
小鳥のさえずりのようなノイズを除去
失われたトランジェントの回復も可能
Unchirpの主な機能としては、プラグイン名の“chirp”が“小鳥のさえずり”という意味があることから分かるように、低ビット・レートに圧縮したMP3音源などで発生する、小鳥のさえずりのようなノイズを抑制することが可能です。それに加え、極度に音圧を上げ過ぎてビートの抑揚すら感じられなくなってしまった音源に対して、トランジェントを修復することも可能となっています。
何はともあれ使ってみようということで、まずは説明書を読んでみましたが……これがもう人生で出会ったプラグインの中でも1、2を争うぐらい難解。何度も読み返して何とか半分くらいは理解できました。でもご安心を。そこはメーカーも分かっているようで、便利なプリセットが多数登録されています。圧縮ノイズ処理に有効な、MP3やAACのビット・レートに合わせたプリセットも豊富に用意され、ほかにも実用的に使えそうなプリセットが多数。この中から用途に一番近いプリセットを選び、そこから音源に合わせて微調整を行うのがよいように思いました。もちろんこのプラグインの動作原理を理解できる方はマニュアル操作も可能ですので、かなり突っ込んだ使い方もできる懐の深さはあります。
素材には低ビット・ノイズが含まれる、ノイズ・リダクション処理を過度に施したファイルを用意。狙ったノイズが含まれたものを作成できたので、これをUnchirpで処理すると、完全とは言えないまでも気になっていたさえずり音が抑制され、とても聴きやすいレベルまで補正が可能です。ノイズ・リダクションは音楽制作ではなかなか使う場面は少ないですが、映像現場で収録されるような音声処理などでは使用頻度の高い処理なので、とても役立つ機能となるのではないでしょうか。
また、音楽制作で活用する方法として、かなり強いコンプレッションをした音源も用意。これもある程度のトランジェントを感じられるように補正することが可能でした(画面①)。

ただしあまりやり過ぎると違和感を覚えるため、補正のかかり具合はほどほどにする方がよさそうです。ループ素材などでもう少しビート感を強めたい、はっきりさせたいときなどに有効ではないかと思いました。
高周波成分の復元機能を使って
エキサイター的な効果も得られる
基本的には低ビット・ノイズの除去とトランジェント補正という、2つの機能がベースとなっていますが、それらに追加して高周波成分を復元&付加する機能が備わっています(画面②)。一見よくあるエキサイターと同じ仕組みかと思ったのですが、そこは全く新しい技術を使っているとのことで、より自然な高周波成分の補正を可能としていました。ただしこちらも過度な使用は不自然になるので注意が必要です。

これらの機能からするとUnchirpはあくまでも状態の悪い音源を修復するだけと思われてしまいそうですが、問題の無い音源に対しても有効です。補正の効果をうっすらほどよくかけることによって、ちょっとしたアクセントを追加する、マスタリング的な使い方も可能でした。
一つ注意すべき点としては、膨大な演算が必要なためかCPU負荷がとても高いです。APPLE Mac Pro 12 Coreモデルでも、通常モード時でCPUメーターが60%辺りになり、HDモード時は時折ノイズが出てしまうほど高負荷になりました。基本的には通常モードで調整を行い、その後HDモードでオフライン・レンダリングを実行するという使い方が正解のようです。
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なかなか特殊なプラグインだと思いますが、日ごろノイズ・リダクション・ソフトを使い、それによって発生するノイズに悩まされている方にはとても有効なツールになると思います。さえずりノイズに悩んでいる方は一度試してみるのはいかがでしょうか。
ちなみに今回、Unchirpの効果のほどをチェックするためにワザと圧縮で劣化させたファイルを作成しようとしたのですが、最近のMP3エンコーダーは性能が格段に良くなっており、ビット・レートを低く設定してもさえずり音のノイズがほとんど生成されませんでした。そんなことからも圧縮ノイズ補正という機能を活用する場面は、過去の音源処理がメインになるのかなと思いました。
製品サイト:http://www.mi7.co.jp/products/zynaptiq/unchirp/
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年1月号より)