
3系統の入力を切り替えて使用可能
ほぼ0Ωを実現した出力インピーダンス
RNHPは同社のデスクトップ・コンソール5060 Centerpieceのヘッドフォン・アウト回路をベースに開発されました。電源に24V ACアダプターを採用して本体を小型化。ヘビー・デューティなスチール製シャーシの底面は、液晶モニターのマウントで標準になっているVESA 100規格に対応しており、市販の金具でマイク・スタンドやデスク・アーム・マウントにRNHPを取り付けできます。
入力は3系統あり、Input Aが+4dBuのバランス入力(XLR/TRSフォーン・コンボ)、Input Bが−10dBVのアンバランス入力(RCAピン)、Input Cがスマートフォンなどに合わせたステレオ・ミニです。その3系統をフロント・パネルのスイッチで切り替えられます。ヘッドフォン・アウトは1系統。ボリューム・コントロールには左右のレベル誤差(ギャング・エラー)の少ない高精度のポッドを採用して、音像のブレを少なくしています。
そして心臓部であるアンプ部は、アンプとヘッドフォンの相性問題を排除したダイレクト・カップル・アンプ設計により、ほぼ“0Ω”という低出力インピーダンスを実現しています。ヘッドフォンやイヤホンのインピーダンスは、バランスド・アーマチュア(BA)ドライバーを数基搭載した数Ωという低インピーダンスのイヤホンから、業務用ヘッドフォンの600Ωまでと幅広く、スピーカーと異なりインピーダンスは周波数により大きく変化するもので、静的ではありません。結果、多くのアンプにとっては理想的な電気負荷と異なるため、周波数特性の低下やノイズ、ひずみの増加が起こってしまいます。RNHPのアンプ部は出力インピーダンスを可能な限り0Ωに近付けるように設計。これによりヘッドフォンへの影響を最小にし、相性の問題も解決しているそうです。
質実剛健で脚色の無い音質
どのヘッドフォンでも印象が変わらない
それでは音を聴いてみます。用意したヘッドフォンはSHURE SRH840(44Ω)、SRH1540(46Ω)、SONY MDR-CD900ST(63Ω)、SENNHEISER HD 650(300Ω)、BEYERDYNAMIC T1 2nd Generation(600Ω)、BOSE QuietComfort 15。イヤホンはWESTONE WST-ES60(46Ω)、ONKYO IE-C2(75Ω)を使いました。比較したヘッドフォン・アンプは、オーディオ・インターフェース、モニター・コントローラー、プロ・レコーディング・スタジオのキュー・ボックスに内蔵のものと、単体の高級ヘッドフォン・アンプです。
RNHPは、さすがヘッドフォン専用に設計された製品。派手さはありませんが、質実剛健という言葉がピッタリと合う、脚色の無い音色です。どのヘッドフォン、イアモニでも印象は一緒で、ダイレクト・カップル・アンプ設計により相性問題が解決されているのを実感しました。私はヘッドフォン・アンプにこだわり、25万円する単体機を普段から愛用してきました。これはミックスの最初と最後に使うにはいいのですが、ミックス時に使っているパッシブ・モニター・スピーカーよりもやや派手な音がするために、少し悩む部分があったのも事実です。それがRNHPだとスピーカーのイメージと近く、自信を持って作業を進めることができます。
300Ω以上のヘッドフォンでも、RNHPは難なくドライブすることができます。ただ、大音量が求められるドラム・ダビングなどでは、ハイインピーダンスのヘッドフォンでは厳しい場面もあるかもしれません。それでも一般的な100Ω以下のヘッドフォンなら、ドライバーか耳が壊れるほどの音量を得ることができます。
またBAドライバーのイヤホンの場合、ヘッドフォン以上にアンプのクオリティに左右されることが多いのですが、RNHPでは他のヘッドフォンとの差もそれほど感じられませんでした。
入力端子による違いも、Input AとBでは印象は変わらず。ステレオ・ミニのInput Cも、APPLE iPhoneのヘッドフォン端子からのフル・ボリューム入力でもひずむこともなく、ボリューム位置12時でiPhoneに直接挿した場合と同じ音量が得られるので、音量が足りないということもありませんでした。
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今回はさまざまな現場で試してみましたが、頑張って買った高級ヘッドフォンの実力を出すには、専用のヘッドフォン・アンプへの投資が必要だと痛感しました。希望としては複数の出力やスルー端子なども欲しくなってしまいますが、持ち運びやすいこの大きさも重要です。RNHPは求められるスペックをあきらめることなく小さなケースに詰め込んだ、バランスの取れた製品だと思います。


(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年10月号より)