「WHARFEDALE PRO Isoline 812」製品レビュー:Bluetoothを搭載したミキサー内蔵のアレイ型PAシステム

WHARFEDALE PROIsoline 812
イギリスのメーカーであるWHARFEDALE PROから、コスト・パフォーマンスの高いIsolineシリーズが発売されました。同シリーズはミキサーを内蔵したミッド/ハイのコラム・スピーカー+アクティブ・サブウーファーのPAシステムで、Isoline 812とIsoline 410(135,000円/1台)の2モデルをラインナップしています。今回は前者をレビューしていきましょう。

ウーファー部に3つの入力chを用意し
各レベルの調整が可能

Isolineシリーズのスピーカーは、ミッド/ハイレンジのコラム・スピーカーとサブウーファーの2つから構成されており、付属の35mm径のポールで両者を接続して使用します。Isoline 812はコラム・スピーカーの中に3インチ径のユニットが縦に8基配置され、サブウーファーは12インチ径のユニットを1基搭載しています。サブウーファー内部にはクラスDのパワー・アンプが備えられ、出力500W(RMS)/800W(ピーク)。最大音圧レベルは124dB SPLで、クロスオーバー周波数は350Hzとなっています。

コラム・スピーカーのサイズは、116.6(W)×805(H)×115(D)mm。水平方向の指向性は80°で周波数特性は140Hz〜20kHzです。サブウーファーのサイズは400(W)×450(H)×541.9(D)mm。周波数特性は40Hz〜500Hzで、フロント部にポートを持つオーソドックスなバスレフ型です。セッティングはサブウーファーの天板にポールを立て、その上にコラム・スピーカーを設置します。その後はサブウーファーのスピーカー・アウトとコラム・スピーカーのインプットをスピコン・ケーブルでつなぐといったシンプルなシステムです。

サブウーファーのリア・パネルにはIN-A/IN-B/IN-Cの3つのチャンネルが用意され、それぞれボリュームの調整が可能です。IN-Aにはマイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)が装備され、入力レベルの切り替えスイッチが付いています。IN-Bの端子はマイク・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)のみです。IN-Cにはライン・インL/R(RCAピン)が1系統用意され、ミキサー内部でモノラル化されます。入力端子のほかには、先述のスピーカー・アウト(スピコン)、もう1台別のシステムへ信号を送り出すためのミックス・アウト(XLR)が装備されています。また、このシステムはBluetoothの電波を受信でき、IN-Cのチャンネルでボリュームを調節できます。ライン入力端子の上にあるBluetoothペアリング・スイッチを長押しすることで送信側のデバイスを検知しますが、もう1台別のシステムへ接続する場合は有線で行う必要があり、その際はモノラルの信号が送られます。ステレオでの出力ではなく、モノラル2本が同時に鳴る仕様です。

ひずみを抑え過ぎない迫力あるサウンド
中低域もしっかりとしたフラットな音質

今回は小規模なスペースでの使用を想定して、18畳のスタジオでロック・バンドのボーカル用スピーカーとして使ってみました。スマートフォンからBluetoothでリハーサル用のクリックを送信。スピーカーから1mほどのところにSHURE SM58を置き、本機のマイク・インに入力。マイク・インの回路から出る音はフラットで、SM58本来の中域をメインとしたレンジ感を再認識できたほどです。大音量のボーカルでも、それほど“うねるような音”にはなりません。アンプのリミッター回路におけるリリース時のレベル変動が少なく、大げさにならない印象。

また音量を上げていくにつれ、ひずみのコントロールをし過ぎない自然な“やかましさ”が増えてくることにも気付きました。これは私にとって好ましいことです。我々PAエンジニアとしては演奏がヒート・アップするにつれ、ミックスも同様に熱く行いたいのですが、昨今の高級パワード・スピーカーは電子回路による過度とも思える補正や管理がなされた冷たい優等生的な音がし、誰がミックスしても同じような音になると感じています。その上、大音量での入力を続けると、ハード・リミッターがかかって低音だけついてこなくなるような感覚があったりするので、本機の迫力ある“やかましさ”には好感が持てます。

スピーカーの音質としてはドンシャリのような誇張し過ぎる音ではなく、中低域もおろそかにしていない印象で、昨今では珍しいフラットなタイプのものでした。

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本機は8連装のアレイ型PAシステムとして、指向軸内にマイクが存在してもハウリングしにくいという利点を持っています。私としては、全く音響設備の無いところや音場の整っていないところで本機のコラム・スピーカーを2連にして(計16ユニット)、サブウーファーを2段に積み、アレイ型スピーカーとしてどのような音が出るか試してみたいところです。恐らく、さらにハウリングしにくい迫力のあるシステムとなることでしょう。

▲ウーファーのリア・パネル。入力チャンネルは3つ用意され、それぞれにボリューム調整ツマミを装備。IN-Aにはマイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)と信号レベルの切り替えスイッチ、IN-Bにはマイク・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)が搭載されている。IN-Cにはライン・イン×1系統(RCAピン)が用意されているほか、Bluetoothペアリング・スイッチを装備。出力端子はスピーカー・アウト(スピコン)とミックス・アウト(XLR)だ ▲ウーファーのリア・パネル。入力チャンネルは3つ用意され、それぞれにボリューム調整ツマミを装備。IN-Aにはマイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)と信号レベルの切り替えスイッチ、IN-Bにはマイク・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)が搭載されている。IN-Cにはライン・イン×1系統(RCAピン)が用意されているほか、Bluetoothペアリング・スイッチを装備。出力端子はスピーカー・アウト(スピコン)とミックス・アウト(XLR)だ

製品サイト:http://e-spec.co.jp

サウンド&レコーディング・マガジン 2015年11月号より)

WHARFEDALE PRO
Isoline 812
155,000円/1台
▪スピーカー構成:3インチ径ミッド/ハイレンジ・ドライバー×8+12インチ径ウーファー ▪内蔵アンプ:クラスD ▪周波数特性:40Hz〜20kHz ▪出力:500W(RMS)、800W(ピーク) ▪ワイアレス接続:Bluetooth ▪電源サプライ:SMPS ▪マウント:35mmポール ▪外形寸法:116.6(W)×805(H)×115(D)mm(コラム)、400(W)×450(H)×541.9(D)mm(ウーファー) ▪重量:26.9kg