
指向性はカーディオイド固定
−10dBと−6dBの2つのPADを装備
オリジナルのU47 FETは、チューブ・コンデンサー・マイクU47の後継機として増幅回路をトランジスター化したモデル。大音量アンプの手前に設置できるなど、U47に比べて高い音圧レベルの収音も可能になり、時代の音楽に合った進化を見せました。こうした特徴を備えつつ、U47のキャラクターを受け継いだカプセルにより、伝説的なレコーディングの多くに貢献したのです。そのU47 FETが再生産され、入手しやすくなったことは我々サウンド・クリエイターにとっての喜び。NEUMANNは今回、オリジナルの設計図や回路図を基に再生産を行ったそうです。製造番号についても、最終生産時の番号から継続したものが付けられています。
それではU47 FET Iのスペックを見ていきましょう。外観はオリジナルと変わらず、−10dBのPADとローカット・フィルター(写真①)、−6dBの出力用PAD(写真②)があるだけのシンプルな仕様。指向性はカーディオイド固定です。出力レベルは当スタジオ所有のNEUMANN U67より−12dB程度、AKG C414より−6dBほど低く、少し小さい印象。ノイズ・レベルは特に問題無く、この価格帯のマイクとしては標準的なレベルだと思います。


オリジナルU47 FETとそっくりの
中域が強調されたパワフルなサウンド
まずはボーカルに使用してみました。中域が強調され、高域と低域が少しずつロール・オフしたサウンドです。ダイナミック・マイク的で芯がありますが、当然コンデンサー・マイクならではの繊細さも持ち合わせており、絶妙なバランス。声量のあるロック・ボーカルなどに適した、唯一無二のサウンドです。まさに往年のU47 FETそのもので、懐かしさを感じました。万人受けする音ではないと思いますが、このマイクにしか出せないものがあります。最近の音楽のサウンドにつまらないものが多いのは、こうした個性的な機材が敬遠され、安価でそこそこの性能を持った機材ばかりがもてはやされる傾向にあるからではないでしょうか。
次にアコースティック・ギターの録音に使ってみました。やはり中域が強調され低域がロール・オフしており、ロック的なサウンドです。例えとしては極端かもしれませんが、MARTINのアコギを収めるとGIBSONのような力強い音になります。これを良しとできるのが、まさにレコーディング芸術の世界だと思います。
続いてはドラムに使用。これはもう間違い無し! U47 FETの代名詞とも言えるロック・ドラムのサウンドです。とりわけキックには最適で、タイトな低域とアタッキーな中域の共存した音が収められます。もちろんアンビエンス・マイクとして立てても、芯のあるロックなドラム・サウンドが得られます。思い切りコンプレッションしたときに輪郭がボケないのもロック向きです。先述の通りややダイナミック・マイク的な傾向があるので、1970年代ロックで聴けるようなキックやベース・アンプの音が欲しいときにもってこいの一本だと思います。決して買い求めやすいマイクではありませんが、当時はこうした良質な機材が豊富にあったからこそ、歴史に名を残すタイトルが次々に生み出されたのでしょう。
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昨今は音楽制作になかなかお金がかけられない時代ですが、“芸術文化の発展のためには多少コストをかけてでも良いものを作る”という心意気が必要なのではないでしょうか? そういった意味でも、私はこのU47 FET Iを大歓迎します。決して万能ではなく、安くもありませんが、このマイクにしか出せない音が確実にあります。気概のある方はこのマイクを購入し、すてきなロック・ミュージックを作ってみてはいかがでしょうか?
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年5・6月号より)