
アンプ回路内蔵でSN比も優秀
太い中低域と滑らかな高域で存在感ある音
本機の製造のすべてはオーストラリア国内で行われ、自社での厳密な品質管理がなされているようです。マイク本体はリボン・マイクらしくかなり重量感のあるものですが細部の質感や工作精度もよく、パッケージや付属品も含め高級感が漂っています。大きめのリボン・ユニットがフローティング構造でマウントされているのがグリル越しにもよく見えます。また本機はバッファー・アンプを内蔵しているので、48Vファンタム電源の供給が必要になります。
まずはアコースティック・ギターを録音してみます。ネック・ジョイント近辺から15cmほどの距離でマイキング。NTRは比較的重量があるため、マイク・スタンドごと倒れてしまわないよう、しっかりとしたスタンドを使用しつつ、セッティングに注意が必要かと思います。付属のマイク・ホルダーは角度の制限があるので、オプションのショックマウント(今回は未チェック)を使用するのがよいかもしれません。比較対象のマイクとしてROYER R-121、AKG C414EBを用意しました。
マイクプリはNEVE 1073を使いましたが、ストローク・プレイでのゲインは35dB辺りが適正となりました。アンプ内蔵のためリボン・マイクとしては扱いやすい出力レベルと言えます。SN比も気になることなく優秀です。音色は密度のある中低域となだらかにロールオフした高域が特徴的で、リボンらしい音色ですが不思議と古さは感じさせません。
やや近接効果が気になったのでマイクを少し離します。リボンゆえAKG C414EBのサウンドと比較すると高域のきらびやかなエア感は希薄ですが、嫌なピークも無いためEQでの補正もスムーズ。滑らかな高域と太い中低域が特徴的な、存在感のある音で録音できます。アルペジオでのプレイではさらに印象が良かったです。
ピーキーになりがちな声をスムーズに収音
オフマイクでの距離感表現も得意
ナレーションで試してみます。本機には必ずポップ・スクリーンを使用するべきです。リボン・ユニットとグリル面が近い構造なので、吹かれによるリボンの破損には注意を必要とします。ボーカルだけでなく楽器を録音する際も、常に使用してもいいと思います。
さて、このナレーションでは素晴らしい効果を発揮しました。存在感がありながらシビランスが気にならない滑らかな高域、タイトでパンチのある低域。ミッドレンジは耳に心地よく、近接効果も距離を調整すれば声のキャラクターを作る武器として使えます。
続いて女性ボーカルでもやはり素晴らしい結果となりました。スムーズなプレゼンスは耳に心地よく、ピーキーになりがちな女性ボーカルもうまくまとまります。もちろん楽曲やアレンジとのマッチングはありますが、はまれば素晴らしいボーカル・サウンドを聴かせてくれます。マイクに対する距離によってサウンドの変化があるので、さまざまな位置を試してみることをお勧めします。オン気味でセットする場合はマイクプリでのローカットが必要になってくる場合もあるかと思いますが、積極的にフィルターやEQを活用した場合も破たんは無く自然です。
さらにピアノでも試してみました。モノラルで1本、適当にセットしただけでしたが、何とも色気やつやのある音を聴かせてくれました。ピアノや弦楽器には、かなりお勧めの音色ではないでしょうか。ここで気づいたのは、オフマイクでのサウンドの良さです。十分な感度を持っているためオフでもサウンドがぼやけることはなく、適度な距離感を表現してくれます。双指向性のため、背面にノイズ源が無いかセッティングには気を遣いますが、オフでセットしても存在感のある音質は特筆すべきものでした。
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実際のレコーディングでは、ブラスやストリングスにもリボン・マイクを使うことが多いので、ぜひ現場でもNTRを試してみたいと思える音色でした。もう2クラス上のリボン・マイクと比較してもそん色の無い、優れたコスト・パフォーマンスを誇っています。リボン・マイクの導入を考えている方には試聴をお勧めしたいです。ただし本機のリボン・ユニットは繊細ですので、使用時以外にはスクリューで固定するのを忘れないでくださいね(写真①)。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年8月号より)