「SPITFIRE Albion One」製品レビュー:素早い音楽制作に有効なシネマティック音源の新バージョン

SPITFIRE AUDIOAlbion One
英国に拠点を置くSPITFIRE AUDIOは、これまでにオーケストラ、バンド、シンセサイザー、フィールド・エフェクトなど60タイトルを超える音源を発売しています。特に2011年にリリースしたシネマティック・フルオーケストラ音源“Albion Vol.1”は音質もハイクオリティながら非常に使い勝手のよい音源ということもあり、世界中のコンポーザーに愛用されました。いわば、SPITFIRE AUDIOの代表音源といっても過言ではありません。同社の顔ともいうべきAlbion Vol.1がこの度、完全リニューアルされ“Albion One”として生まれ変わりました。ではどのように生まれ変わったのか早速にチェックしていきたいと思います。

木管/金管/弦のほか
シンセサイザー音源を搭載

初めに動作環境とフォーマットですが、Albion Vol.1同様、NATIVE INSTRUMENTSのKontakt 5 Playerを使用し、空き容量は55GB以上必要となります。Mac/Windows両対応で、フォーマットはVST、Audio Units、AAXのほかスタンドアローンでも起動可能です。Albion Vol.1と違う点は、オーケストラの人数を増やし音色が再録音された点。さらにアーティキュレーションもより多くのパターンが収録されています。また、パーカッションやシンセ系音源、ループ素材なども新規に追加されていたりと、まさにユーザーが望んでいた正統進化と言えます。収録パッチは大きく分けると、“Albion One Orchestra”(オーケストラの基本となる木管、金管、弦の各セクション)、“Darwin Percussion Ensemble”(TomsやCymbal、重低音のLow Percussion、Metal Percussionなど)、そして同社からリリースされているシネマティック・シンセサイザー音源で使われている高機能エンジン“eDNA”を使用したループ音源“Brunel Loops”と、シンセサイザー系“Stephenson’s Steam Band”の4つのカテゴリーに分かれています。一つうれしいのは、Albion Vol.1のパッチが一緒に収録されている点で、今までAlbion Vol.1を使用していた方も安心してAlbion Oneにアップデートすることができます。

効率よくまとめられた各パッチ
自由度の高い音色加工が可能

では収録パッチをぞれぞれ見ていきましょう。まず、“Albion One Orchestra”にはBrassのHi/Mid/Low、そしてWoodsのHi/Low、Stringsという基本パッチがあり、オーケストラの楽器が非常に効率良くまとめられています。すべてのパッチを立ち上げたとしても、たったの6chしか使用しません(パーカッションは除く)。また、各楽器はキー・スイッチがあり、弦であればPizzicato、Staccato、Spiccato、Tremolo、Con Sordino、Collegnoなど基本的な演奏方法を収録しています。StringsのLegatoは非常に立ち上がりも早く、ピッチも安定した高級感のある音色で優しい曲、激しい曲ともに使えるオールマイティなStrings音源と言えます。Hi/Mid/Lowと分けられているBrassにおいては、HiがTrumpet+Horn、MidがHorn+Trombone、LowがTrombone+Tuba。木管はHi/Lowで、HiがFlute+Oboe、LowがClarinet+Basssonと、あらかじめ楽器が割り当てられているので、パッと目的の音を出せます(画面①)。また“Darwin Percussion Ensemble”には、Cymbalのほか、Boom系の低音パーカッション、Tom系、Metal Percussionなどを収録。それぞれ空気感のあるサウンドです。

▲画面① “Albion One Orchestra”のBrass Highの画面。Dynamics、Release、Tightness、Lush verb、Expressionといったパラメーターで音色をコントロールできる ▲画面① “Albion One Orchestra”のBrass Highの画面。Dynamics、Release、Tightness、Lush verb、Expressionといったパラメーターで音色をコントロールできる

そして、eDNAを使用したループ音源とシンセ音源の両パッチですが、どのパッチも本当に丁寧に作られており、すべての音色がクールなサウンドで実用的なパッチが多いのも特徴です。しかも、eDNAエンジンのおかげで、音色も自分なりに自由に変化させることができます。特にLFOはVolume、Pitch、Filterに掛けられ、簡単に面白い効果を作ることが可能。エフェクトもDistortion Drive、Tape Saturation、Flanger、Phaserなど、充実の内容となっています。

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ユーザーの意見をしっかりと取り入れて独自に進化していくSPITFIRE AUDIOは、もともと作曲家が集まって設立された会社だけあって、常に作曲家目線で作られており、画面も非常に使いやすく分かりやすい仕様です。Albion Oneはオーケストラ楽曲を急いでスケッチし、モックアップを作らなければいけない、または、楽曲の全体の雰囲気を形作りプレゼンしたい、といった場合に威力を発揮する音源だと思います。また、オーケストラの楽曲を書くのに、たくさんの音源を立ち上げるほどマシン・パワーがない、といった方にもお薦めできるでしょう。

製品サイト:http://www.crypton.co.jp/mp/do/prod?id=99411

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年2月号より)

SPITFIRE AUDIO
Albion One
59,480円(表記の価格は2015年12月14日現在のもの)
REQUIREMENTS ▪Mac:OS X 10.8以降、INTEL CPU 1.66GHz以上 ▪Windows:Windows 7/8/10(最新サービス・パック32/64ビット)、INTEL Core Duo/Athlon 64 1.66GHz以上 ▪対応フォーマット:Audio Units、VST2.4、VST3、AAX Native、スタンドアローン ▪共通項目:4GB以上のRAM、55GB以上のハード・ディスク空き容量