「AUDIONAMIX Trax Pro」製品レビュー:2ミックスからボーカルと伴奏とを分離抽出できるMac対応ソフト

AUDIONAMIXTrax Pro
私は長年にわたるVocaloid開発で、ほぼ全メーカーの加工ソフトを所有し、日々駆使しています。このTrax Proも数カ月前に知ってすぐ購入し、現在ヘビーに使用しています。新製品の場合“試用”レポートが多いのですが、今回は詳細な“使用”レポートをお送りしますよ。

ボーカルとトラックを自動分離
定位や周波数レンジなどでより正確に解析

Trax Proを一言で言うなら“ついに夢が叶った脅威のカラオケ作成ソフト”。今までのカラオケ作成ソフトやカラオケ作成マシンはほとんどがステレオL/Rの逆相を使うやり方で、そこで作成されたカラオケはお世辞にもまともなサウンドと言えませんでした。Trax Proはスペクトル解析したデータから、高度なアルゴリズムを使い、本当にボーカル成分だけを抜き出せるのです。最終的には“Vocal”“Music”という2つのファイルを出力します。名前の通りVocalは抽出したボーカル・オンリーで、Musicがそのカラオケです。

実際に使ってみましょう。Trax Proの画面を見ると、一番上にSeparate/Process/Spectralという3つのボタンがあり、実はこれがTrax Proの3つの作業工程すべてになります。

Separateでは、ファイルを読み込ませると自動解析が始まり、VocalとMusicに自動で分けてくれます。この状態でもかなり精度の高い分離をしてくれているのですが、画面にピッチ・カーブが表示され、自分で書き込んで間違ったカーブや要らないカーブを修正するのです。それを終えて、画面下部にあるSEPARATEボタンを押すと、再分析が始まり、ファイルが変更されます。

このとき、右側の窓にRefindという項目が追加されます。これは一つ一つの処理に対する履歴で、いつでも前の処理に戻れるようになっているのです。

Separateの工程を終えると、Processでの第2段階に入ります。画面下部左のProcessingというボタンを押し、Vocalに含まれているリバーブの種類や、Musicに残されがちな子音の解析をさらに進めます。そして、Post-processing Toolsを使って、Vocalに含まれているドラムの漏れや、ステレオ定位でのボーカルの位置、ボーカルの周波数レンジを指定して、より正確なボーカル・トラックを抽出するのです(画面①)。

▲画面① Processツールでは、作業工程順にトラックが下へ並んでいく(画面はVocal)。中央はSpatial Isolationという機能で赤い部分の上下がVocalの周波数レンジ、左右が定位を示す ▲画面① Processツールでは、作業工程順にトラックが下へ並んでいく(画面はVocal)。中央はSpatial Isolationという機能で赤い部分の上下がVocalの周波数レンジ、左右が定位を示す

スペクトラル解析やノイズ除去も搭載
同録したダイアログの抽出も可能

最後のSpectralは、下位バージョンのTraxには無く、Trax Proだけに搭載されている機能。スペクトラム解析の結果を見ながら、自分で音を抽出したりカットしたりできます(画面②)。さらに数種類のノイズ・リダクション・ツールを備えていて、ノイズ部分を学習させ、ボーカル・トラックからノイズを除去できるのです。この3つの工程で、VocalとMusicは驚くほど奇麗に分離できます。

▲画面② SpectralではL/Rごとにスペクトラム(時間軸上での周波数分布)で編集が可能。中央はDenoiseツールで、演奏していない部分でノイズ成分を学習することで、演奏に重なるノイズを除去することができる ▲画面② SpectralではL/Rごとにスペクトラム(時間軸上での周波数分布)で編集が可能。中央はDenoiseツールで、演奏していない部分でノイズ成分を学習することで、演奏に重なるノイズを除去することができる

Trax Proのすごいところは、あくまでも曲に含まれている成分だけを何も変えないで抽出し、Vocalからある音を削除すればその音が自動的にMusicに足されるので、2つのファイルを同時に同じ音量で再生すれば完全に元曲を再現できることです。また、使用にはインターネット接続が必須で、実は作業の大部分をAUDIONAMIXのクラウド・サーバーが行っているのも、時代の一歩先を行っている気がします。

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一つだけ十分に注意しなければならないことは、著作権です。個人で楽しむ以外は、勝手に楽曲からボーカルを抜いてリミックスしたり、カラオケを世の中に公開したりということは違法になります。一方我々のような現場の人間には、ライブ録音からボーカルを抽出して、コンプやEQなど加工を施したり、歌だけでなく同録のダイアログからノイズ除去をしたり、今まであきらめていたような作業にも威力を発揮してくれる、まさに夢のツールです。これからもガンガン使用していきたいと思います。

製品サイト:http://www.crypton.co.jp/mp/do/prod?id=99225

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年1月号より)

AUDIONAMIX
Trax Pro
56,940円(11月11日現在/価格は為替相場によって変動)
REQUIREMENTS ▪Mac:OS X 10.7〜10.10、INTEL Co re Duo 2.3GHz以上のCPU、4GB以上のRAM、光回線などのブロードバンド・インターネット環境(常時接続) ▪対応ファイル形式:WAV/AIFF/MP3/ M4A/AAC/CAF(最高32ビット・フロート/192kHz)