
DAW上での操作と連携する
タッチ・センシティブ・モーター・フェーダー
まずはスペックから見ていく。X-Touchはチャンネル・フェーダー8本とマスター・フェーダー1本を用意している。さらに各フェーダー上部にロータリー・エンコーダー、そして視認性の良いLCDスクリーンを配置。その下にはミキサーには欠かせないREC、SOLO、MUTE、SELECTなどのボタン類を搭載している。
本体右側にはトランスポート・ボタン類、ジョグ・ダイアル、オートメーションのモード切り替えボタン、そのほかEQなどのプラグイン選択ボタン、ファンクション・キー、SAVEやUNDOなどのユーティリティ・ボタンも含め、おおよそDAWのミキサー部にある機能をこのパネルに持ってきたと思ってよい。
フィジカル・コントローラーを知っている人にはおなじみだが、X-Touchもモードを切り替えることにより、上部8つのエンコーダーと8つのLCDスクリーン全部を使って1つのチャンネルのEQやAUXセンド、プラグイン・パラメーターを効率良く調整できる。今やフィジカル・コントローラーの定番的な機能ではあるがこれらも過不足なく備わっているのだ。
コンピューターとの接続は、USB、MIDI、LANの3つから選択できる。また、DAWとの接続プロトコルはHUIとMackie Controlを選択可能。そして同社のX-Airなどのハードウェアにも対応する予定とのことで、非常に汎用性が高い。
さて、あらためてX-Touchの利点を探ってみよう。やはり一番便利なのはタッチ・センシティブ・モーター・フェーダーだ。フィジカル・コントローラーが無いとDAWのフェーダー操作はマウス・カーソルで一度に1つの操作しかできない。それが複数同時に動かせるようになるのだ。タッチ・センシティブとは、フェーダーを触るとセンサーが働く機能。例えばフェーダーに触るとオートメーションの書き込みが自動的に始まるし、チャンネル・セレクトの機能も果たしてくれる。そしてモーター・フェーダーはDAWミキサーのフェーダー位置に追従する。これはとても重要で、パッと見ただけでDAWのフェーダーがどういう状態なのか一目で分かるのだ。
レスポンスの良いフェーダー操作で
快適にミキシングを行える
ということで、 X-TouchをSTEINBERG Cubase Pro 8.5、APPLE Logic Pro X、AVID Pro Tools HD 11で試してみた。接続はUSBで行う。まずはPro Toolsだが、使用感はもともとHUI自体がPro Toolsのために作られたものなので快適。フェーダー・バンクを移動すると画面も追従してくるし、チャンネルも1チャンネルごとにシフトできる。X-Touchのパネル・ボタンもほぼ表記してある通りに機能する。
次にLogic Pro。こちらはHUIとMackie Control、どちらも選択可能だ。操作感はフェーダーやバンクの追従、トランスポートの反応など申し分ない。ただX-Touchが汎用機であるため、Logic内の操作子にアサインされている機能とX-Touch本体のボタンの表示が違うことがある。これは後述のCubaseでも同じ。他メーカーではこれを回避するために、機種ごとにかぶせるプレートを用意していたが、ぜひX-Touchでもこういったものを作ってほしい。
最後にCubase。HUI、Mackie Controlどちらも選択可能で、個人的にはCubaseの操作感が一番良かった。タッチ・センサーによるチャンネルの移動や、逆にCubase側でトラックをセレクトした場合に、すぐX-Touchのセレクト・ボタンが反応して、相互にセレクト・チャンネルが反応している感じだ。唯一残念なのが“CLICK”ボタンがCubaseの“CLICK”でないこと。この辺りはバージョン・アップで対応してほしいと思う。
CubaseやLogicはワーク・フローがアレンジ画面中心で、フェーダー操作もアレンジ画面左側のインスペクターにあるトラックごとのフェーダーで操作することが多い。ミキサー・ウィンドウを開ければ各トラックのバランス関係が把握できるが、ディスプレイを占拠してしまう。2台ディスプレイを用意してそちらにミキサーだけを表示する方法もあるが、X-Touchを使えば自分の眼の前に常に物理フェーダーがあり、そしていつでもバランスを変えられ、8個ずつのバンク単位でトラックのバランス関係も視覚的に分かるのだ。
最後に一番言いたかったことを言おう。僕は過去に何回かタッチ・センシティブ・モーター・フェーダーのコントローラーをレビューしているが、X-Touchはそれらと比べても価格が段違いに安い。そして、全く機能的にそん色が無い。BEHRINGERの一番の売りである、革新的な価格というメリットが僕には一番の魅力に感じた。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年10月号より)