「ARTURIA V Collection 5」製品レビュー:多彩なキーボードを高度な技術で再現したソフト音源バンドル

ARTURIAV Collection 5
ARTURIAは、コンピューター上でアナログ・シンセをエミュレートする独自のテクノロジー、TAE(True Analog Emulation)で知られる。今回取り上げるV Collection 5は、そんなARTURIAの音源バンドル。歴史的名機から定番まで、シンセサイザーやキーボードの名機をこれでもかというほど網羅していて、筆者も愛用中。早速レポートをお送りしよう。

FMや加算合成が可能なSynclavier V
解像度の高いハイファイな音を出力

V Collection 5では、前バージョンから新たに5種類の音源を追加、合計17種類もの音源を持つ巨大音源バンドルに拡大した。追加されたのはいずれもキーボード系で、ドラム音源のSpark 2は未収録となった。

中でも最大の話題はSynclavier Vの追加だろう。Synclavierは1970年代末にNEW ENGLAND DIGITALが開発した大規模なデジタル・オーディオ・ワークステーション。Synclavier Vは、このSynclavierのデジタル・シンセサイザー部分を移植したソフトウェア音源だ。製品化には、オリジナルの開発者であるキャメロン・ジョーンズも参加している。

Synclavier Vで音作りの最小単位となるのがパーシャル。2つのオシレーターを内蔵し、FMシンセシスが可能。それぞれ24倍音までの加算合成により、自由に波形を変更できる。エンベロープのほかに、モーフィングによる時間変化も可能だ。

Synclavier Vでは、12パーシャルを装備し、Synclavier IIの4パーシャルから大幅に増強、ビット・デプスも8ビットから最大24ビットへと進化、ディレイやリバーブなどのエフェクトも装備するなど、非常にパワフルな内容。サウンドも、1980年代のマイケル・ジャクソンやジェネシスの楽曲で聴かれるような、ソリッドでありながら厚みのある特徴を受け継ぎつつ、さらにハイファイに仕上がっている。

高域特性を伸ばす新たなサウンド・エンジン
ウィンドウ・サイズを拡大可能

V Collection 5では、オルガンやピアノなどの鍵盤楽器が大幅に増強されている。オルガンでは従来から収録されていたVox Continental Vに加え、1960年代のコンボ・オルガンの名機をエミュレートしたFarfisa Vを搭載。独特のブライトなサウンドと深いビブラートが再現され、実に“おサイケ”。個人的にもお気に入りだ。また、オルガンではB-3Vも新搭載。その名のとおりバーチャル・トーン・ホイール・オルガンだ。

いずれも、非常に多くのパラメーターを持ち、ユーザー自身がさまざまな状態に調節できる。アタックやディケイなどのエンベロープ、ブライトネスやトーンを大胆にエディットすると、オルガンにとどまらない幅広い音作りが可能だ。

エレピでは、従来からのWurli Vに合わせ、RHODES Suitcase/Stage PianoをエミュレートしたStage-73 Vを装備。実機と同様にピックアップ位置を変更したりトーン・バーの共鳴などを調節して自分好みのトーンにできる。また、オルガンと同様に、ディレイやオーバードライブなどのストンプ・エフェクト、アンプやスピーカーのシミュレーターをエディットすることも可能だ。

Piano Vはアコースティック・ピアノをモデリングした音源。コンサート・グランドやアップライトなどのモデルを内蔵し、弦やハンマーの状態のほか、オン/オフ4つのポジションのマイク・バランス、スタジオやホールなどのルーム・アンビエンスの調節などが行える(画面①)。デフォルトでは、しっとり落ち着いたサウンドだが、調節によってブライトなロック・ピアノやメタリックなエレクトリック・グランド、ホンキートンクなどの音色を作成できる。

▲画面① Piano Vではチューニングのほかマイク・ポジションやルーム・アンビエンスなど、さまざまな設定を行える ▲画面① Piano Vではチューニングのほかマイク・ポジションやルーム・アンビエンスなど、さまざまな設定を行える

これら、新たに搭載された音源のほかにも、数々のビンテージ・シンセ/キーボードを収録。従来から定評のあるサウンドだが、V Collection 5では、サウンド・エンジンに改良が加えられていて、高域の特性がさらに素直に伸びている印象だ。また、GUIが改善され、ウィンドウ・サイズを60〜200%まで変更できるようになり、高精度ディスプレイを使用していてもストレスなく操作できる。さらに、ブラウザーも一新され、音色のタイプやキャラクターでタグ検索できるほか、自由にプレイリストを作って、よく使う音色をまとめて管理できるようになった。従来、音源によって方式が異なっていた音色の読み込み/保存も統一され、非常に使いやすくなっている。

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ARTURIA V Collection 5は、総合的な鍵盤楽器音源バンドル(表①)として、さらに充実した内容へと進化している。実際に使用するのが難しいビンテージ機種を網羅している上、今回加わったSynclavier Vは、今現在のデジタル・シンセとしても最先端の可能性を持っている。さらに、ピアノ、オルガンといったベーシックなキーボードも充実しており、制作のベースとして最適。あらゆるクリエイターにお薦めしたい製品だ。

▲表① バンドルされたソフトウェアは全17種。色の付いた製品が今回初搭載 ▲表① バンドルされたソフトウェアは全17種。色の付いた製品が今回初搭載

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年10月号より)

ARTURIA
V Collection 5
72,000円
REQUIREMENTS ▪Mac:OS X 10.8以降 ▪Windows:Windows 7以降 ▪対応フォーマット:VST 2.4/VST 3/AAX/Audio Units/NKS、スタンドアローン ▪共通項目:2GHz以上のCPU、4GB以上のRAM、8.5GB以上のハード・ディスク空き容量