ほれぼれするほど美しい仕上げのボディ
本体だけでIN/OUTの設定が可能
頑丈に作られたケースを開けると、本体とUSBケーブル、MIDIケーブルが整然と並んでいる。外に持ち出す場合も、このケースに入れておけば安心だろう。早速本体を取り出してみたが、その仕上げの美しさにほれぼれしてしまった。個人的に初代BabyfaceはSF映画の宇宙船のようなイメージだったが、Babyface Proは高級スポーツカーをほうふつさせる。完ぺきな曲線とパネルの高い質感、ジョグ・ダイアルの操作感にはみじんのぐらつきも無く、“Pro”の名に恥じない。リア・パネルにはアナログ2系統の入出力(XLR)を装備しており、MIDIやデジタル入出力を使わなければ、配線もシンプルで美しい。
スペックを見てみよう。USB 2.0接続でパス・パワー給電。ビット&レートは最高で24ビット/192kHzに対応し、AD/DAコンバーターは同社のフラッグシップ・モデルADI-8 DS MKIIIと同等のものが採用されている。評価の高いクロック・ジェネレーターSteadyClockは第3世代に進化し、より強力にジッターを低減するという。
入出力はアナログで4イン/4アウト、S/P DIFもしくはADAT(S/MUX対応)フォーマットで使えるオプティカル入出力も併せると最大12イン/12アウトに対応する。ADAT対応のマイクプリを併用すれば、アナログ入力数を増やすことも可能だ。ヘッドフォンはフォーンとミニの両端子を備え、ボリュームは独立して調整可能。フォーンはローインピーダンスの機種にも対応している。
次に本体パネル操作と付属ソフトのTotalMix FX(画面①)を見ていこう。TotalMix FXを立ち上げると、フェーダーが縦3段にレイアウトされている。初めは表示がやや小さ過ぎるように感じたのだが、慣れてくると非常に使いやすくなるから不思議だ(2段表示に切り替えも可能)。ミキサーの右にはライブの現場で重宝するスナップショットやグループ設定、プリセットなどのメニューがある。エフェクトはリバーブとディレイを備えており、中でもリバーブは密度が高く、良い音だ。
ここからはBabyface Pro本体のパネルとシンクロさせながら見ていこう。本体は中央の大きなジョグ・ダイアルの上にINPUTとOUTPUTのレベル・メーター、その下にIN/A/B/OUTと表記された各ボタンが並んでいる。このINボタンを押すと、入力をch1/2、ch3/4、Optで切り替えられる。まずch1/2に切り替え、“SELECT”ボタンを押すと、1回目はch1、もう1回でch2、さらに1回でch1/2のペアといった形で選択できる。ch1を選んでジョグ・ダイアルを回すと、TotalMix FXのMic(AN1)のゲイン・ダイアルが同期して回った。OUTボタンではメイン・アウトやヘッドフォン・アウト、パンなどが調整できるなど、基本的なIN/OUTのゲイン調整は本体だけで行える仕様だ。そのほかDIMはモニター音を一時的に絞るボタン、そしてA/Bボタンはヘッドフォン・アウトを併用して2系統のモニター・スピーカーの切り替えにも使える。
D/Aは位相特性の良さが印象的
ヘッドフォン・アウトのクオリティも高い
音質評価に移ろう。D/Aのチェックは、お気に入りのリファレンス曲と96kHzでミックスした自分の作品をAVID Pro Tools 11で再生し、HD I/Oと比較しながら試聴してみた。A/Dの評価には、いつものようにコンデンサー・マイクのNEUMANN U87AIを使用し、ボーカル&ギターをPro Tools 11に録音した。
まずはD/Aの音質だが、リファレンス曲を聴き比べてみて驚いた。非常に位相特性が良く、ピアノやボーカルなどの中高域はHD I/Oと全く区別がつかないほどだ。唯一、キックのアタックがややおとなしい感じがしたが、そのほかの音の立ち上がり特性/立体感などは全く引けを取っていない。96kHzのファイルも聴いてみたが、こちらも驚くほど正確な印象。USB電源供給のオーディオI/Oは、ハイサンプリングになると電源の弱さからアタックの再現性などで音の“踏ん張り”が利かない傾向があったが、 Babyface Proは全くそうした感じがしない。若干シルキーな要素が加わるものの、HD I/Oではガチャガチャしてまとまらないミックスも、それが良い方向に作用して音をまとめてくれているように感じた。
ヘッドフォンは、フォーンの方がメイン・アウトと同じ聴こえ方がする印象で、これも素晴らしい表現力だと思う。このクオリティであれば、モニター・スピーカーに直接接続して使用しても問題無いだろう。一方のミニはレコーディング時のヘッドフォン・モニターやクリック送りなどにも有効に使えると思う。
音に立体感があるA/Dコンバーター
ハイレゾでも扱いやすいサウンド
次にA/Dを試してみたが、正直言って驚いた。これまで聴いてきた同価格帯のオーディオ・インターフェースの中では、音質的に一番ではないかと感じる。とにかく、音に“立体感”があるのだ。この価格帯のI/Oにありがちな音質傾向として、高音も低音も出ているがちょっとつぶれており、スピーカーの真ん中に張り付くものの、奥行きが無いという製品が少なくない。その点Babyface Proは、ボーカルやギターをとても立体的に聴かせてくれる。音は鋭く前にいるのだが、それと同時に、2つのスピーカーの奥にも音像がある感じがするのだ。説明が難しいが、連続して出てくる音のすき間の、ごく小さな音量の部分をノイズに埋もれさせることなく、正確に聴かせてくれるような印象だ。
96/192kHzでも試してみたが、音がギスギスすることもなく、良い方向に質感が高まっていく。ハイレゾ録音は、機種によってはただギターの擦弦音が目立つだけになったりと扱いに困る音になることも少なくないが、Babyface Proはこの辺りの表現がとても自然で、後々のミキシングもやりやすいように感じた。
また、先述したTotalMix FXを活用すればかけ録りも可能だ。入力フェーダーの“EQ”ボタンを押すとEQセクションが現われる。このEQはローカットを含めると4バンドもあり、録音やライブ時の補正としても使いやすい。
“透明感がある音”と評される製品の中には、ともすると高域や低域だけはあるが、実体感の薄いサウンドということもある。その点Babyface Proは、しっかりと芯があり立体的、それでいてギスギスした誇張の無い音がしている。スタジオで出会う作家が一様に“RMEは音が扱いやすい”と言うが、本当にその通りだと感じた。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年11月号より)