
重量感のあるスチール製のケース
−10dB PADとハイパス・フィルターを搭載
本誌の読者であれば“DIとはなんぞや?”は、既にご承知のことと思いその説明は省きますが、一般的にレコーディング・スタジオやライブ会場において、DIはミキシング・エンジニア側が信号中継器として必要なものであるため、現場では既に設置されているケースが多く、プレイヤーがそれを操作することはほとんどありません。故にプレイヤーはケーブルの抜き挿しをする際にノイズ・トラブルに細心の注意を払わなければなりませんが、現場が混沌としているときにはしばしばミスも起こり得ます。そんな悩みを解決すべく、本機は高音質のDI機能に出力ミュート用のフット・スイッチを備えたことにより、ミキサーやスピーカーへのノイズ・ダメージを与えず出力信号を遮断できるようになりました。さらに、チューナー・アウト端子(ミュート中も常時出力)も備えており、メーカーがあえて具体的にベースやアコギのプレイヤー向けにセールス・ポイントを挙げていることからも、楽器プレイヤー側の利便性を高めた構成となっています。
本体は頑丈なスチール製ケースで適度な重量感があり、ケーブルをつないで床に置いても安定します。電源は付属のAC/DCアダプター、またはミキサーやプリアンプからの48Vファンタム電源で供給します。信号入力は楽器用フォーン・プラグのモノラル入力端子のみ。主出力はミキサーへ直接送るXLRバランス・アウトと、アンバランス・フォーンの“AMP OUT”端子の2系統を備えています。AMP OUTからはトランスによるアイソレーションでグラウンド・ノイズに強いハイインピーダンス信号が出力されていますので、別の楽器用ペダル・エフェクターやギター/ベース・アンプなども直接つなぐことができます。特筆すべきは、先述したようにこの2系統の主出力が本体のフット・スイッチでミュートできるという点。ミュート中は本体の赤いLEDで確認可能なので、サブ出力のチューナー・アウトを利用する際にも分かりやすく便利ですね。
そのほか、-10dBのPADとハイパス・フィルター・スイッチの役割は一般的なDIと同様ですが、位相反転スイッチはXLRバランス・アウトとAMP OUTの両方にそれぞれ付いており、逆相を利用した高度なフィードバック対策も可能です。また、GNDリフトは48Vファンタム電源を使用する際にも通電するように設計されています。
ノイズの影響が少なく
粒立ちの良いサウンド
ではまずDIの音質面をチェックするためにスタジオでの利用を前提にDAWに入力して聴いてみましょう。エレアコをつないでXLRバランス・アウトから出力される音質をチェック。基本的にはFETバッファー回路を通るのでローインピーダンスとなり、ノイズの影響も少なくなり音の粒立ちは良いと感じます。色づけは特になく、とてもフラットで高音質ですね。ここで試しに“MUTE”スイッチを踏んでみます。スイッチングや当然ケーブルの抜き差しをしてもノイズは一切発生しません。特にバンド録りやライブ現場でほかの音決め作業の最中に“いったん抜いていいですか~?”“あ~チョット待ってください!”という会話も、これがあれば作業もスムーズに進みそうです。MUTEはプレイヤー、エンジニアの双方にありがたい機能だということが実感できます。
そして次に、DIの使用頻度が一番高いと思われるベースで試してみましょう。ベース音はDIによってかなり音色が左右されるため、一般的なものを嫌って自前のプリアンプなどを持ち込むプレイヤーも少なくないですが、本機での出音はとてもしっかりしています。粒立ちはもちろん、ローエンドまで気持ち良く出ているので、エンジニア自身がコンプやEQで積極的に音作りを行いたい際のベースの入口としても全く問題ない良音質でした。もちろん、AMP OUTからベース・アンプに送ってライン&マイクの同時録音も可能です。残念ながらチェック機が1台しか無かったので、キーボードなどのステレオ音源に2台つないで個体差によるシビアな位相のチェックまでは行えなかったですが、さまざまなライン楽器を高音質で取り込めるのは間違いないでしょう。
DIはマイク同様に音の入口となる大切な部分です。小生も“DIでこんなに違うのか”と思う現場を多々経験してきました。今お使いのDIも音質/機能面から一度見直してみてはいかがでしょうか。ちなみにMUTE機能は本体にリモート用の端子も付いており、別途アンラッチ式のスイッチをケーブルでつなげば、離れた場所からでもミュート操作可能とのことです。
- ▲リア・パネル。左からチューナー、リモート(共にフォーン)、アウトプット(XLR)、ACイン。サイドにはインプットとアンプ・アウト(それぞれフォーン)も備える
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年7月号より)