
コンピューターとUSB接続し
ミキサーやエフェクトをコントロール
MP8Dは、写真では伝わりにくいだろうが、非常に凝ったディテールのフロント・パネルを持つ1Uボディに、8chのクラスA動作のマイクプリと同じ数のADコンバーター、8系統のEQ&コンプを内蔵。さらに、自由度の高いルーティングが可能なミキサー機能も有している。細かなオペレーションはUSB経由で行うという割り切った設計で、コンピューター(Mac/Windows)との接続は必須となるが、専用のソフトウェアは、インストール/オペレーション共に分かりやすく、また本体だけでも最低限の操作は可能となっている。
まずは本体から見ていこう。8chのマイクプリはリア・パネルの端子(XLR/フォーン・コンボ)から入力し、フロントのゲイン・ノブを押し込むことでマイク/ラインを選択する。ch1/2は、別途フロント・パネルにハイインピーダンスのHi-Z入力(フォーン)が備えられている。入力を独立して設けていることは非常に意義がある。兼用していては、どちらか一方の入力は物理的に最適なインピーダンスが得られないからだ。入力セレクトは、本体のゲイン・ノブ上にあるLEDの色で認識可能で、マイク入力は緑色、ラインは青色、Hi-Zは白色に点灯する。また、そのLEDはシグナル・メーターとしても働き、適正レベルでオレンジ、ピークでは赤く点灯する。ゲインはクリック感のあるエンコーダーにて1dBステップで調整でき、最大+68dBが得られるのだが、これは特筆すべきメリット。微弱な音や感度の低いマイクでも十分な音圧が稼げる。
本機はこの8chのインプット以外にも豊富な入出力を持ち、後述するソフトで自由にルーティングできる。例えばメイン・レコーダーへはパラで接続しつつ、それとは別にサブ・レコーダーに本機の内部ミキサーである程度チャンネルをまとめて送り出して録音することもできるだろう。さらにch1/2には、お気に入りのアナログ・コンプなどを本機のマイクプリとADコンバーターの間にインサートするためのセンド&リターンも用意されている。
多機能な付属ソフトウェアは
ドラッグ&ドロップで多彩なアサインが可能
付属ソフトはゲイン調整とピーク・メーターが常にウインドウ上部に表示されており、使いやすい。ここではファンタム電源、ハイパス・フィルター、位相反転がチャンネルごとにオン/オフできる。オプション画面ではハイパスのカットオフ周波数がチャンネルごとに1Hz単位で設定可能(25〜250Hz)。2基のオシレーターも内蔵しており、回線チェック時に便利だ。発信周波数は1kHzのほかに440Hzをセレクトできる辺りにも音楽的な感性を感じる(画面①)。ミキサー画面にはフェーダー、パン、ソロ、ミュート、メーターが整然と並んでおり、外部入力も含めてここでミックスが可能。バスはステレオ1系統のみでAUXセンドは無いが、レイテンシーが極めて小さいため、位相ずれなどを気にせず積極的に使える。

エフェクト画面には8系統のEQとコンプレッサーを備えており、好きなポイントにアサインできる。EQは3つのパラメトリックと2つのシェルビングの5バンド構成。コンプはPEAKとRMS(20/50/100/150/200)表示がセレクトできる充実したスペックで、決しておまけという感覚のものではない。ステレオ・リンクが可能だが、バイパスはリンクしないので注意したい。ウィンドウのデザインはダークな色使いが渋くて好み。エフェクト設定はセーブ&ロードできるのはもちろん、ほかの画面の設定も含めた全体設定を5つまでプリセットできるのは実用的だ。
ルーティング画面では、前述したように多様なアサインが可能だ。操作はパッチ・ケーブルを差すかのごとくドラッグ&ドロップするだけと至ってシンプル。メーター画面には十分な振り幅のある60dBスケールのレベル・メーターが32本備わっており、入力ソースを切り替えることでマイクプリや各I/Oのレベル、インサーション出力のレベルをチェックできる。メーターのレスポンスは決して速いとは言い難いが、機材全体のイン/アウトしか監視できないものが多い中で、これだけ充実した監視ができるのはうれしい。なぜならひずみが生じた際、ゲインそのものを稼ぎ過ぎているのか、EQでオーバーしているのかなどを判断しやすいからだ。
スカッと気持ち良い現代的なサウンド
ヘッドフォン・アウトも優秀
さて肝心のサウンドはスカッと気持ち良く、ビンテージや真空管にこだわっている人にもぜひ聴いてもらいたい、良い意味で非常に現代的なマイクプリだ。“Atomic Clock”と呼ばれる同社自慢のクロックがそのサウンドを生み出しているのだろう。DAWとの組み合わせで使用する場合はデジタル・アウトをお勧めするが、アナログ・アウトの音質も素晴らしい。またヘッドフォン・アウトの音色も心地良く、共にピュアなサウンドと言える。
MP8DはDAWと相性ピッタリの設計で、充実した機能とサウンドは、アナログ/デジタルの双方の領域において、すこぶる高い次元の洗練された技を持っている同社だから実現できたのだろう。このサウンドだけでも十分過ぎる価値があるが、豊富なI/Oを持ち、その上にこれだけ充実したソフトウェアが備わっているのであれば、納得のコスト・パフォーマンスだ。

製品サイト:https://jp.antelopeaudio.com/products/mp-8d/
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年12月号より)