
10個のフィルターでハウリングを抑え
3つのモードを選べるANTI-FEEDBACK
Go Rackは2chのマイク/ライン・インとステレオ1系統のAUXイン、2系統のL/Rアウトを備え、大きさはほぼ厚手の文庫本サイズとコンパクトだ。トップ・パネル中央には、左からディスプレイ、VOLUME(EDIT)エンコーダー、L/Rの入力ゲインつまみ、入力信号のレベル表示LEDが並ぶ。下段にはMUTEボタンと、ANTI-FEEDBACK、COMPRESSOR、SUB SYNTH、EQという4つのエフェクトが並ぶ。
ボタンの機能を述べておこう。MUTEボタンは、押して点灯させると、本機からの出力信号がミュートされる。このボタンを長押しすると、Go Rack全体の信号のルーティングを3パターンから選択できる。“1”は、2つのマイク/ライン・インに4つのエフェクトがかかり、AUXインと合わせて全体をモノラルで出力(L/Rの信号は同一)する。“2”はマイク/ライン・インがL/Rで独立して4つのエフェクトがかかり、AUXインもステレオのまま加算されてL/Rから出力される。“3”は、マイク/ライン・インにANTI-FEEDBACKとCOMPRESSORがかかったところでモノラル化、AUXインにはSUB SYNTHがかかってステレオのまま加算され、入力全体にEQをかけたところでL/R出力される。シチュエーションに応じて、この3つのパターンの中から信号のルーティングを選ぶわけだ。
ANTI-FEEDBACKは、マイクやアコースティック・ギターのピックアップなどから起こるハウリングを抑える機能で、このボタンを押すと、10個のフィルターが自動的にハウリングの原因になっている周波数帯域を除去してくれる。フィルターの幅の狭い順にミュージック、ミュージック/スピーチ、スピーチと3つのモードが選べる。
COMPRESSORのかかり具合は圧縮なしの1から最大99までの値を選べ、EQは低域ブーストの1から高域ブーストの16まで、16種類のプリセットの中から選択が可能だ。
使い分けしやすい16種類のEQプリセット
タイトに低音を充実させるSUB SYNTH
ホーム・スタジオでマイクや楽器、音楽プレーヤーなどを本機に入力し、出力をミキサーからヘッドフォンで確認。信号経路はクリアな上、COMPRESSORやEQ(大体±6dBの範囲)はよく効く。ノイズが少なくて良い。
次に、リハーサル・スタジオに持ち込んで本機をそのままパワー・アンプにつなぎ、ダイナミック・マイクとアコースティック・ギターをマイク/ライン・インに接続。AUXインには音楽プレーヤーをつないでライブ用のバック・トラックを流す。ルーティングはソロ演奏に適した“3”に設定し、音量バランスがちょうどよくなるようにそれぞれレベル調整したところで、各エフェクトを試していく。
ANTI-FEEDBACKは、劇的に効く。ハウリングが起こるようにマイクをスピーカーへ向け、音量をかなり上げたところでANTI-FEEDBACKをオンにすると、自動的にフィードバックが治まる。モードは計算に一番時間がかかる“ミュージック”にしたのだが、ものの数秒で処理し、音質変化も少ない。次に、フィルターが10個あるので、別の周波数でハウリングが起こるところまで音量を上げたが、これも数秒で治まった。この工程を数回繰り返すと、もはやマイクの音量が大き過ぎるところまで上がってしまう(後で本機をミキサーに入力し、おおざっぱに計測したところでは、ANTI-FEEDBACKで6dBは音量を稼げていた)。リハーサル時にあらかじめハウリングを起こしてANTI-FEEDBACKをかけ、そのまま適正ボリュームに戻してライブをやると良いだろう。小規模なライブでは、オーディエンス用のスピーカーがプレイヤーのモニターも兼ね、プレイヤーの横や後ろに設置されることも多いのでハウリングを起こしやすい。そのため、このANTI-FEEDBACKの機能はとても役に立つ。
COMPRESSORはかかり具合を調整するだけで、マイクやギターに同じコンプがかかる。きつめにかけると音が前に出て演奏は気持ち良いのだが、ハウリングを起こしやすくもなる。圧縮値40~60あたりで微調整していくと、バック・トラックとのマッチングも良く、音量が出せて楽に歌えるポイントが見つかる。
SUB SYNTHは、原音から新たに低音の信号を合成するとても役立つ機能だ。スピーカーが低音不足の場合でも、まるでサブウーファーを加えたかのように低音が充実する。また、原音の中高域には影響を与えないので扱いやすい。EQで低音を上げるのに比べると、モワツキがなくタイトに低音が加わるのだ。
EQの16種類のカーブはプリセット名と順当なところで、歌にはローカット/ハイ上げの“12”や同傾向の“15”などが適する。歌に使う場合と、バック・トラックやトータルなサウンドに使う場合では、適したプリセットが異なるし、小規模PAを使うような会場は、場所ごとに著しく響きが違うので、場所に応じて用いると良いだろう。
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小規模なライブやイベントを行う人なら、プレイヤー/DJ/エンジニアを問わず、誰でも使ってみるとよい製品だ。入出力のレイアウトやエディットのやりやすさなど、操作性が良く、コスト・パフォーマンスはとても高い。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年5月号より)