2.25インチのドライバーを
縦に8つ配置するF1 Model 812
F1 Model 812の中には2.25インチ径のコーン・ドライバー8基が縦に並び、それらの後ろに12インチのウーファーが組み込まれている。内蔵のパワー・アンプはクラスDで、出力は1,000W。F1 Subwooferは10インチのウーファーを2基備え、F1 Model 812と同様に1,000WのクラスDアンプを搭載している。
早速組み立ててみよう。重量24.9kgのF1 Subwooferの後ろ側には、F1 Model 812を乗せるためのアダプターが収納されている。F1 Model 812は重量20.2kgなので、1人で持ち上げてF1 Subwooferにセットすることが可能。このアダプターは2本の脚を持つため、1本のポールに比べて随分安定している。
F1 Model 812には2系統のオーディオ入力が用意され、1つはXLR/TRSフォーン・コンボのマイク/ライン・イン。もう一方にはRCAピンのL/RとTRSフォーンのライン・インが備えられ、これらを単体もしくはミックスしてスピーカーとライン・アウト(XLR)から同時に出力できる。F1 Model 812は単体のフル・レンジ・スピーカーとしても機能するので、汎用の35mm径ポールに取り付ければカフェや中小規模の会場でも扱える。F1 Subwooferと併用するときは、入力ソースに応じてF1 Model 812のライン・アウトをF1 Subwooferのライン・インに送ってもいいし、F1 Subwooferのライン・アウトをF1 Model 812のライン・インと接続してもいい。F1 Subwooferの出力ゲインは本体ノブで調整でき、位相を反転させたりハイパス・フィルターをかけることもできる。
滑らかかつ上品なサウンド
カバー・エリアに合わせて自動で特性調整
まずは中ホールで使用してみた。F1 Model 812のマイク/ライン・インに卓のアウトをつなぎ、入力ゲインを12時に設定。F1 Subwooferの出力ゲインも12時だ。卓に接続したマイクから声を入力してみたところ“滑らか”という第一印象。次にF1 Model 812を単体でもチェックした。サブ帯域が出ているのかと思うほど量感に富んだ音である。再び両者を併用し、メーカーがリファレンスとするロックやアコースティック、ヒップホップなどを試聴してみた。各帯域が驚くほどスムーズに出てくる。
さてF1のユニークな機能と言えば、F1 Model 812の“Flexible Array”だろう。8つのドライバーのうち、上の3つから成るアレイと、下の3つのアレイの角度を2種類から選べるのだ。上のアレイは通常の正面向きと上向き、下のアレイは正面と下向きを選択できるので、都合4つのカバー・エリアを作り出せる。角度の変更は簡単で、アレイをフロント・グリルの上から押し込んだり、引き出したりするのみ。角度を変えると、それに合わせたプロセッシングが自動的に施されるのも特徴だ。通常の状態ではミッドの直進性にたけていて、上下の角度を振るとハイが伸びる印象。単純にカバー・エリアが変わるというだけでなく、アレイ間の干渉もクリアされているようだ。
今度はハワイアン・バンドのPAに使ってみた。小さな音量で鳴らしたが、定位がしっかりと分かる。全くEQしなくても、トゥー・マッチなローやギラついたハイは感じられなかった。水平100°のカバー・エリアに死角は無く、アレイの角度を変えることで音質や垂直方向のエリアをベストな形に調整できる。このほか500人規模のクラシック・ホールで鳴らしてみたところ、カバー・エリアについては問題なかった。ただし残響の多い空間なので、ミッドの上品さに多少エッジが加わればと思えるところもある。
F1 Model 812は最近のスピーカーらしい高能率ぶりだが、無遠慮なパワー感ではなく品が良い。クロスオーバーが600Hzというのも、その印象に一役買っているようだ。低域に関しては、サブローの音量を上げると気になる周波数が3〜4ポイント出てくるものだが、F1 Subwooferでは1ポイントほどだった。コンパクトなスピーカーに“滑らかさ”や“品”を求める向きに良い製品と思える。
製品サイト:http://probose.jp/
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年11月号より)