「SOUNDCRAFT Signature 12 MTK」製品レビュー:名機のマイクプリやオーディオI/O機能を備えるアナログ・ミキサー

SOUNDCRAFTSignature 12 MTK
デジタル・ミキサーが大流行の中、小型ミキサーの分野では依然アナログのモデルが大きなシェアを占めています。そんな小型ミキサー市場において、SOUNDCRAFTから興味深い新製品=Signatureシリーズが登場しました。同社の名コンソール、Ghostのマイクプリを搭載しているのに価格はリーズナブル。ここでは12chモデルのSignature 12 MTKについて、実力のほどを歴代のSOUNDCRAFTミキサーを数多く使ってきた筆者がレポートさせていただきます!

マイク/ライン・インの数は8つ
そのうち2つがDBXのリミッターを装備

Signature 12 MTKはXLR/フォーンのマイク/ライン・インを8つ備え、各チャンネルにハイパス・フィルターと3バンドのEQ、3つのAUXセンドを装備しています(うち1つは内蔵FXへのセンドと共通)。ch7/8およびch9/10のライン・インはステレオ仕様となっており、それらとは別途RCAピンのライン・インL/Rも備えているため、ラインものであれば合計12ch受けられます。これらのチャンネルは、ストリップ内にあるMST(マスター)ボタンと1-2(グループ・バス)ボタンを使い、ステレオのマスターとモノラル2chのグループ・バスのどちらか、あるいは両方に送ることができます。

入出力端子は、RCAピンのライン・インL/Rを除くとすべてバランス仕様で、ch1とch2に関してはDBXのリミッターを内蔵。細かいパラメーターは無く、ボタンでのオン/オフしかできないので、ピーク・リミッター的な使い方になるでしょう。ただ、クセの無い音質です。またch5とch6はHi-Z入力にも対応するので、DIが無くてもギターやベースなどの楽器を直接ライン接続できます。

内蔵FXはLEXICON PROのマルチエフェクトで、リバーブやディレイといった空間系のみならず、コーラスやトレモロなども搭載し、全部で22種類がスタンバイ。各チャンネルのAUX3ツマミで、送り量を調整する形です。そのほかパネル上のUSB端子をMac/WindowsもしくはAPPLE iPadに接続すれば、14イン(インプット12ch+マスター2ch)/12アウトのオーディオI/Oとしても使用可能。iPadと接続する際には、APPLEのカメラ・アダプターが必要です。また、ビット&サンプル・レートは16/24ビット/44.1/48kHzに対応しています。

マイクプリの音は硬くなく骨太な印象
低域にパンチを与えるチャンネルEQ

試しにドラム・キットをマルチマイクで入力してみたところ、価格からは思いもよらないほど音が良く、驚きました。筆者は以前Ghostをよく使っていたので、今回比較はできなかったものの、すぐに同じキャラクターだと思いました。安価なマイクプリにありがちな硬さは無く、筆者のスタジオにあるSOUNDCRAFT Spirit Mシリーズよりもキラキラした感じが少ない分、骨太な印象です。

次にエレキベースを収音。アンプの音はマイク・イン、DIアウトの音はHi-Zのライン・インで受けました。単体機のハイエンド・マイクプリとは比較できませんが、低音感も問題なく収められ優秀です。チャンネルEQは、1990年代の同社レコーディング卓SapphyreのEQを再現しているようで、高域が12kHz固定のシェルビング、中域が140Hz〜3kHzのピーキング、低域が60Hz固定のシェルビングとなっています。キャラクターは一般的な“サンクラのイメージ”とはまた違うユニークなもので、高域は繊細、低域はブリッとした印象です。ブーストしても余計なところが持ち上がらず、使いやすいと思います。

続いてUSBオーディオI/O機能をチェック。APPLE MacBook Proに接続してAVID Pro Toolsを立ち上げてみたところ、インプットの14ch、アウトプットの12chがドライバー無しで認識され、自由にアサインできました(Windowsマシンではドライバーが必要)。インプットの13/14にはミキサーのマスター・アウトが割り当てられているので、DAWのトラックにアサインすれば2ミックスを録音可能。AD/DAの音質は素直でクセがありません。宅録などにも威力を発揮しそうです。ミキサーに入力した音は、ゲインを通った直後にコンピューターへと送られます。また、各チャンネルに付いているUSB RTNボタンを押すとコンピューターからの音声がそのチャンネルのEQ→パン→フェーダーを通るように切り替えられます。

Signature 12 MTKは、コストを下げるために音質とは関係の無い電源スイッチを省略したりしていますが、出音に妥協の無い点には好感を持てました。価格を考えると、これだけのスペック/音質は立派だと思います。

▲電源端子は、底面のくぼみに配置されている。電源スイッチは無いので、ケーブルをつないだらすぐに電源が入る ▲電源端子は、底面のくぼみに配置されている。電源スイッチは無いので、ケーブルをつないだらすぐに電源が入る

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年12月号より)

SOUNDCRAFT
Signature 12 MTK
オープン・プライス(市場予想価格:45,000円前後)
▪入力チャンネル:12(うち8がGhostマイクプリ搭載) ▪AUXバス:3(うち1つは内蔵FX用のバスと共通) ▪グループ・バス:2(モノラル2ch/ステレオを切り替え可能) ▪USBオーディオI/O機能:14イン/12アウト(Mac/Windows/iOS) ▪周波数特性:20Hz〜20kHz(±1.5dB) ▪外形寸法:388(W)×106(H)×388(D)mm ▪重量:5.9kg