
外観を変えることなく手堅くリニューアル
セミオープンでも十分な遮音性
1974年から続くFOSTEX Tシリーズは一般的なダイナミック型とは違って独自開発のRP方式ドライバーを採用している。オルソダイナミック型に分類されるこの方式は、平面コイル振動板を用いて全体を均一に駆動することができ、磁界がそろった棒状磁石を使えるというメリットがある。結果的に低ひずみ、音の分離の向上、音の立ち上がりが奇麗といった長所を持つそうだ。本機のフォルムは2代目とほぼ同じで、1986年に発売されたオープン型のT20RP以降引き継がれている形である。密閉型のT40RPも自宅スタジオでよく使われていた機種であるため、 筆者を含め一目見て懐かしいと感じる人は多いだろう。実際に手に取ってみると、低反発イア・パッド、ヘッド・バンドなど細部の質感がぐっと向上しているのが分かる。またコードを含めない本機の重さは315gと重量感があり側圧はやや強めだが、イア・パッドのエッジが太めで圧力がうまく分散され、装着感はとても良い。セミオープン・タイプであるがジョイント部の可動具合も良好で、密閉型のようにしっかりと耳を覆ってくれて十分な遮音性を得られる。通常のモニター・レベルであればマイク録音時も音の漏れは問題にならないだろう。
片出し脱着式ケーブルやスライダーの外観など構造的にはT50RPとほぼ同じに見える。マイナー・チェンジが細部に留まっていることから、当初から完成度の高いモデルであったことが伺える。購入時には3mのステレオ・フォーン・ケーブル(φ6.3mm)に加え、モバイル用にも便利な1.2mでオレンジ色のステレオ・ミニ・フォーン・ケーブル(φ3.5mm)が付属している(写真①)。

モバイル機器との相性も良好
平面駆動型独自の優れた音の立ち上がり
まずはオーディオ・インターフェースのヘッドフォン端子に接続してみると、インピーダンスは50Ωながら感度が92dB/mWと低めなので普段よりもだいぶボリューム位置を上げる必要がある。エージング前だからか小音量では10kHz辺りのエッジが目立ってしまうようだ。しかしある程度ボリュームを上げていくと質感がとても豊かになり、ハイエンド・モデルに近い鳴りっぷりを味わえる。周波数特性的には100Hzの上辺りからなだらかにローエンドが落ちているようで、その上に来るベースの音色が見えやすく、パーカッション類のアタックもはっきり確認できる。200Hz~1kHz辺りの中低域はしっかり聴こえるので音作りもしやすい。
次に業務用DATに接続するとぐっと質感がアップして豊かな低域となる。こちらはオーディオ・インターフェースに接続したときよりずっとうまくドライブされるようで、全域でひずみが少ないまま余裕を持って音量が上がるのに驚く。3,000mWの高い耐入力のスペックに納得した。密閉型にありがちな低域の破たんが感じられないのはセミオープンのメリットであろうか。
APPLE iPodでの試聴は意外にエッジが目立たないマイルドな高域だ。ボリューム設定はだいぶ上がってしまうが音色的な相性はいいと思う。高域は決して不足しているわけではなく、とても聴きやすい音色。7インチのタブレット端末においてはさらに相性が良く、パーカッション類の音の立ち上がりがモバイル機器とは思えないくらい高級感がある。ただし音量には限界があるので普段から大音量で聴く人には不足するかもしれない。
総合すると周波数的には6kHz辺りの声の帯域が大変聴き取りやすく好印象。その下の2~4kHz辺りが少なめなのがその理由かと思われる。ベースも聴きやすいので特に歌入れ作業に良いのではと予想する。トランジェント的には楽器の中でも皮ものタイコやアコギなど、パーカッシブな音色の立ち上がり具合が大変リアルに再現されるのに驚いた。この点は間違いなくRP振動版の最大の特徴であると言えよう。また低域の定位や分離が良く、スピード感もあるので決して高域を邪魔することがない。あえて不満を挙げるならリバーブ感が少ないことであろうか。著者のオーディオ・インターフェースでは若干音のつやが欠ける傾向にあったので、それをカバーできるような相性のいいヘッドフォン・アンプに接続したい。
§
FOSTEXは2013年にリスニング用ハイエンド・モデルのTH900を出しているが、昨年はそのTHシリーズにもRPドライバーを載せたTH500RPを追加した。昨今のヘッドフォン・アンプの高性能化に加え、ドライバーの磁束密度が大幅にアップするという技術的背景が理由のようだが、その流れで今回スタジオ向けのT50RPも再びチューニングし直されたものと思われる。さらに進化したRPサウンドをぜひチェックしていただきたい。
製品サイト:http://www.fostex.jp/products/t50rpmk3n/
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年12月号より)