「EVE AUDIO SC203」製品レビュー:新開発の専用設計リボン・ツィーターを搭載した3インチ・モニター

EVE AUDIOSC203
本誌1月号の『プライベート・スタジオ特集』を見て思ったのですが、近年のプライベート・スタジオ環境の充実度はすごいですね。商業スタジオよりも機材や環境がそろっているスタジオもあり、クリエイターの皆さんの情熱を感じました。制作においてもプライベート環境での作業の比率が増えている昨今ですが、モニター環境は悩みの種の一つ。個人で万全な環境を構築するのは至難の業ですよね。今回レビューするのは、最近よく名前を耳にするEVE AUDIOの新製品SC203。一見して分かる通りデスクトップへの設置を考慮して開発された小型パワード・モニターです。今回自宅環境を中心にチェックしてみました。

パッシブ・ラジエーターを搭載
さまざまな入力ソースに対応

本機の大きさは116(W)×190(H)×134(D)mmとかなりコンパクト。一般的な作業用のデスク上でも作業に支障無く設置可能な大きさです。FlexiPadというオレンジ色のラバー・ベースが付属しており、0°、7.5°、15°と角度を付けることができます。本機はマスター(R)/スレーブ(L)の接続方式で、マスター側の入力はアナログ(RCAピン)、デジタル(オプティカル)、そしてUSBでの接続が可能です(デジタル接続は96kHzまで)。

本機の大きな特徴にパッシブ・ラジエーターの搭載が挙げられます。パッシブ・ラジエーターとは、要はダミーのウーファーで、フロントのウーファーが動いたときのキャビネット内部の空気圧でドライブし低域を補強する仕組みです。このサイズでパッシブ・ラジエーターを搭載しているスピーカーはコンシューマー製品も含め、極めて珍しいかと思います。チューニングには相当な手間と時間がかかったのではないでしょうか。ウーファーは3インチとかなり小口径ですが軽快かつ長いストロークを可能にするためにあえてコート加工した紙素材を使用しているとのこと。この点も最近では珍しいですね。ツィーターも特徴的で、EVE AUDIO独特のA.M.T.リボン・ツィーターを本機専用に小型に改良したμA.M.T.ツィーターを採用。メーカーの意気込みが感じられます。ツィーター、ウーファー共にユニットはパンチング・グリルでカバーされており、物が散乱しがちなデスク上でもうっかりユニットを傷つける心配がありません。

インプット・ソースや音量の調整などはすべてマスター機のノブで行います。接続まではマニュアルを見なくても簡単でしたが、多くの機能を一つのノブでカバーしているため、操作には少し慣れが必要かもしれません。今回モニター・コントローラーとしてGRACE DESIGN M906を使用しました。まずはアナログ入力で試聴。ラバー・ベースを使用して15°の角度を付けてデスク上に設置してみると、予想よりもはるかに大きなスケール感の音が出てきました。このサイズで聴ける低音とは思えません。それほど大きな音量を出さずとも厚みのある低音が出てきますが、決して過剰になることは無く、全体の周波数バランスは非常に良いです。リボン・ツィーターのおかげか、ナチュラルな印象の高域で解像度は高く、中間定位や空間表現もしっかり聴き取れます。ややモニター・ライクな生真面目さが感じられますがつまらない音ではなく、むしろ盛り上がれるパワフルさもあります。ワイド・レンジながらもボーカルの帯域がへこむことも無く、YAMAHA NS-10M的なミドルの張りもわずかながら感じられます。

デジタル接続ではわずかながらセンターの定位がくっきり決まり、解像度が増す感じがあります。個人的にはデジタル入力の方がサウンドは好みでしたが、レベル・コントロールをSC203のノブで行うことになり、その操作には慣れが必要でしょう。自分ならアナログ入力で使うと思います。ここは個人差もあるでしょう。

DSPコントロールを内蔵し
作業環境に合わせて調整可能

本機はDSPを内蔵しており、クロスオーバーやフィルター・コントロール、レベル・コントロールなどを行っています。ハイシェルビング、ローシェルビングのほかに、設置場所に合わせたEQ設定が3通り用意されています(フラット、デスク、コンソール)。ここまでデスク上の設置で、EQはフラットだったのですが、今回の試聴環境ではデスク用のEQは入れない方が良好でした。基本的なバランスが良く高性能なのでEQの出番はあまり無いのではないでしょうか。また、小音量時でも優れた周波数バランスを実現しています。さらにデスクトップに設置することでかなりニアフィールドでのモニタリングが可能になるため、部屋のアコースティックな鳴りの影響を最小限に抑え直接音をモニターすることができます。自宅環境はもちろん、スタジオ環境も含めたミキシングに活躍するモニターだと言えるでしょう。

▲マスター機のリア・パネルにはアナログ・インL/R、アナログ・サブアウト(すべてRCAピン)、USBイン、デジタル・イン(オプティカル)、リンク・ケーブル端子、DCイン、DIPスイッチを備える ▲マスター機のリア・パネルにはアナログ・インL/R、アナログ・サブアウト(すべてRCAピン)、USBイン、デジタル・イン(オプティカル)、リンク・ケーブル端子、DCイン、DIPスイッチを備える

製品サイト:http://www.minet.jp/brand/eve-audio/sc203/

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年2月号より)

EVE AUDIO
SC203
64,630円/ペア
▪構成:ウーファー(3インチ)+ツィーター(μA.M.T.) ▪アンプ:低域30W/高域30W ▪最大出力レベル:94dB ▪周波数特性:62Hz〜21kHz ▪クロスオーバー:4.8kHz ▪外形寸法:116(W)×190(H)×134(D)mm ▪重量:1.9kg(マスター)、1.7kg(スレーブ)