小型軽量/スピーカー内蔵/電池駆動で
4機種からなるRefaceシリーズ
まずRefaceシリーズ全体に関して少し触れておこう。アナログ・モデリング・シンセのCS、FMシンセシスを用いたまさに同社DX7の再来、DX。そして古今東西のエレピの名機やクラビネットをシミュレートするCP、YAMAHAコンボ・オルガンのみならずオルガンの名機を数多くモデリングで再現するYC。この4機種すべてに共通する仕様として、小型軽量、ハイグレードなミニ鍵盤“HQ mini”、3オクターブ、スピーカー内蔵、電池駆動可能というちょっと異色のラインナップである。つまり、今時珍しく外部に再生装置や電源の要らない、独立した楽器としての魅力にあふれているわけだ。
さてCSは、8音ポリフォニックのシンプルなアナログ・モデリング・シンセである。“シンプル”と書いたが、オシレーターのパラメーターが面白いアイディアでまとめてあること、内蔵エフェクトが優秀なこと、さらにエフェクトと別にルーパーを内蔵することにより、非常に多彩なパフォーマンスを展開可能だ。ただ、このReface CSの場合、ほかのRefaceシリーズが過去の名機のシミュレートという部分に重きを置いているのとは違い、特に過去のCSシリーズに範をとったという印象はない。しかし、アナログ・シンセとしての本格的音作りと、楽器としての操作性の両立という部分ではYAMAHAらしいさすがのバランスを見せる。
まずそのオシレーター・セクションを見てみよう。最初に発振の“TYPE”から選ぶ。通常ならここで“波形”を選ぶわけだが、そうでないのがCSの面白いところ。このTYPEには、単純な方から“マルチソー(ノコギリ波)”“パルス(矩形波)”“オシレーター・シンク”“リング・モジュレーション”“FM”の5つのがあり、スライダーで選択する。それぞれに応じた5色のLEDが点灯し、奇麗で分かりやすい。オシレーター・セクションには、TYPEの選択のほかにスライダーが2つあり、それぞれ“TEXTURE”“MOD”という名のパラメーターになっている。この2つのパラメーターが、最初に選んだTYPEによって異なる効果を持つのだ。例えば、マルチソーを選んだときに、TEXTUREは“サブオシレーター(1オクターブ下)のボリューム”、MODはマルチソーの名の通り、“幾つものノコギリ波を重ねて音を分厚くしていくパラメーター”になる。同様に、パルスの場合には、TEXTUREが“重ねる2つ目の矩形波のピッチ”、MODが“矩形波のパルス幅”となる。以下、オシレーター・シンクのときは“OSC2(モジュレーター側)のピッチ”と“OSC2(モジュレーター側)のピッチ変化のレンジ”、リング・モジュレーションを選んだときは、“OSC1のピッチ”と“OSC2のピッチ”、FMのときは“モジュレーションのデプス”と“OSC2(モジュレーター側)のピッチ”という組み合わせになる。各発音形態にとって最もドラスティックな音色変化が期待できるパラメーターを2つ、あらかじめ抽出してあるのだ。フィルターがカットオフとレゾナンスというシンプルな構成なので、音作りの肝はほぼこのオシレーター・セクションで決まると言っていいだろう(写真①)。
5種類のエフェクトを内蔵するほか
フレーズ・ルーパーも搭載
LFOは“DEPTH”と“SPEED”の2つのパラメーターを使い“ASSIGN”で変調先を一つ選ぶタイプ。“AMP”“FILTER”“OSC”のほかに“PITCH”があり、全体の音程にモジュレーションをかけることができる。OSCを選んだ場合は、オシレーター・セクションで選んだTYPEにより、変調されるパラメーターが異なる。
エンベロープはシンプルなADSR型を採用している。バランサーが付いていて、フィルターにアマウントするのかアンプにアマウントするのかが無段階でコントロールできる。これもシンプルだがなかなか良いアイディアだと思う。リアルなアナログ・シンセでオシレーター、フィルターが良くてもエンベロープでがっかりすることが多々あるが、さすがにモデリングなので非常にしっかりしていて問題なし。
エフェクトも搭載されており、ディレイ、フェイザー、コーラス/フランジャー、ディストーションの5種類から選ぶ。パラメーターは“DEPTH”と“RATE”の2つで、ディレイと位相系は文字通りの意味でかかる。ディストーションを選んだ場合、“RATE”はトーン・コントロールとなる。ディレイとディストーションはモノラルだが、位相系はステレオでバッチリ効くので内蔵スピーカーで聴いていても気持ち良い!
フレーズ・ルーパーは、最大2,000音もしくは120BPMで10分間の録音が可能。ただし、いわゆるルーパーとしての処理はサンプリングではなく、リアルタイム入力のシーケンサーである。最大同時発音数は8音(後着優先)で、ループしている間にもパラメーターの操作でどんどん音色を変えることができる。同時発音数の中であればオーバーダビングも可能だ。シンプルな構成ながら非常に使いやすく、ソロ・パフォーマンスやシーケンスのアイディアを練る場合など、重宝するだろう(写真②)。
実際に触ってみて最も魅力を感じたのは、オシレーター・セクションのFMとリング・モジュレーション。特にFMでTEXTUREとMODを両方真ん中くらいの位置にして好みの金属的な音を作り、リリースを長くしてコーラスを深くかけ、ゆったりしたフレーズを弾きながらMODのスライダーをゆっくり動かすと、何とも不思議なサウンドが楽しめる。ゆっくりした変調をLFOに任せるのももちろんアリ。同様に、DAWから発音させる際も、例えば簡単なリフの繰り返しを打ち込んでおき、TEXTUREとMOD辺りのパラメーターをリアルタイムで動かしながら取り込むとかなり面白いものが作れそうだ。まともな音色とレイヤーさせる手も考えられる。
音色は本体にはメモリーできないが、目的の音色を作り出すのは非常にスピーディで、厳選されたパラメーターが理に適っているのが実感できると思う。ポリフォニック/モノフォニックの切り替えはポルタメントのコントロール・スライダーと一体化されており、非常に分かりやすい。またiOSアプリ、Reface Captureを使えば、音色の保存/管理が行えるようになっている(写真③)。
ミニ鍵盤“HQ-mini”だが、軽過ぎず重過ぎず、最も好感が持てるのは黒鍵の根元付近でもスムーズなストロークがある程度確保されていること。ミニ鍵盤じゃあダメだよなと思っている方にはぜひ一度触ってみてほしい。
§
ハードウェア的な成り立ちは以上のような感じだが、このRefaceシリーズの魅力は実は最初に述べたような自己完結のパッケージにある。鍵盤弾き、あるいはシンセサイザー・マニアなら実感すると思うが、まずシステム全体の前に座り、電源を入れて立ち上げ、モニターに向かい……と言った気負いがなく、まるでギターかウクレレのような気分で触って音を出せるところがうれしい。ひざの上に置いて音作りをしたり、寝そべってインプロしたり。今までも“手軽さ”だけで言えばたくさんのミニ鍵盤シンセやホーム・キーボードが存在したと思うが、Refaceシリーズのすごいところは“出音に妥協していない”ということだ。ライン出力を大音量でチェックしてみたが、大型機にそん色ないどころかアタックの鋭さなどでは勝っている部分さえあるほどである。“シンセサイザーらしいパフォーマンスをしたいが、カフェなどの小さな会場に大きな楽器を持っていくのもなぁ……”とちゅうちょしていたプレイヤーにも朗報。小さな筐体にかなりの力を秘めた楽器である。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年11月号より)