らかに丸いふっくらした音、それでいてしっかり存在感があります。あらためて、良い音って何?と原点に立ち返って考えたくなるよう音作りで、APOGEEはエッジの立った、派手な流行を目指さず、果てしなく上質なアナログを追求しているのだと感じました。48kHzでは少し高域が物足りないかなと感じる場面もありましたが、96kHzにするともうこれが素晴らしい。他社I/Oだと例えばストリングスの高域がざらついたりと、どこかしら不自然さを感じるときがあるのに比べて、すべてがナチュラルで立体感ある音として存在します。ハイサンプリングで、そして生楽器の録音で実力を発揮できると確信しました。ちなみにレベルを突っ込んだ音は、ロックな骨太さ、中低域の粘りつくようなドライブ感が加わりこれもすごく良いと感じました。

再生音の比較も、DAコンバーターの音作りが同じ傾向なのか、アナログ的な豊かな音。デジタル系の派手な音は高域と低域のエッジが立つ代わりにステレオ・フィールドにのっぺり張り付く感じがありますが、それと比べElement 88はググっと立体的な音場をせり出してきているという印象でした。

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音の良さと相まって、APOGEEの音に対するこだわりを見せつけられた感じで打ちのめされました。ぜひ欲しい一台です。余談ですが、時々本体からカチカチ音がするなあと思ったら、MacBook Proがスリープに入るとElement 88は自動的に電源が落ち、スリープが戻ると電源が入る、そのスイッチ音でした。本当にMacとよく連動しているなと感心させられました。

▲Mac用のElement ControlのFull Function画面。ALT OUTやヘッドフォン、コンピューターへのFX SendへはAUXセンドのように信号を送ることができる ▲Mac用のElement ControlのFull Function画面。ALT OUTやヘッドフォン、コンピューターへのFX SendへはAUXセンドのように信号を送ることができる
▲リア・パネル。左からMAIN OUT L/R(XLR×2)、ALT OUT L/R(TRSフォーン×2)、OPTICAL IN×2、OUT×2(ADAT/SMUXでは96kHzまで対応、S/P DIFオプティカルでは192kHzまで対応)、ワード・クロック入出力(BNC)。Thunderbolt端子は右に用意。なお姉妹機としてElement 24(オープン・プライス:市場予想価格72,223円前後)とElement 46(同:市場予想価格109,260円前後)もラインナップされている ▲リア・パネル。左からMAIN OUT L/R(XLR×2)、ALT OUT L/R(TRSフォーン×2)、OPTICAL IN×2、OUT×2(ADAT/SMUXでは96kHzまで対応、S/P DIFオプティカルでは192kHzまで対応)、ワード・クロック入出力(BNC)。Thunderbolt端子は右に用意。なお姉妹機としてElement 24(オープン・プライス:市場予想価格72,223円前後)とElement 46(同:市場予想価格109,260円前後)もラインナップされている

サウンド&レコーディング・マガジン 2017年2月号より)

APOGEE
Element 88
オープン・プライス(市場予想価格:174,075円前後)
▪最高ビット/レート:24ビット/192kHz ▪最大入出力数:16イン/16アウト ▪最大入力レベル(+4dBu基準/マイク):+20dBu ▪インピーダンス:入力5kΩ、出力90Ω ▪周波数特性:10Hz〜20kHz(入力:±0.2dB/出力±0.05dB)@44.1kHz ▪ダイナミック・レンジ(A-weighted):入力119dB、出力123dB ▪高周波ひずみ率(THD+N):入力−110dB、出力−114dB ▪外形寸法:350(W)×45(H)×140(D)mm ▪重量:1.6kg REQUIREMENTS ▪Mac:OS X10.10〜10.11、4GB以上のRAM(8 GB以上を推奨)、Thunderboltポート