
Prophet-5よりもコンパクトになったボディ
鍵盤はアフタータッチにも対応
Prophet-6は6ボイスのアナログ・ポリフォニック・シンセです。デイヴ・スミスは史上最高のポリシンセと言われるSEQUENTIAL Prophet-5の開発者として知られているので、その流れで“Prophet-6はProphet-5のリメイク”と勝手に盛り上がってしまうのも無理はないところ。もちろん、単なるProphet-5の焼き直しというわけではなく、回路から新しく設計されているのですが、やはりProphet-5を意識した部分も多いので、その辺の比較も織り交ぜつつ見ていきましょう。
まず、Prophet-6は49鍵なので、61鍵のProphet-5よりも小ぶりになっていますが、安っぽい雰囲気は全く無く、ツマミ類を回した感触も良好。ボタン類に仕込まれた赤LEDや数値表示、さらにはライトアップされたホイールが高級感を漂わせています。鍵盤は標準サイズで、ベロシティとアフタータッチにも対応。リア・パネルにはMIDI入出力とUSBポート(MIDI信号のやり取り用)が用意されているので、マスター・キーボードとしてもガシガシ使ってみたくなります。
パネルはセクション分けされており、中央に2つのOSC(VCO)が並び、右に向かってスロップ(後述)、ミキサー、フィルター(ハイパスとローパス)、フィルター用エンベロープとアンプ用エンベロープがレイアウトされています。OSCの左にはポリモジュレーション、エフェクト&ディストーション、LFOが並んでおり、これらの配列は基本的にProphet-5から継承された部分と言えます。多少の違いはあるものの、この“並び”が重要で、頭の中に描いたイメージに直結した音作りができるのが、当時Prophet-5がライバル機に差を付けていた部分なのです。そういう意味ではポリモジュレーションもProphet-5譲りの重要な部分で、本機ではさらに活用範囲が広がっているので詳細は後述することにしましょう。そのほかProphet-5に無かったセクションとして、アルペジエイター/シーケンサー、アフタータッチなどもあります。OSCの下には数値ディスプレイとプログラム選択ボタンが並び、ユニゾンやグライドといったこれまたProphetシリーズではおなじみの機能がスタンバイします。
ポリモジュレーションやユニゾンなど
おなじみの機能がさらにパワー・アップ
細部を見ていきます。Prophet-6のオーディオ信号系はアナログ回路で組まれており、VCOに至ってはディスクリート設計ということで相当気合いが入っていると言えるでしょう(写真①)。

OSC波形は三角~ノコギリ~矩形を連続可変で選ぶタイプ。切り替え式だったProphet-5より進化していますね。チューニングが抜群に安定しているのも技術的観点では大きな進化と言えますが、不安定さを愛するアナログ・フリークたちは物足りなさを感じるかも。でも、意図的にチューニングを甘くするSLOPツマミが用意されているので、お好みで不安定さを加味することができます。なお、長時間走行や高い温度環境などにより、アナログ・パーツは不安定になることがあります。そんなときは内部のCPUがVCOやフィルター、ホイールなどを自動で再調整してくれるキャリブレーション機能もあるので覚えておくといいでしょう(PRESETボタン+0で実行できます)。
2つのOSCの信号はミキサーに入り、ここでOSC1用のサブオシレーターとホワイト・ノイズを任意で加えることが可能です。このミキサーはレベル設定次第で少しひずむように設計されているので、音楽ジャンルに合わせた使い方が可能になっていて好感が持てます。なお、後ほど説明しますが、ひずみ系は最終段にもあります。
フィルターは、Prophet-5には無かったハイパス(-12dB/oct)が新たに追加されました(写真②)。

もちろんその後段にはローパス・フィルター(-24dB/oct)が控えており、例えばフィルター・エンベロープでカットオフを同時に動かせば、バンドパス・フィルターとしても活用可能。また、エンベロープは±方向でのアマウントができたり、キーボード・トラッキングが半開も選択可能になったり、さらにはベロシティによるコントロールもボタン一つで行えるようになったりと、大幅な仕様拡張が行われています。それにしてもこのローパス・フィルターの出来がとても素晴らしく、カットオフを回していく際のカーブが体感/聴感とリンクしているので、とても音作りがしやすいのです。レゾナンスも強力で、発振させれば美しいサイン波による超ワイド・レンジでの演奏も可能になります。
Prophet-5がなぜ人気があったかと言えば、当時としては多彩な音が作れたからです。その音を作るにはモジュレーションが不可欠(写真③)。

Prophet-5にはホイール・モジュレーションとポリモジュレーションが搭載されており、これらが独特なProphet-5サウンドを奏でる鍵でした。もちろんProphet-6にもこの2つが装備されていますが、考え方が少し変更されています。まずホイール・モジュレーションに関しては、Prophet-5ではLFOとピンク・ノイズを単独、あるいは掛け合わせてソースとして使えましたが、Prophet-6ではLFOセクションで波形を選択し、ホイールもしくはイニシャル(直接)でのモジュレーションが可能になりました。LFOは5種類の波形から選択でき、行き先もVCAを対象にできるなど、大きな効果をもたらす仕様になっています。Prophet-5にあったピンク・ノイズが使えなくなったのは残念ですが、LFOでランダム波形を選択し、周波数を最速にすればノイズになるので、あの“雷”(ノイズ変調を利用して雷をシミュレートした音。Prophet-5の後期ファクトリー・パッチに収録されていた)も再現できます!
ポリモジュレーションはOSC2、あるいはフィルター・エンベロープを使い、OSC1のピッチ、シェイプ、パルスワイズ、そしてフィルター(ハイパス/ローパスのどちらかあるいは両方)を変調することができます。シンプルな例をご紹介しましょう。OSC2でOSC1のピッチを変調すればFM(Frequency Modulation)が行えます。ゴ~ンというくぐもった鐘や、チ~ンなんていう小さな鐘のような金属的な響きが代表的なサウンドです。これはOSC2をそのままソースにした場合ですが、OSC2のピッチをLFOモードにしたり、キーボード・トラッキングをキャンセル(どの鍵盤を弾いても同じ周期で変調をかけられる)もできますから、音作りの可能性が格段に広がったというわけです。ソースはOSC2だけでなく前述したフィルター・エンベロープも使え、こちらを使った代表例は、コオ~~~ンという下降していく鐘の音や、ミャアウ~という“シンク・リード”辺りが有名ですね。Prophet-5からの最大の違いは、フィルター・エンベロープとOSC2によるアマウントを±の双方向で設定できるようになったことです。これはProphetファンは言わずもがな、シンセ好きには吉報でしょう!
ユニゾンとグライドもProphet-5から継承されたパラメーターですが、これらもProphet-6では一層の機能強化が図られています。ユニゾン(写真④)はその名の通りすべてのOSCを重ねて鳴らすことができますから、Prophet-6の12VCOをユニゾンさせたモノシンセが出来上がります。

繰り返しになりますが、Prophet-6のOSCは安定しているので普通に重ねるだけではあまり厚みを感じないかもしれません。そんなときは前述のスロップ機能を使ってズラし、厚みを調整することができます。ただ逆に12個のVCOだと暑苦し過ぎるケースもあるので、そんな場合に備えて重ねるボイス数を“3”とか“5”というように指定ができるようになりました。これはProphet-5ユーザーが欲しかった機能ですよね! ちなみにワンキーで和音を演奏できるコード・メモリー機能も追加されました。また、グライドに関してはポリフォニック対応になり、タイムとレートの設定もできるので、ユニゾンと組み合わせて幅広い使い方が可能です。
オリジナル機にあった40プログラムも収録
あの“Prophet-5の音”が堪能できる
Prophet-6は、Prophet-5には無かった機能もたくさんあります。まずは2系統のデジタル・エフェクト。名盤で聴けるほとんどのProphetサウンドは、何らかのエフェクトを経由していると考えれば、“エフェクト込み”で音色メモリーできるのは非常に評価できます。何しろProphet-6のエフェクトは、ビンテージBBD(アナログIC)を含むディレイ、コーラス、フェイザー、リバーブなど、それぞれ往年の名機と言われるモデルをシミュレートした作りになっていて、オマケなんてレベルじゃまるで無いです。そしてカテゴリーとしては同じエフェクト系ながら、なぜか別枠としてディストーションも装備。こちらはステレオのアナログ・ディストーションで、前述したミキサーでのひずみはオーバードライブ系ですが、こちらは派手にかけることができ、かなり癖になるサウンドです。
アルペジエイター&シーケンサーも付いています。字数上サラッとしか書けませんが、シーケンサーは直接鍵盤で入力するステップ方式で、ポリフォニックや休符の入力も可能。MIDIクロックにも対応しています(写真⑤)。

以上、Prophet-5との比較を織り交ぜつつ、Prophet-6を紹介しましたが、“で、結局のところ音はどうなの?”と思う読者も多いでしょう。Prophet-6には、Prophet-5のファクトリー・プログラムをデザインしたジョン・ボーエン氏本人によるオリジナル40プログラムが収録されています(Prophet-5のプログラムは初期が40、最終的には120まで拡張。ボーエン氏は最初の40プログラムを作成)。その音の印象は、筆者が聴く限り、紛れもない“あのProphet-5の音”であるばかりか、今まで聴いた中で一番鮮度の良いファクトリー・プログラムの音だと感じました。これ、すごくびっくりしますよ。既にProphet-5を持っている人、あるいは昔持っていた人は、チャンスがあればぜひとも実機を触ってみてほしいです。
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Prophet-5で培ったノウハウを可能な限り踏襲しつつ、パネル内に収まる範囲内での機能を追加し、サウンドは良質なアナログにこだわったのがProphet-6だと思います。そんな本機のキモは、Prophet-5の質感を残しながら“膜”を一枚はがしたような音質と、操作性の良さだと筆者は思います。音を作る工程をとことん楽しめますし、もちろん出音から感じられる独特の風合いも素晴らしい。“シンセはこうでなくっちゃ!”と思わされる一台です。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年10月号より)