「AUDIONAMIX VVC」製品レビュー:ミックス済みファイルの主旋律の音量と定位を調整するプラグイン

AUDIONAMIXVVC
最近はオーディオ編集がかなり便利になってきていますね。コード内の一音だけピッチを修正できたり、ノイズを分からないくらいに消せたり……。そんな時代ですが、皆さん気を使うのはボーカルのレベル。マスタリング前に気になったりして“修正したい!”と思ったことがある人も多いでしょう。今回紹介するプラグインは、2ミックスになった状態でもボーカルのバランスを変えることができるというもの。音質も気になります。

読み込んだデータをサーバーで処理する
クラウド・ベースのプラグイン

今回レビューするAUDIONAMIXのVVC(Vocal Volume Control)というプラグインは、現在のところMac環境のAVID Pro Tools 11にのみ対応(AAX Native 64ビット)。VSTやAudio Units、またWindowsにも対応予定です。

このプラグインを簡単に説明すると、2ミックスになってしまったオーディオ中のボーカル(メロディ)の音量やパンを調整できるというもの。既にミックスしてしまった曲の“ああ〜、もうちょっとボーカル上げたかったな〜”なんていうケースでも簡単に修正することができます。ボーカルのボリュームは最大±9dB調整可能。パンは最大60%を調整できます。サンプリング・レートは192kHzまで対応。“2ミックス”と書きましたが、オーディオ・トラックはモノラルでもステレオでも使うことができます(モノラル・トラックの場合はステレオ・トラックに変換されます)。

ただ、使用環境にはちょっと注意が必要です。VVCは外部サーバーに接続して処理を行います。なので、常にインターネット環境必須のクラウド・ベースのプラグインと言えます。この考え方は今までに無いタイプですね。

リバーブ成分を含めた調整も可能
ライブ収録でのカブリへの対応にも有効

使い方は簡単で、まずトラックにインサート。ACQUIREボタンが赤く点灯し、音声の読み込み待機状態になります。読み込ませたい範囲を指定して再生すれば、VVCへのオーディオ取り込みが完了します。取り込み範囲を変えたい場合は、ACQUIREを押してやり直すといった具合です。実時間をかけるのが面倒だったら、オフライン・バウンスを行っても取り込みが完了するので、時間短縮も可能。その後、SEPARATEを押すと外部サーバーにデータを送り解析し、そのデータが戻ってきます(画面①)。

▲画面① ACQUIRE後、SEPARATEを実行してサーバーにデータを送信。解析済みデータのダウンロードが終了すると、ボーカルや主旋律の音量と定位をコントロールできるようになる ▲画面① ACQUIRE後、SEPARATEを実行してサーバーにデータを送信。解析済みデータのダウンロードが終了すると、ボーカルや主旋律の音量と定位をコントロールできるようになる

完了すると、ボーカルのレベルやパンが調整可能となる、というわけです。基本的な操作はこれだけ。ボーカルがうまくセパレートできていない場合は、左側のPITCH RANGEを調整します。これは、どの音域をコントロール対象にするかというパラメーターで、最大でD♯2〜D6に設定可能です。このレンジの調整がキモになってきますので、まずはデフォルトで試してみて、その後いろいろ設定を変え、感覚をつかむとよいでしょう。

また、右側のSEPARATION OPTIONの各項目も、結果に大きくかかわってきます。HIGH QUALITYはその名の通りなのですが、処理がちょっと遅くなるので、いろいろ試しているときはOFF、決まったらONというのもアリです。REVERBは、ボーカルのリバーブ成分ごと調整するかしないかのオプションですが、リバーブ成分ごと調整したくなくてもONにした方がうまくセパレーションできる場合もあったので、ここも試しながらの調整になります。また、これらのPITCH RANGEやSEPARATION OPTIONを変更した場合は、新たにSEPARATEを押して解析し直す必要があります。

肝心な音質は、一聴した感じでは大きく変わらないので優秀だと思います。若干低域が腰高になりますが、このクオリティなら仕事レベルで使えるでしょう。完成した2ミックスに使用する場合は、ゲインは±3dB以内の方がよりナチュラルです。

注意点としては、一部分のみを変えたい場合。VVCで処理した部分はプラグインから出力される処理済みの信号に変わりますので、切り替わるポイントで音の途切れがあります。ですのでVCCで処理した後は、他のトラックに録音するかバウンスしてから作業を進めるのがよいでしょう。また、インサートした状態でセッションを保存すると、オーディオを取り込んだ分、Pro Toolsのセッション・ファイル(.ptx)の容量が増えてしまいます。

続いて、ライブ収録したボーカル・トラックを試してみました。もちろんいろいろな楽器がカブっていますし、小さい声しか出していないときはボーカルよりカブリの方が大きかったりします。そんなトラックにVVCを試してみると、カブリの音量はそんなに変わらず、ボーカルのみ大きくできます。これは使えるなとあらためて思いました。また、ライブのアンビエンス・マイクのトラックで、観客の歓声を大きくしたいときにも有効でした。

§

音質的な面では、これまで試してみたこの手の製品の中では最も良かったです。よりシンプルな楽曲、エフェクト量が少ないボーカルなどでは、より良い結果が得られます。高速なインターネット回線が無いと処理に時間はかかりますが、それでも何かあったときに便利なプラグインだと思います。個人的には、ライブ素材で使ったときの印象が良かったので、しばらくは使い続けてみたいです。

製品サイト:http://www.crypton.co.jp/mp/do/prod?id=99226

サウンド&レコーディング・マガジン 2015年12月号より)

AUDIONAMIX
VVC
27,610円(為替レートによる価格変動あり。表記の価格は10月14日現在のもの)
▪Mac:OS X 10.8〜10.10、INTEL Co re Duo 2.3GHz以上のCPU、4GB以上のRAM、光回線などのブロードバンド・インターネット回線、AVID Pro Tools 11