
ひずみを付加するマイクプリVHD Pre
Listen Micコンプを再現したLMC+
VHD Pre Moduleは同社のSuper Analogueテクノロジーをベースにしたクリーンなマイクプリに、VHD(Variable Harmonic Drive)を付加したモジュール。VHDは電気的にひずみを付加できる回路で、VHD INスイッチと二次高調波から三次高調波へと倍音構成を変えられるDRIVEノブで構成されています。マイクのゲインは最大75dB、アウトのトリムが±20dB、ほかにロー(LF)フィルターやHi-Z入力、48Vファンタム電源、PAD、位相反転スイッチと、マイクプリに必要な機能は一通りそろっています。
LMC+ ModuleはListen Mic Compressor(以下LMC)という、ある種特殊なコンプレッサーのモジュール。SSLコンソールには“Listen Mic”というブース側の会話用マイクの音声を聴く機能があるのですが、初期のEシリーズでListen Mic回路にインサートされていたアタック/リリース固定のコンプのアグレッシブなサウンドが好評だったため、1980年代以降Listen Micでドラムのアンビエンスなどを録音できるようパッチ・ポイントを増設する改造が流行したようです。筆者は実際にLMCのサウンドを聴いたことはないのですが、1980〜1990年代の作品でよく使われていたようです。
そのLMCをモジュール化した本機は、使いやすいように数々の機能が加えられています。まず最上段のTRIMはインプット・トリムで、SCOOPスイッチはコンプレッサーに送る信号を逆相にする機能。HFとLFはサイド・チェインにも使用可能です。LMCセクションはTHRESHOLDのみのシンプルな構成で、アタック/リリースは固定です。MIXセクションはWET(コンプレッションされた信号)とDRY(原音)をブレンドできる機能で、パラレル・コンプが一台で完結できます。SPLITスイッチは、フィルター・セクションで設定したコンプレッサーに送る周波数帯域をDRYシグナルからカットする機能。これは実際に使いながら効果を試してみたいと思います。
VHD Preはクリーンかつ芯のあるサウンド
LMC+はさまざまな音作りが可能
まずはVHD Pre ModuleにNEUMANN U87AIをつなぎ、アコースティック・ギターでテストしてみました。VHDがオフの状態ではクリーンながらも芯のある良質なサウンド。中低域に張りがありつつも抜けの良い、扱いやすい音色です。VHDをオンにすると、劇的な変化は起こりませんが、音色は確かに変化します。DRIVEを上げていくとエッジが立ち、オケ中での存在感が増していきます(写真①)。ただ、恐らく皆さんが想像されているよりも、ひずみの成分は聴き取りにくいのではないでしょうか。

さまざまな音源でテストしてみましたが、ドラム、エレキギター、パーカッションなどの録音ではVHDがかなり効果的でした。ソースや設定によっては倍音成分の出方が気になる場面もあったので、VHDを入れずにクリアに録音した方が良い場面も多いと思います。個人的には、できるだけゲインを上げてプリアンプをドライブさせつつVHDで倍音を調整し、最後にトリムで下げる使い方が一番良い音がしていた気がします。ゲインが上がっている方がVHDの効きも良いようです。さらにPADをオンにしてミキシングでもVHDを試してみましたが、これもサンプル音源などに有効な使用法に感じました。
続いてLMC+ Moduleのテスト。こちらはミキシング時に各種トラックにインサートして試してみました。うっすら渋くかけるコンプでもないので、リダクションは多めです。THRESHOLDを一番低く設定しても、TRIMを上げることでさらにコンプレッションでき、定番のドラムのアンビエンスでは期待通りつぶれてくれました。固定のアタック/リリースは共にかなり速めに感じますが、ひずみは思っていたよりも控えめでした。
本機を使っていくうちに、MIX機能で原音とブレンドするパラレル・コンプ、SPLITを使ってコンプをかけた帯域を原音からカットして混ぜるバンド・コンプレッションなど、かなり幅広いサウンド・メイクが可能なことを発見しました(写真②)。

SPLITとSCOOPは本機独特の機能ですが、どちらも大きく位相を変化させるので、MIXコントロールと併用して良い結果が得られるまでいじり倒すのが良いと思います。コンプレッサーの個性的なキャラクターも相まって、かなり積極的なサウンド・メイクが可能です。
SSLの新しいAPI 500シリーズ、印象としてはかなりロック向きの2モデルでした。ぜひドラムの録音などで試してみてください。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年9月号より)