
3系統の電源はホットスワップに対応
USBオーディオI/Oとしても機能
まず実機を手に取った瞬間に分かる細部の作り込みから、F8にかけるZOOMの本気度を感じます。基本パーツはしっかりとした金属製で、ツマミ1つにも高品位なものが使われています。液晶ディスプレイはどんな角度からでも見やすく、メーター表示も好みの設定を複数保存でき、即座に変更することが可能です。8系統あるアナログ入力はすべてNEUTREK製のXLR/フォーン・コンボ端子となっており、24V/48Vのファンタム電源やプラグイン・パワーも供給できるなど、幅広い用途に対応します。出力はヘッドフォン端子に加えTA-3端子を使用したバランスのMAIN OUT、ステレオ・ミニのSUB OUTが備えられており、業務用カメラはもとよりデジタル一眼レフカメラなどにも音声を出力できます。電源はACアダプター用の12V DC端子、音声収録の業界標準であるHIROSEの4ピン・コネクター(9〜16V)と電池駆動(単三×8本)の3系統に対応。各電源は同時に使用でき、ホットスワップに対応するので長時間の運用も可能です。電池の残量表示が“%”ではなく電圧表記になっているのも業務用機として安心できます。筆者が高容量ニッケル水素電池を使用したところ、24ビット/96kHzの10tr同時録音で3時間以上動作しました。この手のレコーダーとしては抜群のスタミナだと思います。
記録メディアはSDカードで、最大512GBのSDXCカードに対応。2つのスロットを使用した完全なバックアップ記録が可能なため、安心して収録できます。またスロットごとに録音するトラックの組み合わせを変更でき、後々のファイル利用の際も便利な仕様となっています。SMPTEタイム・コード信号の入出力端子はBNCで、映像機器とも相性が良いです。本機はコンピューター(Mac/Windows)とUSB接続することで8イン/4アウトのオーディオI/Oとして動作するほか、iOS機器のインターフェースとしても使用可能。現場で収録しつつ、即座に編集しなければならない場合に別途I/Oを持ち込まなくて良いので、荷物をコンパクトにしたいロケなどにも最適です。
ほかに、同社から多数発売されているマイク・カプセルを接続できる端子があり、別売の延長ケーブルと併用して使用できます(この入力はアナログ入力1/2と排他的な使用になります)。また、後に同期を取る際に便利なスレート信号を入力するスイッチもあり、内蔵の信号音もしくは内蔵マイクからの音声で記録が可能です。
レンジが広くクリアなマイク・プリアンプ
iOSデバイスからの操作も可能
肝心のマイクプリの音質ですが、一聴して分かるほどレンジが広く、クリアかつ芯のある音質で、接続したマイクの音色がありのまま収録される印象です。Hシリーズとはまた別の、業務機レベルで安心のクオリティを感じました。これだけの音質をこの小さな筐体で実現していることに驚かされます。内蔵リミッターも簡易的なものではなく、アタック/リリース、スレッショルド、ニーまで調整できる本格仕様です。ほかにも周波数可変のローカットや位相切り替えなど、録音に必要な機能はそろっています。
そして本機の目玉機能、F8 Controlアプリ(画面①)を介したiOS機器からのリモート・コントロールですが、これは“便利!”の一言に尽きます。インプットのモニター・レベルや3つあるアウトのレベルを制御できるのはもちろん、インプット・ゲインも監視/制御可能で、本体の物理ノブを動かすとその値がアプリに反映される仕様です。ただしアプリ側で動かした場合は本体ノブの位置とは一致しないため、若干の注意は必要になります。また本機はテイクの管理用にテキストでメタ情報を記録できるのですが、その文字入力などもアプリのキーボードで手軽に行うことが可能です。

ほかに機能面では、イン/アウトのチャンネルごとにディレイを設定できたり(映像との音声タイミングのズレを補正する際に便利)、テイクごとに各チャンネルのモニター・バランスを記憶しておける機能、ゲインを抑えたセーフティ・トラックの同録(tr1〜4のみ)などが個人的に便利だと感じました。本機のハードウェアとしての性能は既にすきの無いレベルまで仕上がっています。今後、ソフトウェアのアップデートでさらなる進化も期待でき、既存の業務用フィールド・レコーダーの勢力図を激変させる製品になるであろうと信じて疑わないです。



(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年10月号より)