
入力インピーダンスを3段階で切り替え
エレクトレット・コンデンサー・マイクに対応
Felixは“アコースティック楽器専用のプリアンプ/ブレンダー・システム”と銘打たれています。ピックアップからの信号とマイクからの信号をブレンドして音作りできるのが売りなので、ほぼ弦楽器専用と言ってよいでしょう。録音でも高品位なプリアンプとして使用できそうですが、機能的にはライブでの使用が主となると思います。
最初にリア・パネルの端子とトップ・パネルのツマミを関連付けて機能を見てみましょう。まずインプットですが、XLRのマイク入力はinput 1のみです。楽器用の入力は2つあり、input 1に関してはマイク/楽器入力を切り換えて使用します。楽器入力には3段階のインピーダンス設定があり、使用する楽器のピックアップに合わせて最適なものを選べます。本機は楽器に仕込むタイプのエレクトレット・コンデンサー・マイクも接続可能で、12Vのファンタム電源を供給できます。
これらの入力はそれぞれトップ・パネルのch1/2に立ち上がり、GAIN設定とEQを施すことができます。フィルターは基本的にハイパスでの使用になると思いますが、ハウリングの防止用にサイド・パネルのDIPスイッチでノ
ッチ式に切り換えることが可能です。残りのEQはメイン写真の通りの構成ですが、MIDは同じくDIPスイッチで周波数帯を切り換えられます。右上のBOOSTノブは最大で+10dBのクリーン・ブースト効果を設定でき、中央下のBOOSTフット・スイッチでオン/オフが可能です。
次にAMP/phonesノブですが、これらはリア・パネルのamp out、tunerの出力、ヘッドフォンの出力を一括してコントロール。アンプ送りのソースはスイッチでmixか片方のチャンネルのみに設定できます。右端のMIXノブはブレンド機能がオンの場合にch1/2のブレンドの割合をコントロールします。またブレンドをオフにすることもでき、その場合は2つのチャンネルに別の楽器を立ち上げ、個別に音作りした上で左下のMIXフット・スイッチで切り換えができます。右端のMUTEフット・スイッチをオンにすると、tunerとヘッドフォン以外のすべての出力がミュートされるので、ステージ上でチューニングをする場合などに有効です。作った音は2系統のアウトから出力でき、PAのフロント卓/モニター卓やレコーダーなどいろいろな使い方が考えられます。この際の出力はmixか各チャンネル単独かを選択可能です。
特性がリニアでワイド・レンジなサウンド
効きの良いEQで直感的な音作りが可能
続いてミュージシャンにバイオリンとアコースティック・ギターを演奏してもらいテストしました。肝心のサウンドは、特性がリニアでレンジの広いもの。スタジオで使用されている同社のプリアンプと全く同じ印象でした。コンパクトな機材だからといって、プリアンプのクオリティが下がっている印象はありません。ピックアップを内蔵しているバイオリンはクリップ・マイクのDPA VO4099とブレンドして使用してみたところ、スタジオ・レベルでもかなり良いと感じる音で録音でき、ミュージシャンからも高い評価をもらいました。マイクのみの音ももちろんしっかりしているので、ピックアップの無い弦楽器でも音質改善に役立ってくれると思います。アコースティック・ギターは、EQがフラットの状態ではプリアンプのリニアな特性のせいかやや高域/低域が多く録れてしまうので、EQで少し音作りをしてみましたが、非常に効きが良く、直感的で素早い音作りが可能でした。ちなみにDIの方もかなりレンジが広めの印象ですが、音自体は太く安定していますので、ワイド・レンジなサウンドが苦手な人はEQで自分の好みに寄せるといいと思います。
今回はテストできなかったのが残念ですが、ウッド・ベースなどはライブで音作りに苦労しているケースがありますので、本機がとても有効なように思います。あとマイク入力にボーカル・マイクを立ち上げると、簡易的な弾き語り用のミキサーとしては極めてコンパクトで高品質なものとなりますので、そうした使い方もよいかもしれません。
駆け足で見てきましたが、一通りの機能が網羅されており、利便性は疑いありません。これだけの高クオリティのプリアンプをライブで使用でき、かつ手元でゲインを上げてライン・レベルでPAに送れるのは、音質面で大きなアドバンテージになると考えます。今回はスタジオでのテストになってしまいましたが、ぜひライブで試して、ミュージシャンやPAエンジニアの感想を聞いてみたいと思わせる製品でした。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年9月号より)