
DA部やヘッドフォン・アンプ部には
BURR-BROWNの高品質パーツを使用
HA-P90SDは本体にUSB端子を備えており、Mac/Windows/Android/iOSの各デバイスを接続し、DACとして使うことができます。音楽ファイルの再生には無償アプリケーションのTEAC HR Audio Playerを使用。これは各OSに対応したものが用意されており、DSDネイティブ再生や最高24ビット/192kHzのPCM再生をサポートします。単体のオーディオ・プレーヤとしては、本体に入れたmicroSD/SDHC/SDXCカードからファイルの再生が可能。対応フォーマットはDSF/DFF/WAV/MP3/AAC/FLACで、大容量バッテリーのためDSDファイルでも6時間の連続再生が行えます。
DAコンバーターはDSD対応レコーダーのTASCAM DA-3000と同じく、音質に定評のあるBURR-BROWN PCM1795を採用。またディスクリート構成のヘッドフォン・アンプ部には、低ひずみが特徴のオペアンプBURR-BROWN OPA1602 SoundPlusが使われています。マスター・クロック用の水晶発振器は44.1kHz系/48kHz系の2基が搭載され、再生するファイルのサンプリング周波数系統に合わせた正確なDA変換を実現。USB接続時も、アシンクロナス・モードに対応しているのでコンピューター側のクロックに依存せず、本体内部の高精度なマスター・クロックを使用できます。
出力レベルは4段階の内蔵アッテネーターと本体のハイ/ローゲイン・スイッチの組み合わせで、8段階の設定が可能。さまざまなインピーダンスのヘッドフォン/イヤホンに最適な出力レベルを得ることができ、別途用意された音量ツマミでさらに細かく調整可能です。そのほかステレオ・ミニ端子を備えており、本体スイッチでアナログ・ライン・イン/S/P DIFイン(コアキシャル/オプティカル)のいずれかに切り替えられるため、外部プレーヤーからのPCM信号を入力することができます。
聴いた瞬間に鳥肌が立った
ストレートかつリアリティのある音
今回はAPPLE iPhone 6 Plusに入れたHR Audio Playerからの再生音と、内蔵プレーヤーの両方をチェック。まずはマイケル・ジャクソン「ビリー・ジーン」(24ビット/176.4kHz)を試聴してみたところ、69.6(W)×123(H)×21.5(D)mmというサイズからは想像できないほど素晴らしく、聴いた瞬間に鳥肌が立ちました。存在感のあるボーカルとビシッと止まるキック、ファットなベースのグルーブが気持ち良く、金属的なボーカルの倍音までしっかり聴こえます。演奏の熱量が損なわれず、ストレートに伝わってくるさまに感動しました。低域は電源部がしっかり設計されているので分厚く、スピード感もあります。ナチュラルで立ち上がりが速く、生演奏の振る舞いに近いので音量を上げたくなる心地良い音です。周波数バランスは、サイデラ・マスタリングでもマスター・レコーダーとして使っているDA-3000と同じ方向性。低域がしっかりとしたピラミッド型で、色付けが少ないです。続いてJiLL-Decoy association「My One And Only Love」(1ビット/2.8MHz)を試聴。ボーカルの息遣いや鍵盤の重みが感じられるピアノのタッチ、ウッド・ベースの胴の響き、丸く抜けの良いエレアコ、スネアのブラシ・ワークの繊細なニュアンスまで、演奏する姿が目に浮かびます。
使用したヘッドフォンは、インピーダンスの異なるAKG K271(55Ω)とSENNHEISER HD600(300Ω)の2機種。先述の通り本機では出力レベルを調整できるのですが、どちらも音量ツマミが1時くらいでちょうど良い大きさになりました。特にインピーダンス300ΩのHD600でも十分な大音量で聴けるのはうれしいですね。
内蔵プレーヤーとiPhone 6 Plus+HR Audio Playerの音質の違いについては、内蔵プレーヤーはみずみずしく透明感があり、細かなフレージングまで鮮明に聴こえます。iPhoneの方は、前に出て来るパンチのあるサウンド。明る過ぎないマットで密度のある音は、ポップスやロックによく合います。両者の音質の違いは、マスタリングでジャンルによって機材やケーブルを換えるようなニュアンスなので、ジャンルでの使い分けも楽しそうです。
HA-P90SDがあれば、誰でもスタジオでアーティストが聴いているリアルな音を体感できます。技術者の方々の努力と音楽への愛情を感じる素晴らしい機材です。


droidデバイスをつなぐためのUSB端子、iOSデバイスを接続するためのUSB端子が備えられている

(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年5・6月号より)