
タムのアタックからサステインまで収音 低域がATM25並みに伸びたATM230
まずATM230から見ていきましょう。形状は以前からあるATM23HEと似ていますが、ATM23HEがスネア向きとされているのに対し、ATM230の特性は12kHz以上を急峻にロール・オフ。一方、低域はキック向きとされるATM25並みに伸びています。その特性のおかげで、大口径のフロア・タムによくマッチしました。 今回は奏法の関係でトップ・シンバルを低く設定していたのですが、通常のマイクですとケーブルのコネクター部を含めたマイク・エンド部の突き出しが大きくなり、シンバルに接触してしまいそうになります。ATM230はエンド部が実質ホールディング部分のみと短いですし、L型のXLRコネクターを使えば前方向からのマイキングができます。最近はほかにもこうしたエンド部の短いマイクがありますが、低域特性の弱い製品もあり、今まであまり使ったことがありませんでした。 本機を含め、このタイプのダイナミック・マイクは、カプセルを小型化するためにレア・アース系の強力なマグネットが採用されることが多いです。それによって、確かに音の立ち上がり感は良くなるのですが、その反面、聴感上のサステインが減って聴こえる場合もあります。本機の場合、低域まで周波数特性が伸びているおかげだと思いますが、ドラム・ヘッドの振動の消え際まで入ってくるような感じがして、サステイン感は消えにくいと思いました(写真①)。もちろんサステインが増減して聴こえるのはアタックとの比較による錯覚ではあるのですが。

また、ATM230は、超指向型にありがちな、高域になるほど指向性がさらに鋭くなる傾向は少ないようです。タム類などは、お互いに共鳴しあってサウンドしていると思うのですが、その点で複数本でそれらの相互関係をとらえやすいと感じました。スピーカーで言えば、定指向性ホーンの感覚。超指向ではあるのですが、少しオフマイク気味にアレンジすれば、ジャズなどで少ない本数で収音したいジャンルにも向いているかもしれませんね。ちなみに、ドラムのリムに引っ掛けるタイプのホルダーが付属しています。
粒立ちの良い高域が特徴 レンジの広い楽器に向いたAE2300
続いてAE2300です。全長が95mmと短いので、迷うこと無くスネア用に使いました。今回どうしてもタムの間を通して正面から収音したかったので重宝しました(写真②)。

この大きさで、AUDIO-TECHNICA独自のダブル・ドーム型ダイアフラムを採用。特性表では、5kHzあたりにわずかなプレゼンス・ピークを持ち、超高域は16kHz付近までフラットな特性のようです。低域側は100Hzまでフラット。ギター・アンプの収音を意識してか、6kHzから−6dB/Octのカーブを持つローパス・フィルター・スイッチも内蔵しています。個人的には、スイッチ類が壊れることが心配なのですが、本機の場合はスイッチの埋め込みがやや深めなので、まずは安心です。 ATM230と比べると、AE2300は一般的な単一指向性。指向角は帯域内で均一で、少しくらい角度がずれても音はあまり変わりませんでした。ダブル・ドーム・ダイアフラムのおかげでしょうか、いわゆる粒立ちがとても良い高域です。低域も不足は無いので、スネアのようにレンジの広い楽器に向いていると思いました。ちなみに付属のホルダーはとてもしっかりした作りで、多少の防振性もあるようです。 § 両機ともAUDIO-TECHNICAらしく、誇張はせず、しかし設定した帯域は正確にピックアップするという性格のマイクでした。作りがとても良く、ボディは真ちゅう製です。往年の同社製トーン・アームを思い出しました。欧米系メーカーのサウンドとは違ったキャラクターではありますが、良いマッチングの製品だと思います。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年6月号より)